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序章 北海道フリー獲得旅


1 大阪→坂出

春の足音が聞こえ始めるように感じる2月下旬、列車でのんびり旅を楽しむ人たちから高い支持を得ている「青春18きっぷ」の発売が始まる。1回分の使用で日付が変わるまで1日中、JR在来線の料金不要列車(新幹線や特急・急行列車ではない大半の列車)に乗ることができる。悪天候や事故などによるトラブルがない限り、どのような路線であっても列車がほぼ予定通りの時刻に運行されるこの国では、あらかじめ列車の乗り継ぎを調べておいて、1000kmを越える長距離を移動することも可能である。もちろん、少しばかりの遠出でササッと日帰り旅行に興じるのもよい。利用する路線や地域にもよるが、片道1時間ちょっとも列車に乗っていけるところであれば、ほぼ1回分のもとはとれると考えてよい。
2018年3月30日、その青春18きっぷ1回分を使って、午前中に小旅行を企んだ。大阪を7時前に出発して姫路、岡山と列車を乗り継ぎ、瀬戸大橋を渡って香川県の坂出に向かう。坂出での滞在時間は15分ほどの予定。これで14時頃には大阪に戻ってくることができる算段である。わずか15分の滞在のために四国までなぜ足を運ぶのか。それは次のところで述べることにしよう。
平日の朝は早くから新快速の運行があるため、大阪から姫路までの移動は1時間ほど。土曜・休日ダイヤの日だと明石まで快速運転の列車(地元では「快速」と案内される)が最速となるため、1時間半ほどを要する。姫路では階段を下り上りして5分の接続時間の間に乗り換えなければならないが、通勤通学時間に当たる列車であることから立席もかなり多い。姫路から岡山までは普通列車で1時間半ほどの道のり。この時期の18きっぷ利用者はほとんどが岡山、さらにはその西へと歩を進めることから、誰もが空席ができるところを眈々と狙っている。相生あたりまでの約20分が勝負どころである。
網干で眼前の席が空く。迷わず着席して時刻表を確認する。岡山での乗換時間は3分。タイトではあるが何度も利用している駅ということもあり、もとより階段の近いところに停まる車両を選んで乗っている。調べることは1つだけ、岡山の到着番線だ。これによって瀬戸あたりで早々に立つか、西川原(就実)まで座っているかが決まる。
岡山では首尾よく3分乗り換えに成功。快速マリンライナーの乗客となる。座席はそれなりに埋まる程度で、通路側の席を確保できた。40分ほどの乗車時間で、何度も利用している区間となれば、窓側の席に固執する必要はない。宇野線内のすれ違いで少し時間を要したようだが、坂出には2分ほどの遅れで到着した。改札口を出て、今回の目的地であるみどりの窓口に向かう。3名の待ち人が列を作っていた。


2 坂出→大阪

着いたときに窓口でやりとりしていた人こそ、大陸的なやりとりが続いて気を揉んだが、続く2名がサクサクと進んだおかげで、残り時間5分のところで窓口氏のところに到達した。オーダーは「北海道フリーパス」1点。これは、JR北海道線内の在来線の特急列車の普通車自由席及びジェイ・アール北海道バス(一部路線を除く)が利用できるきっぷで、普通車指定席も6回まで利用できる。7日間有効で、ねだんは26,230円だ。購入時に使用開始日を設定しておく必要があり、今回は4月8日を選んだ。これでその週の土曜となる14日までの7日間、道内を列車やバスで巡りたい放題となるのだ。
実はこのきっぷ、JR四国に限らず、他のJR各社でも取扱がある。ならば地元である大阪(JR西日本)や旅先の北海道(JR北海道)で購入すれば用が足せるはずなのだが、なぜわざわざ海を越えて四国まで足を運んだのか。それは3月7日に発表された、何とも壮大な企画に乗っかるための重要案件なのであった。
その企画とは、「青函トンネル&瀬戸大橋線開業30周年記念企画『四国へ行こう&北海道へ行こうキャンペーン』」というもので、ちょうどこの年、2018年の3月と4月に青函トンネルと瀬戸大橋の開業30周年を迎えるにあたり立ち上げられたものである。期間こそおよそ1年間(3月10日から翌年4月10日まで)と長期であるものの、その特典となる限定カードの受け取り条件が「(JR四国の窓口で購入した)北海道フリーパス」の利用者であることだったのである。ちなみにJRのきっぷはどこで購入しても同じように見えるかもしれないが、きっぷの模様(地紋)の中に刷り込まれているアルファベット(略号)が各社で異なっている。さらには、券面表示においても発行箇所が印字されることに加えて、どの会社で発行されたかも記号によって簡単に判別できるようになっている。したがって、このキャンペーンは「JR北海道とJR四国の共同企画」という、あまり類例のないパターンのキャンペーンであり、この逆パターンとなる「(JR北海道の窓口で購入した)四国フリーきっぷ」の設定についても知ることとなったのである。
 ともあれ、これで準備は整った。JR北海道の限定カードの受け取り場所は函館・新函館北斗・札幌・旭川・帯広か釧路の5か所。新函館北斗はみどりの窓口なので営業時間も長めだが、他の場所はすべてツインクルプラザとなっているため、夕方あたりまでにたどり着かなければならない。どのようにすれば5か所の攻略が可能か、それを考える時間が坂出を出てから大阪に戻るまでの約4時間の活用時間となったのである。大阪―坂出間の片道は227km、運賃は4,000円を充分超えることから、これからの大いなるミッションに向けての投資としてみると、なかなか有意義な小旅行だったのではないかと自賛しておく。

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