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『生き延びるために芸術は必要か』 森村泰昌

森村泰昌。

関西の現代芸術家とあって、展覧会等には注目しています。

作風は、ゴッホやモンローにみずからなりすましてポートレイトを撮る、ちょっと毒々しくはあるけれど、でも結構冷たいキンとした空気感がある。

その著書を読んでも、実にクールで自分のことを少し離れた位置から客観的に見るような視点を感じます。

この本で特に唸ったのは、司馬遼太郎の「坂の上の雲」に描かれた明治感が、日清・日露と勝ち、廃藩置県もあって、現代の東京一極集中的な近代に向かうその「躁」に対し、実際に明治を生きた夏目漱石が、現代にも通じる人間の感情の揺れを描く、そのメランコリーの対比。

そこに、芸術界における、黒田清輝と青木繁や坂本繁二郎を対比させるくだりです。

こんな美術史論もう一回学びたいよなと、しかも今の年ならやっぱり自分につながる日本で近代が面白いよな、とワクワクします。

加えて夏目漱石は、躁のような馬の生き方でなく、鈍とした牛の生き方を明治に説いたということがとても気になります。

現代もスピードが何かと奉られ、とりあえず考えるより前に動いてナンボというのが礼賛される時代だけど、私自身もどこかでは「鈍」を大事にしたいと思うのです。

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