見出し画像

元研究開発者の日々の情報:精神疾患とCOVID-19の間に双方向性の関係(2020年12月7日号)

英オックスフォード大学のMaxime Taquet氏らは、診療データを6980万人分のコホート研究(#1)を行い、COVID-19と診断された人はその後に精神疾患の発症リスクが増加するか、逆に精神疾患の病歴がある人は一般の人よりCOVID-19と診断されるリスクが高いのかについて検討し、どちらも有意なリスク増加が見られたと報告しています。

#1 :分析疫学における手法の1つであり、特定の要因に曝露した集団と曝露していない集団を一定期間追跡し、研究対象となる疾病の発生率を比較することで、要因と疾病発生の関連を調べる観察的研究

画像1


COVID-19が精神面に及ぼす悪影響として、不安や抑うつなどのリスクの上昇が想定されているが、そうした影響を正確に評価するのは難しい。一方、COVID-19の身体的な危険因子は複数報告されているが、精神的な健康もCOVID-19の危険因子になるのかどうかは明らかではありませんでした。

最初に、COVID-19患者の後遺症として精神疾患発症リスクが増加するかを調べるために、TriNetXのデータから、2020年1月20日から8月1日までにCOVID-19と診断されていた年齢10歳以上の患者6万2354人を抽出しました。

次に、対照群として同じ期間にそれ以外の疾患(インフルエンザ、他の呼吸器感染症、皮膚感染症、胆石、尿路結石、大きな骨の骨折)で受診していた患者を抽出しました。

その上でCOVID-19患者のコホートと他の6種類の疾患のコホートから、greedy nearest neighbour matchingで傾向スコアが最も近い組み合わせのペアを1対1の割合で選び出した。マッチングさせた条件は50種類の変数で、内訳は28種類のCOVID-19の危険因子と、22種類のCOVID-19重症化の危険因子とされる状態です。

こちらの主要評価項目は、COVID-19診断の14日後から90日後までの、精神疾患、認知症、不眠症の診断に設定した。

一方、精神疾患の病歴がある人はCOVID-19発症リスクが増加するかを調べるために、2種類のコホートを作成しました。

第1のコホートは、前年(2019年1月21日~2020年1月20日)に精神疾患の診断を受けた18歳以上の患者とした。第2のコホートは、精神疾患の病歴はないが、同じ期間に医療機関を受診した患者としています。

2つのコホートから、28種類のCOVID-19の危険因子をマッチングさせ、精神疾患群と傾向スコアが最も近い組み合わせのペアを選び出した。こちらの主要評価項目は、COVID-19と診断される相対リスクとしています。

後遺症分析では、6万2354人のCOVID-19患者に対して、他の疾患で受診した条件がマッチするペアは4万4779組見つかった。コホート別では、インフルエンザが2万6497組、その他の呼吸器感染症4万4775組、皮膚感染症3万8977組、胆石1万9733組、尿路結石2万8827組、骨折3万7841組でした。

COVID-19の診断は、診断後14日から90日までの初回精神疾患診断リスクの上昇と関係していました。

90日までに精神疾患と診断されていた患者の割合は、COVID-19群が5.8%なのに対して、インフルエンザ群2.8%、他の呼吸器感染症3.4%、皮膚感染症3.3%、胆石3.2%、尿路結石2.5%、骨折2.5%でした。

COVID-19群の精神疾患発症の比較では、インフルエンザ、その他の呼吸器感染症と、皮膚感染症との比較で、胆石との比較では、尿路結石、骨折との比較で全て有意差が認められた。

COVID-19診断後の精神疾患の内訳で、最も多かったのは不安障害で、4.7%、次いで気分障害2.0%、不眠症1.9%、65歳以上の認知症1.6、精神病性障害は0.1%と他の分類群より少なかった。

精神疾患の病歴がある人のCOVID-19発症リスクを調べると、前年に診断された患者が172万9837人が明らかになった。

精神疾患の病歴がある人がCOVIDと診断される相対リスクは、病歴がない人に比べ1.65でした。相対リスクは高齢になるほど増加する傾向が見られている。76歳以上の男性の相対リスクは1.94、76歳以上の女性の相対リスクは2.17でした。

これらの結果から、COVID-19生還者はその後に精神疾患を発症するリスクが増加していること、精神疾患の病歴はCOVID-19の独立した危険因子である可能性が示唆されている。

引用元:Bidirectional associations between COVID-19 and psychiatric disorder: retrospective cohort studies of 62354 COVID-19 cases in the USA」、Lancet Psychiatry誌のウェブサイト


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?