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②仮題:「網代裕介」

 昼間の鬼怒川行きのバスに乗った。次の暮らしは和服を着て小走りに走り、痩せた女に虐められながら暮らすしかない。泣きながら窓の外を見た。

 つい、川口市のイオン前で降りてしまった。人通りの多い道に、安い下着屋、UQモバイル、3階建てのマクドナルド、角にサイゼリアが並んでいる。その中をぐんぐん歩く。

下着屋で靴下を買った。やけにカップの大きなブラジャーが窒息しそうに陳列されている。歩き通しだったので、UQモバイルの店内のソファで休んだ。眠かった。とても暑いし、皮膚がすっかり干からびてしまった。親切な男性の店員が閉店直前の店から出てきて私についてきた。

 男が私に「死なせたりしない」と言う。電車の走る音がやけに大きく聞こえる。私はラブホテルでAVを見ながら寝てしまった。ふと目覚めると、テレビで頭のおかしな女性が100人の裸の男性に囲まれてよだれを垂らしていた。風呂場のほうで大きな音がして二人で驚く。怖くなり体が震え、動けない私を置いて、男が見に行った。鏡が落ちて割れていたと私に報告した。エアコンが効きすぎて寒い。布団を掛け、また沈むように眠っていく。男が話しかけているが、眠気に耐えられないのだ。

 「隣の犬が鳴きやまない。見に行くと黒い門に閉じ込められた犬が、犬歯を見せて怒っていたんだ。屋敷の中で赤ちゃんが泣いているのか、それとも部屋を丸く走り回っているのかわからないがね」

 朝になり、袋に入ったスティック状のパンを分け合った。インスタントコーヒーを飲んだ。また夜はここに来るようにと男が言う。忘れないようにするためだと男が私の体にしつこく快感を刻み続ける。

 マクドナルドで朝食をもう一回食べた。あんな貧乏なパンを食べただけでねえと窓の外を見ながら思った。隣のテーブルで若い女性が二人で話している。性的で、日常的な会話だ。片方が好きな男の話をしている。その好きな男がどうやら私のことを死ぬほど好きらしいと話している。片方はそれを聞く。昼間の夏の川口市のアスファルトの道のゴミはいつまでも片付かないし、サイゼリアのトイレはいつも混んでいて…、布団にカバーを掛けたりしないし、洗うこともない。湿り気は知らない人の汗だろう。化粧水くらい塗りたいのにと思う。ああ、吐き気と頭痛が止まらない。生まれた時から止まったことがないような気もする。

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小説を書きながら一人暮らしをしています。お金を嫌えばお金に嫌われる。貯金額という相対的幸福には興味はありませんが、不便は大変困るのです。 ぜひ応援よろしくお願いします!