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汚職・不正操作・スキャンダルのアメリカ大統領選挙史

アメリカ大統領選挙と言えば、アメリカだけでなく世界中の国々にとっても一大イベントです。衰えたとはいえ、アメリカはまだまだ世界一の大国。

そのトップとなる者は、ある意味その時代を象徴している人物でもあります。現実的な話をすれば、向こう4年間のおおよそのアメリカの政策を推量できるし、それによる外交・経済・軍事・法制度、ありとあらゆる事柄に関わってきます。強大な権力を握るために、動員される人員もコストも他とはケタが違います。

過去の歴代の大統領選挙を見ても、汚職・不正操作・スキャンダルが山ほどありました。そんな過去の「酷い選挙」を振返ってみましょう。


1876年 第23回選挙 - 共和党と民主党の「バーター取引」

 共和党ヘイズ vs 民主党ティルダン 

1876年当時、南北戦争の終結から11年経過していましたが、未だに連邦と旧連合国の南部諸州のわだかまりは存在していました。

南部諸州では、戦争終結後から旧連合国の旗など南を象徴するものを撤回したりなど連邦への再統合が進んでいましたが、よりドラスティックな統合を求める共和党急進派の影響が強まり、1868年から連邦軍を南部諸州に進駐させ、黒人への投票権の付与など連邦の政策を半ば強制的に実行させました。

KKK(クー・クラックス・クラン)が暗躍したのもこの時代です。

立候補をした民主党のティルダンはニューヨーク州知事で、悪名高い政治結社「トウィード・リング」を粉砕し賞賛を得ていた人物。

一方、共和党のヘイズはオハイオ州知事ですが、清廉であるという以外に特に取り柄のない人物。

選挙の結果、184票を獲得したティルダンが165票のヘイズに勝利しましたが、大統領になったのはヘイズでした。

実はこれ以外に結果がはっきりしない南部の3州(フロリダ州、ルイジアナ州、サウスカロライナ州)の20票が存在し、 両陣営はお互いの勝利を主張しました。共和党は「民主党が南部の黒人を脅して不正投票させた!」と非難し、20票すべてを共和党ヘイズの票としてしまいました。

結果、ヘイズが1票差でティルダンに勝利しました。
当時まだ連邦軍が南部諸州に駐在していたため、そのような無茶苦茶な手段が通用してしまったのです。
南部諸州はこの結果に目をつむる代わりに、連邦軍の南部諸州からの撤退を要求
この共和党と民主党の「バーター取引」は、公式な文書は存在しませんが、アメリカの歴史家は何らかの裏のやり取りがあったものと見ているそうです。

1884年 第25回選挙 - 醜悪な誹謗中傷合戦

民主党クリーヴランド vs 共和党ブレイン

 1864年のリンカーンの勝利から20年に渡って共和党が政権を維持し続けていましたが、ヘイズと次のガーフィールドも失業問題や労働者のストライキに解決策を提示できず、人々の不満は高まっていました。
民主党のクリーヴランドは敏腕のニューヨーク州知事で、革新的な政策が共和党員からも評価されていた人物。一方共和党のブレインは独立戦争の英雄で、その後上院議員、国務長官まで勤めたベテラン。 

選挙は「合衆国史上最も醜悪」と言われたほどで、互いに誹謗中傷をしあい建設的な議論が人々の意思決定に意味をなしませんでした。

まず民主党が過去のブレインの悪業三昧をことごとく暴露し、大統領にふさわしくないと非難。すると共和党は「クリーブランドには隠し子がいる」と非難しました。
これはその時の選挙ポスターです。

さらに母親が保護施設にいることが分かるとクリーヴランドへの批判は高まりますが、当のクリーヴランドが誠実にこのことに対して謝罪し、若い独身の頃に確かにある未亡人と合意の下に子どもを設けたこと、その後母子への養育費は欠かしていないことを明らかにすると、一気に世論はクリーヴランド支持へ傾き、僅差ではありましたがクリーヴランドが勝利を収めたのでした。

1888年 第27回選挙 - 共和党の票買いと英大使スキャンダル

共和党ハリソン vs 民主党クリーヴランド

 1884年の選挙で勝利し、20年ぶりの民主党政権を担ったクリーヴランドでしたが、州際通商法など経営者の不当で不正な行為を制限する革新的な法律は、経営者と結んだ裁判所によって書き換えられ骨抜きにされてしまった。
クリーヴランドが2期目を目指した選挙ですが、一般投票ではクリーヴランドが勝利(46.8% vs 47.8%)したものの、選挙人投票ではハリソンが233票 vs 168票で上回り、ハリソンの勝利となりました。

この選挙では共和党が複数の陰謀に加担していたことが分かっています。

まず、共和党のウィエイアム・ダドリーという男が、インディアナ州のまとめ役にカネを渡し、5ブロック全ての票を共和党に流していました

また、同じく共和党のジョージ・オズグッドビーという男が、イギリス系アメリカ人を偽って駐米イギリス大使に手紙を書き、「どちらに投票すべきか」を問うた。うかつにも駐米イギリス大使サックビル=ウェストは「イギリスは民主党のクリーヴランドが望ましいと思っている」と返信をしてしまった

これが新聞に暴露されると、イギリスに反感を持つアイルランド系の票が一気に共和党に流れてしまいました。
これがきっかけでクリーヴランドは大票田のニューヨーク州を落とし、僅差での敗北につながったのでした。

1964年 第45回選挙 - 「極右のゴールドウォーター」キャンペーン

民主党ジョンソン vs 共和党ゴールドウォーター

1963年11月、圧倒的なカリスマを持った大統領ケネディが暗殺。
全米中が嘆き悲しむ中、副大統領だったジョンソンが大統領に繰り上げされ、選挙までの約1年間代打を勤めました。

対抗馬の共和党候補ゴールドウォーターは、すったもんだ揉める共和党を何とか糾合し選挙に望みますが、ゴールドウォーターが失言をしそれを民主党があげつらいネガティブキャンペーンを貼られるという形で終始展開。それにより、ゴールドウォーターは一般層からの支持をあまり得られず、圧倒的大差でジョンソンが勝利しました。

ゴールドウォーターの有名な失言に、

「クレムリンの男子便所にデカいのを一つ落としてやれ」

と、糞を核爆弾を見立てた下劣なものがあります。さらに、ベトナム戦争で戦略的核兵器を使うべきであると提唱したことがあり、ジョンソン陣営はこういった過去のゴールドウォーターの発言をあげつらい、「極右のゴールドウォーター」というイメージでキャンペーンを展開しました。その代表的なものが、「Daisy Girl」と名付けられたテレビコマーシャル。

覚えたての数字で「ワン…ツー…スリー…」と花びらをかぞえる女の子。花びらを数えきると、急に男の声がフェードインし10のカウントダウンが始まり、核爆発のカットになる、という衝撃的なもの。

さらにゴールドウォーター陣営のキャッチコピー

「彼は正しい、それが本音」("In your heart, you know he's right")

は、ジョンソン陣営によって

「彼はやりそう(核兵器を使いそう)、それが本音」("In your heart, you know he might")

「彼は極右、それが本音」("In your heart, he's too far right")

などと茶化される始末でした。

2000年 第54回選挙 - 最高裁までもつれた票の集計

 共和党ブッシュ vs 民主党ゴア

このヒドい争いはまだ記憶にある方も多いでしょう。この選挙で勝利したブッシュは、テロとの戦いの大義のもと、アメリカを泥沼の戦争に引き込んでいきます。
ブッシュはアメリカ国民のみならず世界中の人間から蛇蝎のごとく嫌われた男で、2000年の選挙でゴアが勝っていたら…と多くの人が嘆息したものです。

選挙は大接戦となり、多くの州で拮抗。最終的に25人の選挙枠を持つフロリダ州での勝敗が全てを決する形勢になりました。

フロリダ州でも同じく拮抗し、開票結果ブッシュが290万9135票、ゴアが290万7351票。わずか1784票差。ゴア陣営は、機械の読みとり失敗による無効票があるとして再集計を要請しました。
一方ブッシュ陣営は、再集計の中止を求めて裁判所に提訴する事態にまで発展しました。州裁判所は手での再集計を認め、一部の無効票が算入されその差はわずか150票にまで縮まりました。しかし、ブッシュ陣営が最高裁に差し止めを求めこれが確定したため、とうとうブッシュの勝利が確定しました。

まとめ

世界が注目するアメリカ大統領選挙は、世界で一番巨大な筋書きのないドラマ。余計なスキャンダルや心を惑わされるず、アジェンダや政策に関心を持ち続け、不正や不法に目を光らせるのが民衆の役割といったものでしょう。

参考文献:人物アメリカ史(上) 新潮社 ロデリック・ナッシュ

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