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夜空に星のあるように(Poor Cow)/ケン・ローチ(Ken Loach)(1967)

オックスフォード大学卒業後、BBCで演出家として、社会問題を扱い注目された彼の映画監督デビュー作。この映画が公開されたのは、1967年 つまりピーコック革命のカラフルで華やかかりしスウィギング・ロンドン真っただ中の時期。
ロンドン南西部と中心部に近い地域フラム(フルハム)で撮影されたこの映画に写るファッションはアメリカ的なテイストやビビットな色目はあるもの概して締めで、当時の庶民のファッションと言えますし、好景気やユース・カルチャーで湧く決してきらびやかな生活ではありません。
(評論家は「アンチ・スウィンギング・ロンドン映画」と称したそう。

「名前はジョイ、身長160センチ、サイズは。。。 母は子だくさんでパブ好き、父はとび職で無類の女好き」というナレーションとともに、ベビーカーを教え散歩する主人公の夫は、友人たちと計画した強盗が失敗し彼女の前で逮捕され(警官と強盗のチェイスの臨場感が素晴らしい)、刑務所行きになり、夫の強盗仲間の一人(後に、フェリーニの「世にも怪奇な物語」やパゾリーニの「テオレマ」で知られる“性格俳優”テレンス・スタンプ)と結ばれ、幸せな結婚を夢見るが、男も懲役12年で刑務所行き。その後、彼女は、パブで働いたり、下着のモデルをしたリで子供を養うわけですが、いろんな階級の老若男女が集うパブの光景はまさにイギリスだし、60年代のファッションムードに、カメラマンのハラスメントな視線を盛り込むのもケン・ローチらしい。
そして、終盤で描かれるロンドン近郊の海水浴場。でもこれが寒そうで皆さん海辺のカフェに座り、老人も含め皆さんアイスクリームを食べている。そして流れる曲はThe Flower Pot Menの「Let‘s Go To San Francisco」。そう、当時イギリスで大ヒットした職業作曲家たちによる架空バンドによりThe Beach Boysのイミテーション。
主演女優キャロル・ホワイトは、その後、アメリカに渡り、有名俳優や歌手の不幸な関係やアルコール依存や薬物乱用の末になくなったという奔放に幸せと愛情を求めて、行き当たりばったり繰り返す映画の中のヒロインさながらの生涯を送った人。
原題は「Poor Cow」(かわいそうな牝牛)ですが、可哀そう、惨め、貧しいというニュアンスで何度もPoorという言葉が出てきます。
ケン・ローチ本人はうまくいかなかったと振り返る作品ですが、すでにこれは、ケン・ローチが描いてきたイギリスです。

スウィンギング・ロンドン

ケン・ローチ作品


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