魔境猫島
猫好きが集まる島、それが猫島だ。おれの同僚も先週金曜、わざわざ有給を取って、三連休にして出かけていった。犬派のおれは、はははいってらっしゃい、と軽く見送ったが、今朝になって変てこなニュースが飛び込んできた。
『……コメンテーターの田貫さん、どう思われますか? この、人々が猫島に吸い込まれているという……』
『やっぱり現代人は疲れてますからね、癒やしを求めて、でしょう』
『でも、この人数ですよ?』
先週の土日で、猫島への観光客が急増したというのである。現段階のデータだけで、先々週の三倍近くに迫っているそうだ。シンクロニシティってやつかな、なんて思いながらおれは出社した。
隣の席の同僚は、昼休みになっても来なかった。部長が連絡したものの収穫はなかったらしく、何か聞いてないかと尋ねられる。
「さあ……あ、でも、猫島に行くとは言っていました」
「猫島?」
部長は太い眉毛をムッと寄せた。おれは続けて、なんかニュースでやってましたね、と言う。
「ああ。さわりはニュースアプリで見たが……ただの不思議現象だろう」
「そうですよねえ」
おれもその程度に思っている。部長はどうしたものかと唸りながらデスクに戻っていった。おれは肩を上げ下げして、昼飯のコンビニ弁当を開ける。
同僚を含む観光客たちは、一晩経っても二晩経っても帰ってこず、じきに大規模失踪事件として取り扱われるようになった。だというのに猫島へ行く人は増えるばかりで、警察だか自衛隊だかが島の港で見張っているらしい。それで気づけば、彼らでさえも内部にフラフラと歩き出しているとか。
奇跡的に引き止められ、戻ってこれた者の証言はこうだ。
「にゃーんと声がした。ご飯をあげなきゃと思った」
おれはどこか薄気味の悪さを感じながらも、都内の自宅で液晶越しに傍観していた。それが一変したのは昨夜だ。動転したおふくろから、妹の真知子が猫島に行ってしまったと電話がかかってきたのだ。
【続く】
おいしいものを食べます。