田中助手の時間旅行
「ついに出来たぞ、タイムマシンが!」
神林博士は嗄れた声で高らかに叫ぶ。棚の中のビーカーすら割れんばかりの声量に、助手の田中は顔を顰めたが、それも気にしていないようだ。
「博士、喜ばれるお気持ちはわかりますが。実証実験がまだです」
「なに、そんなの些細な問題だ」
神林はどこから自信が湧いてくるのか、世界を手にでもしたかのような笑みを浮かべている。田中は溜息をついた。ただ田中も喜んでいないわけではない。にやつく口元を押さえ、早速実験に移りましょうと神林をせっついて、改めてタイムマシンを眺める。外観は田中がこだわった。あの有名な引き出しの中にあるような、素晴らしいデザインにした。うきうきしてくる。
「さて、誰を乗らせましょう。また乞食を雇いますか」
「いや、ワシが乗る」
「そうですか」
田中は驚かなかった。神林がことタイムマシンに関してネジが飛んでいるのは知っている。どうしてかは知らないが。
「僕もご一緒しても?」
「好きにしろ」
既に乗り込んでいる神林は素っ気なく言った。危険性はあるだろうが、好奇心が勝っている。それに田中の家族は先の大戦で皆死んでいた。知り合いなんてものも神林しか居ないから、失敗してどうにかなっても構わない。
神林が十数年前に目盛りを合わせるのを後方から眺めた。行くぞ、と神林が言うが早いか全身が揺れる。思わず目を瞑って、次に開いたとき、そこには沢山の通行人が居た。現代では到底見られない光景だ。
「やった! 博士、成功しましたね!」
田中はさっきの神林のように喜ぶ。しかし返ってくるのは知らない人間たちの視線ばかりで、神林の返事は聞こえなかった。
博士?と再び呼んで辺りを見回す。道のど真ん中のタイムマシンの上には自分しか居ない。
【続く】
おいしいものを食べます。