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3歳児が悔しくて声も出さずに泣いた話〜ソーセージお化け爆誕〜

「お話して」
3歳になったばかりの息子は、夜寝る前に決まってそう言う。寝室は豆電球で薄暗くなると、寝る前の儀式と言わんばかりに両親に即興のお話を求めるのだ。
「どんなお話がいいかな?」
と私は決まって聞くようになって、息子は「あおい鬼のお話」「〇〇ちゃんが××くんと恐竜がパトカーに追いかけられる話」など、要求が少しずつ具体的になっていく。毎夜毎夜、私と夫は童話のパロディから、オチのない話まで、とりあえず思いつたストーリーを息子に聞かせるのだ。

その夜はいつも通り、息子が求めるお題でお話を作り、夫がにこやかにお話をしただけだった。息子が「ソーセージのお話をして」と言うので、私が適当に話を作ったのがきっかけだった。まさかソーセージで泣くなんて思いもよらなかった。

私はママがソーセージを買ってきて、フライパンで焼いて息子ちゃんに食べさせてあげました、と言うオチのない適当な話をした。息子はその話を聞いて喜んで、また「ソーセージの話をして」と言ったのだ。私が同じ話をしようと「ママが業務スーパーに行き、〇〇ちゃんの大好きなソーセージを買いました。おうちに帰ってソーセージをフライパンでコロコロと焼きました」と話していると、夫が話に割り込んで「それをパパが食べてしまいました」と話を改変したのだった。そして私が思いついて、「そう、パパはこれまで〇〇ちゃんにってママが買ったソーセージを全部食べていたのです」と繋げてしまったのが悪かったのだ。

私と夫は勝手に盛り上がり、「そうなんだよ、実はパパが〇〇ちゃんのソーセージを食べちゃってたんだよ」「そうだったよね、ママが〇〇ちゃんが好きだからってソーセージを買っても、いつの間にかなくなってるんだよね。パパが食べちゃうんだよね」と言い合い、息子の様子が変わっていることに気がつくのが遅くなった。いつもの元気でニコニコしている雰囲気が、火を消したかのように暗くなったのだ。

「〇〇ちゃん?」と声をかけ、息子の近くによると、息子は悲しそうな顔で震えいていた。唇をワナワナと揺らし、眉毛はハの字に歪んでおり、涙が滲んでいる。私は一瞬状況がわからず、「どうしたの?」と聞いた。すると息子はとても小さな声で「食べちゃった」と悲しそうに答えた。

「パパが食べちゃったのが嫌だったの?」と聞くと、わずかに首を縦に振る。自分のソーセージがまさか父親に奪われ続けていたという事実が衝撃だったようだ。自分がソーセージを食べる楽しい話を聞くはずだったのに、パパに食べられてしまうオチが許容できず泣いてしまったのだ。一度泣きスイッチが入ってしまったら、なかなか元には戻らない。今回珍しかったのは、静かに泣いていると言う点だった。泣くと言ったら、エンエン声を上げて泣くことの方がほとんどだ。息子は天井の一点を見つめながら、両親とは目を合わせず、とにかく悔しそうで涙を静かに流していた。ソーセージお化けの誕生である。

「パパが、食べちゃった。〇〇ちゃんのソーセージ、食べちゃった」と口元に耳を当てないと分からないくらい小さな声で恨み事を漏らしている。静かすぎて怖い。涙は小さな瞳に溢れ、ちょっと溺れているようにも見える。

私は息子を抱き上げ、「明日ソーセージ買ってきてあげる。明日はソーセージパーティーをしようと」と息子を抱っこしながら優しく語りかける。夫もまさかこんなことでガチ泣きするとは思わず、ごめんねと声をかける。息子にとっては「こんなこと」ではない。一大事だ。簡単には機嫌を直してくれない。

「ねえ、〇〇ちゃん。明日はソーセージ何本食べる?」と私が聞くと、少し機嫌を直して「10本!」と息子が答えた。「そんなに食べるの?」と夫が驚いた声をあげる頃には、息子の笑顔が戻った。

息子は次の日の夕飯で、シャウエッセンのソーセージをお腹いっぱい食べて、パパへの恨みを晴らした。ソーセージだけで、感情が色彩豊かに変わる息子の姿を見て、可愛らしいなと心が温かくなるのであった。

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