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ここに掛けて、想い駆けて

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何の変哲も無い椅子です。

しかし僕にとっては大切な物の一つです。

亡きおばあちゃんが愛用していた椅子だからです。

僕はおばあちゃんのことをあまりにも多く知りません。

記憶の中に残っているのは、いつも家で地元の民芸品を作っていたおばあちゃん。

それと、盆と正月の度に笑顔で迎えてくれたおばあちゃん。

これだけです。こんなことくらいしか知らないのです。

だからおばあちゃんが僕に何を託したかったのかは、ここに住み始めて数年経ちますが未だにわからないままです。

だけど最近一つだけわかったことがあります。

おばあちゃんはこの椅子に座って花火を楽しんでいたんだ、ということです。

つい最近、地元でサプライズ花火が打ち上がりまして。たまたま家にいた僕らは慌てて二階に上がって窓越しに花火を見てたんです。で、ふと後ろを見たら、この椅子の存在を思い出して。

僕はおもむろにその椅子を窓の近くまで運び、そこに腰掛けて花火を眺めました。

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襖を開けた窓越しに打ち上がる花火の全身がはっきりと映し出されました。

そしてその時やっと気づいたんです。

ああ、おばあちゃんもこうやって花火を楽しんでいたんだなって。

同じ目線に立ったことでおばあちゃんを物凄く近くに感じました。


おそらく僕はこれからも、ふとした時にこうやっておばあちゃんやおじいちゃんの存在を近くに感じる事があるのだと思います。

そう思うとなんだか凄く嬉しくなりました。

僕はおばあちゃんが体験してきたであろうことを追体験でき、それによっておばあちゃんがその時どういう感情だったのかも知ることができる、と思えたからです。

だから僕は例え花火大会が再開されても、地元の花火だけはこの椅子に座って満喫しようと思います。

終わり










ここまで読んでいただきありがとうございます。