ポジティブの神様
先日ヨガに入会した。前々から興味はあったものの、お値段とお値段とお値段の関係で、踏ん切りがつかず数年……。しかし今回の私は、なぜか意気揚々と入会手続きを済ませた。清々しささえあった。
念願のヨガデビューに浮かれながら帰路につくも、私は押し寄せるある後悔の波と戦っていた。それは、「やっぱりボディクリームは、いらなかったんじゃないか」。
あれこれ書くと、どこのヨガかまるわかりだけど、別にディスってるわけじゃない(むしろ全力でヨガを楽しんでいる)から気にしない。
初回レッスンの後、スタッフの方に言われるがまま、ヨガに必要なもののあれこれがまとまった、おすすめセットを買ったのだ。
そこに含まれるのは、ヨガマット、マットの上に敷くラグ、マットケース、マットの除菌スプレー、ヨガ前に塗るクリーム、ヨガ後に塗るクリーム。
このうち、クリーム系は主にダイエットや美容に効果があるものらしい。でも、私のヨガの目的は、コリ解消、姿勢や骨盤の矯正、自律神経を整える、といった健康重視。だから、正直クリームには全然惹かれなかったのだけど、ヨガ直後でぼーっとしている私。スタッフさんの「みなさん、最初はこれを購入されますよ」で、気付けば「じゃあ買います」と言っていた。
しかし帰り道、「やっぱりクリームはいらなかったんじゃないか。いや、ヨガマット自体レンタル可能だから、必要なのはラグだけだったのでは」と絶望的な気持ちになっていた。
なんだろう、想定外にお金を使ってしまったこともそうなんだけど、なにより「みなさんが買ってますよ」という、ありきたりすぎるフレーズで、そこまで惹かれていないものを買ってしまった自分が悔しかった。
「お金ない アラサー女の ヨガ投資」
「みなさんが 買ってますよに 乗せられる」
あぁ〜いくらでも詠めるよ。くぅ〜。
そんな複雑な気持ちで帰宅したのだ。
「ただいま〜」
「おかえり〜」
同居している彼の反応も気になる。苦笑されたらツラいなぁ……。何で必要なものだけにしないの? とか言われたら泣けるなぁ……。やっぱり落ち込みが隠せないまま、私は報告した。
「ヨガ行ってきたよ〜、どうしよう〜なんかめっちゃ買わされちゃったよ……」
がしかし、彼の第一声は、
「え、 ぴょん吉ちゃんうける! 何買わされたん?」
私の感情とは裏腹に、なぜか妙に楽しそうなのである。そう、若干ニヤニヤしている。
「なんで嬉しそうなの」
「いや、うけるなぁって」
やっぱりどこか楽しそうなのだ。そのとき、あぁと合点がいった。
彼は、人が大きな買い物をするのが大好きなのだ。自分が大きな買い物をするのも好きだけど、どういうわけか人が買うのも大好きなのだ。
Nintendo Switchのときもそうだった。彼は友達にSwitchの面白さを語り、みんなの心がちょっと揺れてるのを見抜くと、そのままビックカメラに連れて行く。
揺れた心の後押しがうまいというか、「迷ってんなら買おうぜ!」的な意味不明なポジティブさがある。彼のそのポジティブで、結局3〜4人がSwitchを買ったのだ(Nintendoの営業マンになればいいと思う)。
そういう彼だから、私の買い物話もきっとすごく楽しいのだろう。
「で、何買わされたん?」
「このマットとか、ラグとか……まぁこの辺はあってもいいんだけど……。あとは、このクリームとかこのクリーム。なんかクリームはいらなかったような気がしてきて……」
と言って商品を並べると、
「クリーム!(爆笑)」(なんとなく千鳥のノブ風)
彼は完全に面白がっている。でも、彼に千鳥風のツッコミをされると、クリームという言葉がもつ、"いかにも営業トークに乗せられて買っちゃう定番アイテム" 的な響きが際立って、なんだかおかしくなってきた。
「ラグだけ単品で買えなかったん?」
「あー買えたかもね……」と答えつつ、単品で買わなかった自分が悔しすぎて、
「でも、なんかこのセットのほうがお得っぽかったからさぁ」と弁解しようとすると、
「セット!(爆笑)」(やっぱり千鳥のノブ風)
あぁ、だめだ! 何を言っても "いかにも" になってしまう! いや、話せば話すほど "いかにも" になっていく!……と思うと、なんだかおかしくて、私も笑いが止まらなくなってきた。
「ぴょん吉ちゃん、買わされたね〜!」
と、やたら楽しそうに爆笑している彼氏と一緒に、私も爆笑した。
「元取んなきゃだから、ヨガがんばるわ〜(爆笑)」
「がんばれ元取れ〜(爆笑)」
迷ったら買おうぜ! な楽しそうな彼と話していたら、なんだか愉快な気分になっていた。そして、こうなったらクリーム使い倒して、超美肌を手に入れてやるんだ! と意欲に燃え始めてすらいた。
そして、クリーム購入に対する負の感情が消えた私は、ニヤニヤ笑ってる彼を見て、「あ〜、やっぱりこの人好きだなぁ」と思った。
一緒に生活をしていると、こういう瞬間が時々ある。
たとえば、休日寝すぎて起きたら午後3時だったとき。私が自分のだらしなさと、今日が残りあと9時間しかないことに絶望的になっていると、彼は言う。
「ぴょん吉ちゃん、いま何時だと思う?(ニヤニヤ) よく寝たね〜、学生時代の俺かと思ったよ」
当時、5限の授業さえ寝坊し遅刻していた彼にそう言われると、「それよりはマシだわ!」と、私はなぜか急にポジティブになったりする。
たとえば、すっごく腹が立ったことがあって、彼に愚痴りまくったとき。私が「……ありえなくない!?」と言うと、「そりゃないわぁ、 ありえないわ! 俺そういうの一番腹立つもん。ほんとにクソだな! だいたいさぁ……」と、私以上にボコボコに言ってくれるから、最終的には「いやぁ、そこまでじゃないんだけどさ」って、私の心は平穏を取り戻していたりする。
たとえば、マンションの宅配ボックスが、中に私の荷物を残したまま開かずの扉と化してしまったとき。管理会社に問い合わせる手間などにテンションが下がっていると、彼が隣で言うのだ。
「鍵のかかった宅配ボックスからの脱出! 君は1時間以内に、数々の謎と暗号を解き明かし、宅配ボックスのロックを解除し、無事に中の荷物を取り出すことができるのか!」
私たちがハマっている、某社によるリアル脱出ゲームの文言を真似るので、私は大笑いした。「脱出率は?」と聞くと、「26%」とリアル脱出ゲーマーなら非常に燃える数字を口にするので、もう私の中には脱出したい欲しかなくなっていた(単純)。
私は思うんだが、こうゆうのを「相性がいい」って言うんじゃないだろうか。もしくは単純に彼が、私の扱いに慣れているだけだろうか。それは確かにそうかもしれないけど、
もし、ヨガから帰宅して「何でそんな必要ないものにお金かけるの!」とか言われたら、私は負のオーラ全開で、クリームたちをメルカリに出品して、売れるまでずっと立ち直れなかったかもしれない。
もし、寝坊した休日に「ずっと寝てるとかもったいないよ、せっかくの休みなんだから充実させようよ!」とか言われたら、「はぁ? 意識高すぎ高杉くんか? うるせぇ!」って言って、もう一度ふて寝しただろう。
もし、私の愚痴に対して「へぇ」の一言しか返ってこなかったら、私はどうにか怒りを鎮めるために、アイスを食べまくってはニキビを大量生産していたことだろう。
もし、彼に「管理会社に連絡すればいいだけじゃん」なんて言われたら、「そんなんわかってるわ!」とイラッとして、彼を空いてる宅配ボックスに入れてしまったかもしれない。
でも、私は彼のおかげでそうはならなかった。
「相性がいい」っていうのは、すごく感覚的なものだから、ことばで具体的に説明するのは難しい。
でも私は、ズドンと落ちた日も、なんとなくソワソワザワザワ落ち着かない日も、怒り狂ってる日も、彼と一緒にいて話をしていると、自然とおだやかな気持ちになって、終いには心軽く楽しい気分になれる。
今までもこれからも、私は彼と一緒に暮らして、毎日に「楽しい」を増やしていく。それは他の誰かとじゃできないことで、私にとって「相性がいい」っていうのは、そういうことなんだと思う。
だから今日もありがとう、私のポジティブの神様よ。
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