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【読書感想文】推し、燃ゆ/宇佐見りん

今売れている本、話題の本。何か心揺さぶられる体験がしたくて、書店で手に取ってみた「推し、燃ゆ」

ピンク色がベースの装丁には、女の子が操り人形みたいに糸に釣られて宙ぶらりんになって、主人公と思われる女の子の絶望感が印象的だった。

販促のブックカバーには、「芥川賞受賞作」「全国書店で続々第1位」「本屋大賞ノミネート!」と、とにかくこの本を売ってやろうという思いが、バラッバラのフォントで赤く黒く、ピンクだったりして乱れていた。

「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい」から始まる物語は、その一文で読者の注意を惹きつけ、アクセル全開で「アイドルの追っかけが生き甲斐の女子高生」の世界へと飛び込ませる勢いがあった。

読後感は、焚き火を終えて、熱が冷めていく灰を眺めるような、そんな哀愁があった。生きる事の支え、自分に安らぎを与えてくれる存在、それを保とうとする生き様。アイドルを信仰する、とある女子高生の苦悩と生き辛さ、救いを求めて生きる姿が描かれた作品である。生きることの虚無感の影が色濃く投影され、もの悲しい気分にさせてくれる。

この作品からは、主人公の孤独感を感じた。推しが炎上したことは、彼女が保っていた世界のバランスを崩すトリガーにすぎず、元々彼女の居場所は「現実世界」に存在していなかったのではと感じさせる。

学校にも家庭にも、誰1人自分を分かってくれる人はいない。自分を許してくれるのは、推しのアイドルとの間にある信仰心。アイドルを愛している時間が、彼女に生きる喜びを許すのだ。

作中で病名は言及されていないが、主人公は精神疾患を抱えていて、家族はその病気を受け入れることも、支えることもできない。ただ、突き放すばかりだ。

また、この作品からは「推しを推す文化」に生きる人たちの生態が良く表現されており、彼らの見る世界を知るためには良い資料になると思う。読書というのは、自分の知らない世界を知る一手段でもあって、アイドルオタクの文化を垣間見て、物珍しい気分になった。

アイドルを信仰している大切な人がいるとして、その人の世界を知りたい、寄り添いたいという人にとっては助けになる本かもしれない。

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