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「やさしくキスをして Ae Fond Kiss」 / ケン・ローチ Ken Loach(2004)


主人公の男性であるパキスタンからの移民2世がDJとしてクラブでバングラビート(パキスタンの民族音楽”バングラ(パーティ音楽)“からとられた)をかけるシーンに続き、その妹が学校で同級生たちを前にして、話すシーンから始まります。
「私がブッシュ大統領も法王も道路掃除人も一緒くたにしたら笑われるでしょう。 ありえませんから。
でも西欧は同じ事をしています。50ヵ国10億人のイスラム教徒を一緒くたにしているんです。私の姉は敬虔なイスラム教徒ですが、肌が黒いから黒人だと言います。父はこの国に来て40年以上来て40年以上になりますが、100%パキスタン人だと信じています。私は国家によるテロを排除した西欧社会のテロリズムの定義には反対です。
国連憲章を破った英米が優れているという考え方にも反対です。何より西欧社会がイスラム教徒を単純化するのに反対です。
私はグラスゴーに生まれパキスタン人の10代の女の子でカトリック校に通うイスラム教徒の娘でその上でグラスゴーレンジャースの大ファン。私は誇り高い文化のミックス。みんなで偏見に立ち向かいましょう。」
(レンジャーズは、スコットランドで実力二分するサッカーチームで、もう一つが日本選手も多く活躍するセルティックで、レンジャースは、プロテスタント、セルティックはカトリック支持者が多いそうです。彼女は多様性をアピールしようとしているわけです)
ここで描かれる世界は、植民地であったインドから撤退するがイギリスが、巨大人口地域の国力低下を目的として、英領インドの分離独立を進め、北はイスラム教徒、 南は、ヒンドゥー教徒に分け、1500万人が移動を余儀なくされた過程での起こった宗教紛争1946年インドパキスタンの紛争によりイギリスへの移民の増加と2001年の同時多発テロによるイスラム教徒差別が背景にあるわけですが、
詳細なリサーチを重ね、俳優はキャリアより、国籍、生い立ち、職業などが役と同じバックグランドを持った人を選んだり、現実に生きる我々は、明日を知ることがわからない~Everybody has an edge about what’s gonna happenと彼が言うように、撮影は時系列、役者には、台本やセリフを渡さないというケン・ローチに手法がこの映画をリアリティのあるものにしています。
流れる音楽は、スコットランドの国民的詩人で、「蛍の光」の作詞者としても知られるロバート・バーンズによるスコットランドでは誰でも知られた曲でFairground Attractionやソロになった後の、Eddie Reader もカバーした「やさしいキス」と木にぶら下がるリンチで虐殺された黒人を“奇妙な果実”に例えて黒人差別を歌ったビリー・ホリディの「ストレンジ・フルーツ」。


ただ、この映画で差別されるのはパキスタンの移民だけではなく、白人の音楽教師は、カトリックのアイルランド人であり、イスラムとカトリックという閉鎖的なイメージかつ差別の対象になる人たちなのですが、2人の主人公は、宗教の違いではなく 共通点(天使 処女懐胎)を見出そうとしており、国籍、宗教、世代(親は、異宗教とは結婚させない)を乗り越えようとします。日本でも移民や難民に関する映画が開催されたりと理解促進もあるものの、揉め事のニュースも増え、イギリスの長い歴史から比べるとまだ始まったばかりと言えますね。

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