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宝塚オタクがファンマーケティングについて考えてみた。(事例紹介編)

前回の「基礎編」を踏まえて、ここでは大好きな宝塚を例にとり、
劇団がどういった施策を打っているかを細かく見ていきたいと思います。
ファンとは?ファンマーケティングとは?といった、知識的な内容にご興味のある方は、是非基礎編をご覧ください。

始めに、実際の活動経験を中心とした分析手法のため、主観的な見解が多いです。予めご了承ください。

■ファンの育み方を知る

基礎編で、ファンの育み方をご紹介しました。

【ファンの育み方】
① ファンミーティング/交流イベントの実施
② 会員向けサービス/サブスクリプションサービスの構築
③ ファンコミュニティの運営(SNS、Web、リアルイベント、オンラインサロン)
④ 期待以上のサービスを提供するための人材育成/組織運営
⑤ 企業カルチャーやスピリッツを伝えるための各種情報発信
⑥ 企業ビジョンに基づいたブランドアクションの実施

ファンを増やすには、これら6つの手法をベースに施策を打っていきます。それでは早速一つずつ宝塚を例にとって、劇団はこれらの手法をとっているか見ていきましょう。

①ファンミーティング/交流イベントの実施

これはもう言わずもがな「お茶会」が浮かびますよね。
お茶会とは、公演期間中に一度だけ行われるファンミーティングです。もちろんジェンヌ本人が登壇します。
ホテル等の宴会場を借りて、およそ2時間ジェンヌとの交流を楽しめます。
具体的には、

・ジェンヌによる公演中のお話(舞台上のことから稽古中のお話まで様々)
・最近のプライベートの出来事
・ゲーム
・グッズの抽選会(規模によっては手渡しあり)
・2ショット撮影(規模による)
・握手会(規模による)
・ジェンヌによるお歌のプレゼント

が挙げられます。
基本は上記の構成が多いですが、トークの回し方やゲーム内容等、
企画はそのジェンヌの私設ファンクラブで立案するため、内容は十人十色になりますし、正直そのファンクラブのセンスが問われます。

また、お茶会開始の前はグッズ販売が行われており、

・公演中の舞台写真
・素化粧でのポートレート
・他ジェンヌとのコラボ写真
・過去のお茶会DVD

等、そこでしか手に入らないグッズがたくさん売られます。
結構なレア商品が展開されるため、これもまたお茶会の醍醐味ではないでしょうか。

ちなみにこのお茶会はジェンヌそれぞれで行われるため、今回は誰のお茶会に行こうか、と毎回ファンは頭を悩ませます。(幸せな悩みだね)

②会員サービス/サブスクリプションサービスの構築

サブスクリプションサービスは様々ありますが、タカラヅカ・スカイ・ステージを例にとってご紹介したいと思います。

タカラヅカ・スカイ・ステージは、スカパー・J:COM・ケーブルテレビで視聴できる宝塚専門チャンネルです。24時間宝塚を観ることができます。
放送されている番組は以下の通りです。

・タカラヅカニュース(月〜土放送。土は総集編としてお届け)
・Now On Stage(公演作品についてジェンヌが語る番組)
・過去の舞台作品映像(フル尺。千秋楽が多い。)
・ジェンヌのパーソナルに迫った特集番組(ここのバリエーションが凄い)
・雑誌や写真集の撮影風景映像
・OG紹介番組   等

舞台のことから、ジェンヌ自身にフォーカスしたものまで、様々な番組を放送しています。
個人的にお勧めしたいのは、タカラヅカニュースとNow On Stageですね。
観劇を予定している作品の稽古場映像や、予習としてジェンヌ自らが語っての作品にかける想いや作り上げていく過程を知ることができるので、作品理解が深まり、観劇した時の感動が倍増します。

気になるって方はぜひ公式サイトをご覧くださいませ。

③ファンコミュニティの運営(SNS、Web、リアルイベント、オンラインサロン)

宝塚には公式のファンクラブと私設ファンクラブの2つが存在します。
ここでは私設ファンクラブを取り上げたいと思います。
公式については下記リンクをご覧ください。

私設ファンクラブは字の如く、有志によるファンクラブとなります。代表と呼ばれるジェンヌのお付きの方を中心に構成されております。
この私設ファンクラブに入会するとさまざまな特典、ファンとしてより推し活ができる環境が整います。

⑴ 観劇チケットの入手
⑵ お茶会/お食事会の参加
⑶ 入出待ちでのお手紙渡し

⑴ 観劇チケットの入手
会で一定数チケットを確保しているため、ほぼ希望する日程で観劇をすることができます。また会総見(会メンバーで観劇)、組総見(組内他ファンクラブと共に観劇)などもあり、これら総見の際は通常の舞台よりも更に会場内が一体感に包まれ、ショーでは大盛り上がりすること間違いなしの空間を共に過ごすことができます。

⑵ お茶会/お食事会の参加
「①ファンミーティング/交流イベントの実施」でもご紹介しましたが、ファンクラブに入っていれば確実にお茶会のご招待が届きます。
(未会員であれば、会員さんとの繋がりがないと参加が難しいです)
ファンクラブメンバーであることのメリットとしては、会員限定の抽選会(サイン入りの写真がもらえる等)会員規模が大きいほど、会員と非会員の差別化を図った企画を打ってくる可能性もあるため、会員である方がやはり入会していることの恩恵が得られます。
更にお食事会になると、お茶会より長い時間、ジェンヌさんと会話やお食事を楽しむことができるため、更にファンとして応援している甲斐を感じられることでしょう。

⑶ 入出待ちでのお手紙渡し
個人的に、ファンクラブに入って得られる最大のメリットと感じるのがこのお手紙渡しです。
宝塚では楽屋の入出待ちが行われます。そこで会員は指定の場所で整列をして、贔屓が楽屋に来る(or出てくる)のを待ちます。
ジェンヌがその場にいない時は起立し、現れるとその場に着座する独特な決まり事があります。
この時間に私服姿の贔屓から少しお話をいただいたり、したためたお手紙を渡すことができるのが入り出待ちのお手紙渡しです。
非会員の場合、整列する会員の後ろで立つしかないのでジェンヌとの距離も出てしまうので、積極的に応援したい場合は、このためだけにでも入会することをお勧めします。

④ 期待以上のサービスを提供するための人材育成/組織運営

各組には、プロデューサーと呼ばれる組長・副組長と連携を取って円滑に運営が進行するよう様々な業務を行う人がいます。
彼らは演出家と共に香盤表(誰がどの役をやるか書かれた表)を検討し、組内の人員配置に大きな影響を与えています。

はいださんに関しては、歌のうまさには音楽学校時代から定評があったものの、他の成績がパッとせず、また当時は引っ込み思案な性格が災いして、公園での役柄には一つ恵まれてはいませんでした。
──── 星組を支える歌手となってほしいとの願いを込めて抜擢したのが大作「ベルサイユのばら2001」における「エトワール」という役柄だったのです。
『元・宝塚総支配人が語る「タカラヅカ」の経営戦略 ー 森下信雄』より

このようにプロデューサーの舵取りによって大きく花を咲かすケースも多くあります。
更に、宝塚という作品をより身近に、そして多くの人に届けるために、ライブビューイングを導入したり、小劇場(ex舞浜アンフィシアター)を利用したライブ形式のショーの公演を行ったりと時代に沿った組織運営をしてファンとの関係構築や、新たなファンの獲得に勤しんでいます。

⑤ 企業カルチャーやスピリッツを伝えるための各種情報発信

宝塚は100年を超えた歴史あるエンターテイメントです。「清く正しく美しく」このスピリッツはジェンヌだけではなく、ファンの間でも受け継がれていると思います。
入り出待ちでの整列は特徴の1つではないでしょうか。
この歴史ある宝塚のスピリッツを伝え続けるために劇団は宝塚歌劇を楽しむというページを公式サイトの中で展開しています。

ビギナーズガイドでは、「宝塚とは?」や「宝塚の歴史」など、基本的なことも紹介しており、まさに宝塚の伝統を発信しています。

⑥ 企業ビジョンに基づいたブランドアクションの実施

上述した通り、宝塚には「清く正しく美しく」というモットーがあります。

華やかな夢の舞台を支える歌やダンス、演劇といった芸能の基本はもちろんのこと、礼儀作法やマナーをわきまえ、一人の女性として、社会人としての品格を忘れないようにと贈った言葉です。
https://kageki.hankyu.co.jp/fun/about_takarazuka.html より引用

劇団の創設者である小林一三翁の遺訓ですが、このモットーに従い宝塚には独特なルールがあります。それが「すみれコード」です。
すみれコードとは、モットーにそぐわない行動、言動、演出を行わない規範を指します。

具体的に、
・ジェンヌへ年齢、本名、給料、異性交際等のプライベートな質問を控える
・オフの写真をSNSへあげない
・上述のような情報を公表しない
が挙げられます。

宝塚という夢の空間を壊さないために、劇団・ジェンヌ・ファンそれぞれが規律を守ることを心がけています。
この心がけによって、宝塚という特別な空間が保たれているわけです。

まとめ

長くなりましたが、ファンマーケティングにおける「育むためのアウトプット6箇条」に関して、宝塚を例にとってご紹介しました。
いかがでしたでしょうか?

ファンの中にいたからこそ分かりますが、宝塚歌劇団もファンの期待に応え続けるのは困難です。
特にトップスター就任、退団、組替えといった人事関連のトピックには、ファンの心が落ち着かない瞬間も多々あります。
それでも、作品やファンの活動を通して、ファンとの交流を図り続けるからこそ、長く生きるビジネスが続くと思います。

今、ファンとの向き合い方に悩んでいる方は、業界が違ったとしてもファンと向き合う時の参考にしていただけますと幸いです。

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