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熱冷シートの効能・効果

あくまで凡人的な生活を送っているわたしですが、稀にフィクションのような出来事もある。

ずっと友達だった年下の男の子とセックスした。

その時のことがフィクションめいていたので、記憶が美しいうちに書いてみたいと思う。普通の女の日常にも、こんなキラッとした瞬間があるんだな、世の中ってちょっと面白いかも、と思ってもらえればとっても嬉しいです!

***
出会って3年くらいになる仲の良い男友達がいる。簡単のために、バンビ君と呼ぼう。なぜなら彼は大変可愛らしい顔をしているから。バンビ君とは仕事で出会って、お互いの家が近いこともあり、友達と複数人でよく遊ぶようになった。

彼は標準より背が低い。スケートの宇野昌磨選手の背丈から、筋肉を落としたような華奢な体をしている。加えて目がくりくりとしていてまつ毛が長く、そう、まるでバンビだ。

一方のわたしは背が高い。標準より高くて、肩や腰もがっしりしている。電車では頭一つ出て呼吸が楽なくらい。誰に例えたらいいか分からないけど、バレーボール選手らしき身体つきをしている。私たちの間には15センチくらいの背の差があると思う。

彼とは音楽や映画や漫画やアニメ、諸々の趣味がよく合う。友達と複数人に遊ぶことはあったけど、二人きりで遊ぶこともあった。散歩をしたり、ランニングをしたり、勉強したり、ご飯をつくって食べたり。二人きりでいても特に気まずくなく、さらっとした関係。平日の朝出勤前に、一緒にコーヒーを飲みたいような。「おはよー今日寝癖やばいよ」「お前はクマやばいよ」というような、そんな関係。バンビのような可愛らしい彼と男女の関係になることはとても想像できず、お互いその気はなかった。

ところで最近わたしはとてつもなく疲弊していた。社会人をやって10年ほどは経っており、いろんな荒波を乗り越えてきた気ではいたけど、さらなる渦潮に揉まれていたのだ。炎上プロジェクトのリードをしていて、何が気に食わないのか個人的に攻撃してくるプロジェクトメンバーもいたりして、とにかく酷い目にあっていた。メンタルがボロボロになって一人泣いたりもしていた。1週間やりきった金曜、とにかく誰かとお話ししたい。そんなときに開くラインは、バンビ君とのチャットだった。

私たちはその日の夜、映画を見ながらお酒を飲む約束をした。

「また酷い目にあってるの?笑」
「うん、散々な感じなんだよ」

そういいながら、バンビ君は心地よいお家に招き入れてくれた。疲弊している私を見かねたのか、その日彼は手作りの料理を用意して待っていてくれた。しかも、わたしの好きなお菓子屋さんのケーキ付き。そんな彼のイケメンなジェスチャーもあって、わたしは初めて年下且つ自分より背の低い男の人に心拍数が上がる気持ちを覚えていた。『男らしさって見た目と関係ないんだ』そう感じた。

その日は映画を二本もみた。ハリウッドもので爽快な気持ちになってから、クラシックなヒッピーものを見て雰囲気に浸る。解散の雰囲気が全然なくて、気がついたら夜の1時を回っていた。お酒を飲んでフワフワしていたのもあって、時間を忘れて楽しんでいた。でも三本目でミステリーものを見始めたタイミングで、さすがに眠くなってきた。怒涛の1週間だったから。

「眠い…」
「寝よっか?泊まっていきなよ」

友達付き合いは長いけど、これは初めてのパターンだ。でも、友達でもあり得なくは無い。お風呂あがりに着るのに、バンビ君はスウェットを貸してくれた。シャワーを浴びて、身体を拭いて、彼のスウェットを着る。スウェットはダボダボだったから、身長の高い私にも意外とフィットした。リビングに戻り、バンビ君がくれた毛布にくるまって、ソファーに埋まる。私の後にシャワーを浴びていたバンビ君がリビングに戻ってきて言う。

「一緒にベッドで寝る?体が痛くなるよ」
「…うん」

これも新しいパターン。でも、言われてみればソファーよりはベットがいい。そして私たちは一緒に寝ることになった。ベッドに入っても寝付けなかった。一つは隣にバンビ君がいたからもあるけど、久しぶりにお酒を飲んで頭が痛かった。

頭が痛いと言ったら彼は、熱冷シートを貼るように進めてきた。『熱冷シートっていつぶり…』そんなことを思いながらうだうだしていると彼は颯爽と冷蔵庫から熱冷シートを取って戻ってくる。

「はい、貼りますよー」
「ひいい」

バンビ君は茶化しながら、横たわっているわたしのおでこに熱冷シートを貼ってきた。ヒヤッとする、いろんな意味で。顔が近いんだよ。暗闇の中、どおでもいいことをポツポツと話しながら、そのうちに二人とも寝落ちしていた。

明朝、ぼうっとした気持ちで目を覚ますと、寝る前よりもっと近くにバンビ君がいた。しかも、こっちを見ている。「まだ頭痛い?」そんなことを言いながら、彼のおでこをわたしのおでこに寄せてくる。

「どっちのおでこが熱いかと思って」
「…」

わたしは迷っていた。このジェスチャーは天然なの?誘っているの?誘っているなら、乗ったらいいのか、乗るべきでないか。そして乗ったとして、バンビ君との友情はどうなるのか。今日のバンビ君は最高に男らしいけど、彼はそもそもは最高の友達だから。

でもそんなことを考えているうちに、バンビ君は介抱の延長という体裁で、わたしの頭を撫でてきた。えらい、えらいという風に。

「前よりお前のことがわかった気がする。
よく頑張っているけど、ほんとは甘えたい人なんだね」

そう言った。
そして、わたしの心は概ね決まった。

バンビ君は最高の友達だ、でも、それにしても今日の彼は男前すぎる。そして今日の私たちはいつもより何歩か進んでしまっている。後日になって今を振り返り、『不思議な夜だったけど、あそこでもう一歩進んでいたらどうなっていたんだろう』そんな気持ちを抱き続けて生きるのは我慢がならなかった。こういう時、わたしは割と行動してみる派なのだ。
据え膳食わぬは女の恥。

「…キスしていい」
「うん」

そして私たちはただの友達ではなくなった。キスをする関係。気持ちよくてキスがやめられない関係。熱冷シートを貼ったままお互い身体を触れ合う関係…などなど。そとあとの時間はあっという間に過ぎた。ふたりでぼうっとしながらベッドの外に出て身支度を始めたのはお昼過ぎだった。

「熱冷シートを貼ったままこんなことするなんて、いかれているね」

これはバンビ君が言ったことだけど、わたしも完全に同感だった。そして私たちの、ただの友達関係は終わった。私たちはセックスをしたことがある友達か、セックスをする友達になるだろう。セフレではない。なぜならバンビ君と私は未だによく理解し合える友達であることに変わりはないから。ちなみにバンビ君と私は付き合ってもいない。彼氏と彼女の関係というのは、私たちの間では未だあり得ないから。

これからどうなるかはわからない。わたしにもこんなことは初めてだ。でも、また何か素敵だなと思えることがあったら、また筆をとってみますね。

一つだけ言えることは、熱冷シートには二人の関係を縮める効能・効果もあるらしい、というお話しでした。

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