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田んぼに出れば、見えるものが変わる。“作る側”を楽しむ、はぎや農園の暮らし

みなさん、こんにちは。TSUMUGI(つむぎ)編集部のウィルソンです。

‌4月から始まる共同体TSUMUGIの第1期では、これまでおこなってきた畑の共同運営(Co-farming)に加えて、田んぼづくりにも挑戦していきます。 みんなで一緒に、2反歩(およそ2000㎡!)もの田んぼを耕しながら、そこでとれたお米をみんなで分け合う「共給共足」を目指します。

共同体TSUMUGIの第1期については、こちら

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その田んぼを一緒に運営してくれるのが、千葉県佐倉市にある『はぎや農園』さん。成田空港のほんの少し西にある南酒々井(みなみしすい)駅から、車で5分ほど走ったところにある農園です。ここを運営しているのが、萩谷 祐介さんと高橋 美帆さん。

「小さい農園」とは言うけれど、5反歩の田んぼと2反歩の畑が広がるおよそ7000㎡の広さは「たった2人で?」と驚く広さ。基本的には2人で活動し、人手が必要なときは知り合いや仲間たちに手伝ってもらってるのだそうです。

「私たちが取り入れている“循環型”の栽培方法は、機械をほとんど使用しないんです。人の力で成り立っている、みたいなところはありますね」

はぎや農園の作物は、無化学肥料・無農薬。人や環境に負担をかけない農法や、お二人の想いに共感した人々が、田植えや稲刈りの時期は手伝いに訪れます。

聞くと、数年前まで農業とは関係のない、別の仕事に就いていたという2人。それが、今では仲間たちと田んぼを耕す日々。はぎや農園の2人がここに辿り着くまでの道のりと、田畑とともに変化した価値観について伺ってきました。

会社員時代に感じた小さな疑問と発見

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(真ん中が祐介さん、右側が美帆さん)

「工場でものづくりをしている人は、それをお店で販売している人より給料が低いことも多くて。作ってくれる人がいなければ売るものがないはずなのに、と疑問を感じていました」

祐介さんが新卒で就職したのは、東京の老舗洋菓子メーカー。会社が運営する喫茶店のキッチンや、デパ地下でのお菓子の販売など、5年間で幅広い職種を経験しました。さまざまな立場を経験したからこそ見えてくる小さな疑問。それがずっと頭の中に残っていたといいます。

さらに、海外店舗の立ち上げで香港へ。このときすでにお付き合いしていた美帆さんも一緒に赴き、現地で1年半暮らしました。そして、この海外での暮らしを経験したことも、生産者について想いを巡らすきっかけになったといいます。

「香港って、小さい島国なので食べ物の多くを輸入に頼っているところがあって。そういう国で暮らしてみると、日本では国内の農家さんがお米や野菜を作って販売していることは当たり前じゃないんだなって思ったんですよね。その頃から、ちょっとだけ『生産する側になってみたいな』って想いはあったかもしれません」

このあと退職を決めた祐介さんは、1年間を“自分探し”に費やします。それが『地球のしごと大學』への参加でした。ここから、思いがけないご縁がつながっていくことになります。

食べたければ、自分で作るしかなかったから

『地球のしごと大學』は、持続可能な地球を創る「しごと」を学ぶため、さまざまなカリキュラムが用意されている場。人と自然と社会がバランス良く共存していくための仕事の紹介やスキルアップのための講座を開催しています。

祐介さんが参加したのは、1年間かけて日本中のさまざまな仕事をめぐるプログラム。岐阜県では水力発電について学び、鳥取県ではパン作りのための酵母を自然から採取する方法を見学するなど、幅広いジャンルの仕事の現場を訪れました。

「5年間会社員をやってきて『自分は他にどんなことがやってみたいのかな』って思っていたので、いろんな仕事の現場を見せてもらえたのはとてもいい経験でした」

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そんなプログラムのなかで、一番祐介さんの興味を引いたのが、「野菜の種」でした。きっかけは、埼玉県飯能市にある『野口種苗研究所』の野口勲さんの講演を聞いたこと。

一般的にスーパーで売られている野菜は、安定的に大量に育つように交配された「F1種」という種からできています。品種改良されている代わりに、一度その種から野菜ができると翌年にはまた新しい種を購入して育てなければいけないものです。

一方で、野口さんが販売している種は「固定種」という、自家採取できるもの。毎年採れた野菜から次の年につながる種が採取できる固定種は、もともと植物が持っていた特徴が残る、自然に寄り添った種だと言われています。

「同じ野菜でも種によって種類があるんだなって初めて知って、おもしろいと思ったんです。でも、野口さんが売っている固定種の野菜はスーパーでは売っていないんですよね。『食べたかったらどうすればいいですか』と質問したら、『自分で作るしかない』と言われたので、じゃあ作ろう!と」

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もともと千葉県出身の祐介さんは実家の近くにも畑があったため、固定種の野菜を栽培してみようと考えました。その話を『地球のしごと大學』の代表にしたところ、「佐倉市に田んぼと畑がある。来てみないか」と誘われたのでした。

「とても幸運でしたね。最初の1年間は、『地球のしごと大學』で無肥料・無農薬で野菜栽培を教えている岡本よりたか先生にも教わりながら、代表と一緒に作業して勉強していった形です」

そして2018年に、田んぼと畑を引き継ぎ、はぎや農園として正式に活動をスタート。美帆さんと一緒にお米や野菜を育てています。

自給する力と本物を知る力を養う

「実際に自分で作った固定種の野菜を食べてみて、どうでしたか?」と聞くと、祐介さんは嬉しそうに違いを教えてくれました。

「今まで食べてきた野菜と、見た目も味も全然違う。昔ながらの野菜の味がします。苦手だったピーマンも、自分で作ったものはおいしくて生でいけちゃいます」

ピーマンを生で!祐介さんの横で美帆さんも「バリバリ食べてるんです。びっくりでしょ」と笑っていました。

「固定種の野菜は、成長のスピードがまちまちだったり、味や形も種によって個性的。成長がいいものも悪いものもあって、病気に強いのも弱いのもあります。個々の野菜の好きなスピードで育っていく固定種の野菜は、一度にたくさん収穫する必要がなく家庭菜園にもピッタリだなと思っていて。サイズはばらばらだけど、濃厚な味を楽しめます」

野菜のペースに合わせて、無理せずゆっくり育てる。なんだかそれは、効率化を求めて生き急ぐ私たちを、ホッとさせる時間になるような気がしました。

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しかし、固定種の作物を無肥料・無農薬で育てるという選択は、安定した味や形の野菜を大量に出荷するのが難しいということでもある、と2人は言います。

「やっぱり安定的にたくさん作れなければ、販売して利益をいただく形はなかなか難しいんですね。それでも、私たちが固定種を広めたいと思ったときに『販売』で消費者に届けるだけではなく、『作れる人を増やす』ほうでも貢献できないかな、と考えるようになりました」

一緒に田畑に入り、“作る側”の人を増やす試み。はぎや農園では、「自給する力と本物を知る力を養う」を目的を掲げ、実際に畑や田んぼで農業を体験してもらえる講座をおこなったり、『地球のしごと大學』でも講座を運営、受講生を受け入れています。

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「お金で商品を買うことが当たり前の生活のなかで、少しでもお米や野菜を作ってみると物の見方が変わると思うんですよね。例えば、スーパーに行けばお米って結構安く買えると思うんですけど、その背景には農家さんが大変な思いで栽培した1年間がある。そういうことが見える消費者が増えたら、少しずつ世の中も良くなっていくんじゃないかな、と思いながらやっています」

見えたら“暮らし”が変わっていく

このような考え方になったのも、2人自身が“作る側”となって初めて見えてきた世界があるから。「農業を始めてから変わったことって、たくさんありすぎて」と美帆さんは言います。

「食べ物も洋服も、すべての物にストーリーがあって誰かの力によって作られてる。そう思い始めてから、やっぱり自分の持ってる物への愛着が湧いてきたし、作り手の顔が見えるものを一生大事にしていきたいな、という価値観が強く生まれました」

いずれはお米や野菜だけでなく、自分たちが育てた綿花を紡いで服を作ったり、最終的に地球に還っていくような建築物まで作ってみたいという2人。農園と名乗ってはいるものの、野菜やお米づくりは2人にとって“暮らしを楽しむためのツール”の一部なのです。

「農や食だけじゃなくて、『暮らし』とか『生き方』とか、そういう大きな部分が変わったと思います」

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「あれも作ってみたい、これが作れたら楽しそう」と話す2人を見ながら、私も“作る側”の世界を見てみたいと思うように。都会生まれの私は田んぼに入った経験こそないけれど、苗を持って田んぼに手を入れたときの感触を想像してみる。

「今までお米作りをしたことがなかった人に『意外とできるんだな』って知ってもらえたら。今は、テレワークで個人作業の仕事が増えていますが、お米づくりは共同作業。昔ながらの共同体のあるべき姿が全部詰まった活動です。みんなで育てたお米を羽釜で炊いて一緒に食べたいですね」

田んぼの中って冷たいのか、生ぬるいのか。そんなことすら、今は想像できないけれど。自分たちの手で育てたお米の味も、きっと想像の範囲を超えている。そんなふうに思いながら、この春から2人に導かれて足を踏み入れる、“作る側”の暮らしが楽しみになったのでした。

photo by はぎや農園

▼TSUMUGIでは現在、春から共同体の仲間になってくれる1期生を募集中!共同体メンバーや農園さんと一緒にお米をつくりましょう!説明会もおこなっていますので、ぜひお気軽にご参加ください。


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