見出し画像

【映画レビュー】喪失と再生の物語がそこにある『ガール・オン・ザ・トレイン』(2016年)

本作はポーラ・ホーキンズの小説をもとにしたミステリー映画。
『プラダを着た悪魔』のエミリー・ブラントがアルコールに依存している孤独な女性・レイチェルを演じている。

レイチェルはバツイチで、毎日電車の窓から見える住宅地の、ある幸せそうな夫婦の様子を垣間見るのが日課。
実はこの住宅地は、レイチェルが結婚していたときに夫のトムと暮らしていたところ。
かつて幸せの象徴だったマイホームには、トムと再婚した妻アナ、そしてふたりの間に生まれた子供が住んでいる。
心がボロボロになったレイチェルはアルコールにおぼれつつも、見知らぬ幸せな夫婦に幸せだった頃の自分を重ね合わせているのだ。

ある日、夫婦の妻の方が行方不明になり、数日後遺体で発見されるという事件が起きる。
事件当日に現場付近にいたレイチェルは警察に疑われるが、酩酊していたため一切記憶がない。
レイチェルは自分の力で犯人を探そうとするが…

主演のエミリー・グラントは美人女優にもかかわらず、アルコール依存症で虚無な日々を送る女性を見事に演じている。
昼からお酒を飲み、元夫に無言電話やメールを執拗に繰り返す。
幸せだったはずの彼女がなぜこうなってしまったのか?

始まりは不妊治療がうまくいかないことだった。
そしてアルコールにおぼれていき、記憶がなくなるまで飲み続ける日々が続く。
夫はそんなレイチェルを支えるわけではなく、酔っていたときのレイチェルの行動を激しく非難して人格さえも否定した。
そのうちレイチェルは自分でも、何の価値もない人間だと思いこむようになる。
そしてついに夫の浮気が発覚して、結婚生活は破綻する。

夫の裏切りに遭ったもかかわらず、レイチェルはいつまでも結婚生活を忘れられない。
際限なくお酒を飲みながら、幸せだった日々を思い返す。

誰もが戻りたくても戻れない幸せな過去を持っていると私は思う。
私にはある。
自分の人生でそこだけが光輝いてるような日々。
その輝きを思い返しては、毎日をなんとかやり過ごす。
でもそれは「今」を生きていることにならない。
過去にすがりついて生きるだけの無意味な人生になってしまう。

もちろん本作はミステリーとしても十分楽しめる。
レイチェルは、事件当日の記憶を徐々に取り戻していく。
そして事件の核心にたどり着くのだ。

ラストシーン、これまでとは違う、晴れ晴れとした美しい顔のレイチェルが電車に乗っている。
自分自身と自分の人生を取り戻したレイチェルの最後のセリフはこうだ。
「今日、私は違う車両に乗り、前だけを見る。なんだって可能だ。私は以前の私じゃないから」

私も前だけを向いて生きていこう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?