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空中都市ラピュタ=奴隷交易国家説

スタジオジブリの名作「天空の城ラピュタ」。

メインの舞台は空中都市ラピュタだけど、作中はかつてラピュタがどのような街でどんな歴史を歩んだかを詳しく説明してくれてはいません。

作中で分かるラピュタに関する情報は以下の通り。

・かつて航空技術が発達し、空に浮かぶ都市を建設した王権が現れた

・高度なテクノロジーを有し、軍事力で地上を支配した

・膨大な富を徴収していた

・王族と大衆が住まう場所は明確に分かれていた

・何かの理由で人々は島を捨てて地上に降りた

・王権は地上では権勢を失った

・なぜか王権は島の富を地上に持っていかず置いていった

これくらいです。ですが歴史好きとしては、古代帝国ラピュタがどのような国だったのか気になります。そこで、歴史や経済の知識を駆使して、既存のストーリーから推察できるラピュタの姿を想像してみたいと思います。

ムスカ氏の「旧約聖書にある、ソドムとゴモラを滅ぼした、天の火だよ。ラーマ・ヤーナでは、インドラの矢とも伝えているがね」というセリフから、この世界は地球であり、何らかのきっかけで今我々が住む世界と異なる歴史を歩んだ並行世界であると考えられます。そのため地球の歴史の法則も適応されるというのが前提です。

異常なまでの航空技術の発達の理由

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ラピュタがどんな国家だったかを考える前に、なぜあの世界では航空技術が異常なまでに発達したかを考えないといけません。

現在でも航空技術は、「旅客や貨物の運輸」「軍事」「情報通信」以外にほとんど利用されていません。現在の我々の世界では航空技術より前に海上、その前は陸上の運輸・軍事・情報通信が発達しましたが、ラピュタの世界では陸上交通は鉄道があるくらいで、海上交通は一切出てきません。無線技術はあるようですが、インターネットのようなものはないようです。シータとパズーの世界はラピュタ崩壊から700年後の話なので、もしかしたら技術が絶えたということなのかもしれません。とにかく、圧倒的に陸上・海上のほうが重要なはずなのに、それを飛び越えて航空技術が発達している。それはなぜか

仮説として、航空交通の方が、陸上・海上交通よりも低コストで安全だったからではないかと考えます。

まずは技術革新があったはずです。飛行石を加工してエネルギーに変える技術など、安価に航空機を動かすことができるようになった。タイガーモス号の船内でフラップターにオイルを入れるシーンがあるので、おそらく飛行機の燃料は複数あったと考えられます。

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次に何のために航空機が必要だったのか。いくつか理由が考えられますが、交易が目的という説がまずは一つ。近隣交易のためには航空機は必要ありません。わざわざ飛行機を使うということは、遠く離れた地域に交易にいく必要があったということ

遠く離れた交易地にいくなら、なぜもっと安価なはずの陸上・海上交通を使わなかったのか。その理由は治安の悪化にあるのではないかと思います。

700年後の世界でドーラ一家みたいな賊が白昼堂々町を歩いているように、あの世界では治安が極度に悪かった可能性があります。あるいは、古代世界のように、国家の支配領域の外には、狩猟採集民族や遊牧民族、山岳民族のようなすばしこく腕っぷしの強い連中がゴロゴロしていた。国家に属する人間は、そういった野蛮人に対して敵対心をむき出しにしました。ドーラ一家に対して親方を始め町の人が歯向かったのはそういった感情からでしょう。

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こういった連中に殺されたり物品を奪われないように、航空機を使用してスピーディーに交易を行わなくてはならなかったのかもしれません。それほど奪われたら困るものを輸送していたのでしょう。

では何を交易していたのか。航空機に積載できる荷物の量は限られます。穀物などは割に合わない。軽くて単価が高いもの。考えられるのは、宝石、精密機械、兵器、そして奴隷です。ドーラ一家がシータをさらおうとしているように、あの世界では人をさらって売り払うのが普通だった可能性があります。

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なぜ人を買う必要があるかというと「労働力が少なかったから」に決まっています。手に入れた労働力は、農業や鉱工業といった労働集約産業、そして後に出てきますが、空中都市の維持のために利用されていた可能性が高いです。

初期国家では農業が主産業であったものの、非常に労働集約的な産業で特に多くの人員を必要としました。そのため、他国や非国家地域に攻め入って人を獲得し、労働力として働かせることが重要だったのです。同じように、人口が少ないことでコンフリクトが起きていた可能性は十分に考えられます。

なぜ空中都市が発達したか

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空中都市というのは、考えれば考えるほど非効率です。水が不足する、拡張性が低い、空中都市同士の衝突など安全面、空中なので空気が薄い、等々。これらの非効率性を補って余りある理由があったからこそ、人々は空中に都市を作ったわけです。それはなぜか。三つ説を上げてみます。

一つ目は疫病説。地上で疫病が発生し、人々は空中に逃げ、そのまま定着した。

二つ目は治安悪化説。反乱や賊の発生により国家が制御できないほど地上の治安が悪化し、それから逃れるために空中に逃げた。

三つ目は気候変動説。洪水や地震が多発し、地上は危険であるとして空中に逃げた。

もしかしたらこれらの組み合わせ、もしかしたら全部かもしれません。そしておそらく、空中に逃げたのは、国の王族や指導層のみだったに違いありません。空中都市はラピュタ以外にも複数あったことがオープニングの映像から予測でき、これらはつまり地上から空に逃げた王宮だったのはないかと思われます。

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ラピュタはその中でも最大級の規模だったはずですが、大部分が王族のための施設であり、民衆の居住用に設計されていません。

パズーが水の底を覗くと下に街が沈んでいた描写があります。おそらくあれがラピュタに住む住民の居住区です。水没しているということは上下水インフラすぐそばある可能性があります。排水されないということは地下空間であり、はっきりいって居住するには劣悪な環境です。

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彼らはおそらく、王宮の運営維持をしていた奴隷的立場の人間で、インフラ維持や王族の各種世話のための労働をしていたと思われます。ロボットはこれら奴隷の監視役も兼ねていた可能性もあります。

支配階級と民衆には明確な区分があり、おそらく民衆は航空技術を有しておらず、支配階級によって独占されていた可能性があります。唯一航空技術を有していた可能性があるのがドーラ一家のような賊ですが、コア技術を持つ支配層よりも数段劣った技術だったに違いありません。

ラピュタはなぜ地上を支配できたのか

ムスカ氏はこのように述べています。

ラピュタはかつて、恐るべき科学力で天空にあり、全地上を支配した、恐怖の帝国だったのだ

他にも空中都市はあったにも関わらず、なぜラピュタが地上を支配することができたのか。

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ムスカ氏が言う「恐るべき科学力」というのがヒントになります。これを聞いたらインドラの矢のような大量破壊兵器を想像しますが、もっとも重要な技術だったのが「巨大な飛行石」であり、これこそがラピュタが他国を従属させることができた理由ではないかと考えます。

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おそらく飛行石の生成とエネルギー化はラピュタ王族のみが独占的に保有する技術であり、地上の民衆はおろか、他の空中都市も決してマネできなかったのではないかと思われるのです。

かつて古代中国の殷・周王朝は、青銅器に銘文を鋳込む特殊な技術を有していたました。この青銅器は諸侯が儀式に使用するもので、高度な技術で容易に模倣できるものではありませんでした。諸侯はわざわざ王の元に赴き、臣下の礼をとって下賜してもらう必要があったのです。

これと同じで、効率のよいエネルギー源である飛行石を使用し、王宮を空中に浮遊させ、その権威で地上の民衆を支配するには、諸王はラピュタに頭を下げて飛行石を使用させてもらうしかなかったのです。なお、ラピュタが滅びた後、他の空中都市も滅びているところから、ラピュタの技術者による定期的なメンテナンス、または新たな飛行石との交換が必要だった可能性があります。もしかしたら技術だけでなく、飛行石が採石できる地域も限られていたかもしれません。その場合、ボムじいさんが潜っていた地下はラピュタ帝国の巨大採石場だったのでしょう。

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ラピュタ=奴隷交易国家説

さて、本題に参ります。いったいラピュタはどのような経済で回っていたのかを検討する必要があります。

国家の本質は税金を取ることにあります。人類学者ジェームズ・C・スコットが「税(それが穀物か労働力か正金かは問わない)の査定と徴収を専門とし、単数もしくは複数の支配者に対して責任を負う役人階層を有する制度」が国家の特徴であると述べたように、支配する地域から何らかの形で税を集めないとそれは国家とは言えません。

ラピュタもおそらくは他の歴史上の国家と変わらず、経済の基礎は農業・鉱工業・商工業だったと思われます。空中都市で資源が獲得できない以上、地上の支配領域で穀物や野菜、肉類、乳製品、そして木材、金属、布製品、飲料などを確保することは国家の生命線だったでしょう。ラピュタ以外の空中都市も、おそらく地上に支配領域があって、そこで自分たちが消費する資源を生産していたでしょう。資源を巡る都市同士の戦争もきっと起こっていたでしょう。

ラピュタの経済を考える上で考慮すべきポイントは、「なぜラピュタの王族はいつまでたっても地上に降りなかったのか」だと思います。

もし疫病が原因で逃げたのなら、さすがに10年も経てば収まってるはず。気候変動から来る洪水や地震もさすがにずっと続きはしない。一方で、賊や反乱が地上を支配していて、そこから逃れるためにずっと空中にいたというのは考えられます。

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中国でも宋王朝は女真族の金の攻撃に耐えかねて1127年に江南に逃れました。ローマ帝国はゲルマン民族の攻撃から逃れるため330年にコンスタンティノープル(現イスタンブール)に遷都しています。蛮族の脅威から国ごと逃げるというのは歴史上普通のことです。

ところが、ラピュタは「インドラの矢」を始めとした強力な武器を備えているはずです。ドーラ一家のような賊は脅威ではありますが、国家の脅威にはなりえず、インドラの矢ような強力な武器を使えば従えることなど容易なはず。なぜラピュタは高性能兵器を使って賊や反乱を抑えなかったのか。

もしかしたら、国家が支配しない無国家地域があればあるほど、都合が良かったのではないでしょうか。

何に都合が良かったのか。それは奴隷狩りです。つまりこういうことです。

ラピュタは直轄地の他、従属する空中都市の支配地から資源を獲得し、敵対する都市国家と対決する一方で、無国家地域に攻め入り人々を狩った上で、自らや従属都市に配分する他、友好都市に売買していたのではないか。おそらく地上には空中都市の指示を受ける行政官がおり、彼らが地上における資源獲得や税収納、奴隷獲得戦争などを遂行した。

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ラピュタを始めとした国家は、空中に行く以前から自分たちの支配外の無国家地域を攻め、そこに住む狩猟採集民や遊牧民、山岳民、海洋民といった人々を奴隷にしていた。彼らは非常に強力であり、陸上や海上を進むと大きな被害を被った。そのため、航空輸送技術が発達した。しかしある時、彼らの大きな逆襲にあって危機に陥り、空中に逃げざるを得なくなった。空中で軍事技術は大きく発達したが、無国家地域を生かさず殺さず、奴隷資源を獲得することで、ラピュタは交易で巨大な富を得た。

なぜラピュタは滅びたか

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ラピュタがなぜ滅びたかは様々に語られますが、これまでの歴史を踏まえると以下の説が考えられます。

一つ目は疫病説。地上の疫病が空中都市に蔓延し、王族は別の地に逃げざるを得なくなった。疫病が収まった後にもう一度戻ってくればいいので説得力はイマイチですが、もしかしたら疫病によって正統な王が亡くなり混乱が起きたり、技術者が根こそぎ亡くなってメンテナンスできなくなり放棄された可能性はあります。

二つ目は反乱説。ラピュタ直轄領の行政官や軍人、ラピュタ帝国に従属する王国が反乱を起こした。あるいは蛮族が直轄領に攻め入って占領した。そのため資源が王宮に入ってこなくなったことで、地上に逃げざるを得なくなった。その強大な軍事力によって反乱軍を制圧すれば話は早かったはずですが、もしかしたあら王族同士を巻き込み、空中都市を二分する内戦だった可能性もあります。

三つ目は資源枯渇説。長期間に渡る資源開発により、塩害や森林破壊がラピュタ直轄領あるいは属国で起き、経済活動がストップした。あるいは、飛行石が枯渇した。これはかなりありそうです。

これだけかもしれないし、これらの理由が複数重なった可能性もあります。空中都市ラピュタの維持が困難になり威信が低下し、従っていた人が次々に離反。影響力が低下したタイミングで反乱軍が蜂起し、帝国のシステムが完全に崩壊したわけです。

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最後にラピュタに謎があります。それは、なぜ王族は金銀財宝を持って逃げなかったのか、というものです。ゴリアテが引き連れた兵は、ラピュタに着くと財宝を次々と略奪していきました。なぜあんなに簡単に盗まれそうなところに財宝があるのか、というところも謎です。昔はロボット兵や衛兵がガードしていたのかもしれません。それよりもなぜ王族を始めとした支配層が財宝を持って行かなかったのでしょうか。

中国国共内戦では、敗れた中国国民党は北京にある故宮の一流の美術品をほとんど台湾に持ち込みました。そのため北京より台北のほうが美術品の価値は高いと言われています。

なぜラピュタの王族は財宝を持って地上に行かなかったのか。

王族が逃げ出すときには財宝を積み込むほどの航空機すら容易できなかったのかもしれないし、もしかしたらあれでもかなりの量を持ち出した後だったのかもしれません。

しかしファンとしてはシータが語るこの話を信じたいものです。

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いまはラピュタがなぜ滅びたのかあたしよく分かる。ゴンドアの谷の歌にあるもの。「土に根をおろし、風と共に生きよう。種と共に冬を越え、鳥と共に春をうたおう」。どんなに恐ろしい武器を持っても、たくさんのかわいそうなロボットを操っても土から離れては生きられないのよ!

つまり当時のラピュタ王は大地に対する哀愁が強くあり、これまで自分が散々抑圧した地上の人々と共に生きる方法を選んだ。そのため財宝には価値を感じず、地に足をつけて生きる方がどんな財宝よりも価値があると信じた。それがこれまで一族がやってきたことの贖罪なのかもしれません。直系の王女であるシータは非常に質素な生活をしていました。

そうして結局、パズーとシータは「ラピュタは人類の夢」と言うムスカを退け、ラピュタ王族の意志を全うしてラピュタを封印することができたと言えるのではないでしょうか。

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