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【流川は敵役】レビューVol. 01『THE FIRST SLAM DUNK』

 ということで、初めてのレビューは2023年の大ヒットアニメ映画『THE FIRST SLAM DUNK』です。私の視聴回数は2回。いずれも近所の映画館で、IMAXではありません。
 当時、原作のスラムダンクは未読で、これが初めての井上雄彦作品でした。この記事を書いている現在はコミック9巻まで読み進めていて、「おもろ過ぎるぅ!」ってなってます。それはそれとして、映画は映画ね。

■作品紹介

 大人気マンガ『SLUM DUNK』の映画化作品。過去のテレビアニメやその劇場版とは関連のない、これ単体で観られる新作映画化。この映画のためにストーリーを編み直した、いわゆるリビルドにも近い作品となっている。
 原作者の漫画家 井上雄彦が監督・脚本を担当しており、確か作画監督か原画にもクレジットされていたはず。やりすぎ。ちなみに、脚本は誰かとの連名ではなく、井上雄彦の単独でのクレジットなので、自分で全部執筆されたのだろう。この点だけを見ても、恐るべき才能である。
 手書きと3DCGのハイブリッドアニメーション。原作で一番の盛り上りとなる(私はまだ読んでないけど)山王戦をメインの舞台にしており、ひとつの試合をまるまるそっくり一本の映画の中に落とし込んだような構成。試合のシーンを中心とした、バスケのシーンを主にCGで描き、ヒューマンドラマのパートを主に手書きで作っている。
 制作は東映アニメーションとダンデライオンアニメーションスタジオ。ダンデライオンって声優事務所の!?って思ったら、全然関係なかった。東映から独立した3DCGのスタジオとのこと。

 作品紹介としては、こんなところだろうか。


※ここからは映画・原作ともにネタバレありなので、大丈夫じゃない人は一旦ストップ。



■主役:宮城リョータ

 誰?でした。
 私自身は上でも述べた通り原作未履修で、ミームとして出回っている部分や名言、せいぜいが、あごタプタプとか、ふんふんディフェンスとかくらいまでを断片的に知っている程度。キャラクタも、桜木花道、流川楓、赤木=ゴリ、安西先生くらいまでで、三井をぎりぎり認識してるかどうか、くらいのスラダン素人だったわけです。(のちに「バスケがしたいです……!」の人だったと知る)
 だから、宮城リョータ君に関してはマジで何も知らない人でした。だけど、それこそが重要なポイントになっていると思います。

・手垢のついていないキャラクタ

 スラムダンクはやっぱり押しも押されぬ金字塔なわけで、世間のそこら中でいくらでもエピソードが引用されています。
 それゆえに、観客ひとりひとりのスラダン知識に差があり過ぎる。どこまでが「私にとってのスラムダンク」なのかが客席の中でバラっバラだと思うんです。そうなると、例えば順当に花道を主人公としたときに、何をどこまで説明するのかが非常に難しくなってしまう。
 あえて、最もミームから遠い存在、手垢のついていない宮城リョータを主役として担ぎだすことで、この映画の0分目から物語を始められるし、それこそが「一本の独立した映画」として成立する一つの条件だったのではないでしょうか。
 そして同時に原作ファンに微妙な表情をさせることにもなったんですかね、やっぱり。リョーちんファンは大興奮だったろうけど。

 あとは単純に、試合の中のポジションとして、コート全体を見渡すことが出来る特性、攻撃の始点になる、つまりどういう攻め方で行くか始めの選択をする立場という意味で、コート全体を見せる絵作りにも役立っていそう。
 内面の描写に重きを置きやすい、という部分もありそうだと思います。

■群像劇としての構成

 この映画は、コートの全体を舞台にすることに非常に成功している作品だと思っていて、それはこだわり抜いた3DCGでの絵作りにももちろん出ていますが、脚本やコンテレベルでの構成としても巧みに作られています。
 絵作りに関しては門外漢なのであまり言及しないつもりでいるんですが、にしても、画面の横の方の全然焦点が当たっていない場所でも細かく選手が動いていて、ハチャメチャに凝ってるなあ、とそこだけでも感じられますよね。すげえっす。

 コート全体を効果的に見せるために、脚本的には群像劇の手法を取り入れています。
 もちろん、全体を通した主人公は宮城リョータなのですが、赤木の過去、三井の過去をリョータとの絡みのあるエピソードで紹介し、それが試合の中でもそれぞれの苦戦とオーバーラップしている。
 そののちに、赤木単体で孤独との闘い、三井単体で怪我との折り合い、という深掘りの回想があり、彼らがサブ主人公ともいえるような、作品に厚みをつけるサブプロットが与えられていることが分かります。
 桜木と流川については、あまり触れられていません。流川は試合前にリョータと語り合うエピソードが簡単に描かれていますが。

・狂言回し、桜木花道

 桜木花道は、この映画の中で、予想外の動きをして流れを変える、いわゆる『狂言回し』としての役割を与えられているので、感情移入出来るキャラクタとして成立させる必要が無いのです。むしろ、それがありすぎると恐らくジャマになる。(原作ファンの人から、花道が晴子さんに告白する大事なシーンが抜けている!という憤慨の声を聞いたことがあります)
 しかし、最後のブザービートを決めるのは、天才・桜木花道その人。なので、背中の異変を機に、クライマックスまでは花道のドラマとして描いています。
 ただ、なにぶん終盤になって突然スポットが当たるのと、その部分だけ主人公が交代したような構成になっているため、とってつけたような印象になってしまっているのも事実かな、と思います。

・流川楓は『倒すべきライバル』

 さて、残すは流川きゅんなわけですが、彼はこの映画の中では『敵役』としてキャスティングされている、と私は考えています。
 上で述べた通り、赤木・三井については各人のエピソードを挿入することで、群像劇の一人としての性格を与えられています。
 もう一人、個人的なエピソードが登場する人物がいませんでしたか?そう、山王工業の無敗の天才・沢北です。

 この映画を『コート全体の』群像劇にするべく仕込まれた仕掛け。それこそが、沢北を赤木・三井に並ぶサブ主人公にすることで山王側にも感情移入する糸口を与えている構成なのです。
 試合前、神社に参る沢北のシーンが入ることで、彼に流川という『超えるべき試練』が立ちはだかったことが示されます。
 試合の中では、一見、流川が苦戦するシーン、そしてそれを突破するシーンとして見える流川vs沢北ですが、流川にはそれを突破する際のストーリーが与えられていません。むしろ、そこからが沢北の苦戦の始まりとして見ることができます。彼は最終的に敗ける訳ですが、その涙が響いてくるのは、こうしたドラマが結び付いているからでしょう。
 こうしてみると、流川とリョータで沢北のポスターに宣戦布告するようなシーンも、沢北の前に強敵が現れる予告のようになっている様にも感じられる気がしてきました。
 かくして、山王のエース沢北の苦戦が描かれることで、『THE FIRST SLAM DUNK』の湘北vs山王戦は、コートの両サイドを含んだいくつものドラマが一堂に会する群像劇の舞台としての試合を作り出すのに成功しました。

 さらに、そうして沢北にサブプロットを与えて群像劇の一人として持ち上げることで、ラストの、プロになったリョータvs沢北のシーンにもしっかりとした説得力が出てくる訳です。

 これが、私が映画を2度目見た後に、ノートに作品の内容を書き付けている中で発見して一番に驚いた部分で、今作の脚本的な肝になっているように感じています。井上雄彦を天才と呼ぼうと思いました。

■構成の解析

 ここで、作品全体の流れを振り返り、シーン構成について簡単に解析していきたいと思います。
 参考にするのは、シド・フィールドの三幕構成。
 拙い部分もあるし、また、メモを見ながらにはなりますが、なにぶん結構時間が経ってしまっているので、間違っている個所や抜けている個所もあると思います。よしなに見てくだされば。

Fig.1 THE FIRST SLAM DUNKのシナリオ模式図
ざっくりしすぎていてあまり意味を成していない気もする

[①アバン]

 宮城リョータの過去、兄との思い出が描かれます。もう、どうしたってここから始まったらこの人が主人公なわけです。原作ファンも「まさか?」と驚きながら理解したことでしょう。
 そして、海難事故による突然の逝去。ぽっかり空いた喪失とともに、この映画が始まりを告げます。

[②オープニング]

 楽曲はThe Birthdayの「LOVE ROCKETS」。湘北の選手がひとりひとり手書きで立ち上がっていくのとも相まって、非常にアガる映像になっています。冒頭の湿っぽさを払拭し、試合前の高揚感が否応なく押し寄せてきます。
 10人の選手たちが立ち並ぶ整列。かっくいい!!

[③試合開始]

 まずは、主人公チーム湘北高校のメンバー、赤木、流川、三井、宮城の活躍シーンから始まり、各人のキャラクタ紹介となっています。
 手元のメモでは桜木って書いた上から二重線で消してるんですけど、彼、無かったですっけ見せ場。

 そして、リョータが苦戦する場面になり、回想へ進みます。

[④回想:兄のように]

 長男を喪った宮城家のその後が描かれます。リョータの辛いところです。
 『兄の代わりにはなれない』
 『母を支えなければならない』
 そういった葛藤が彼を苦しめます。
 兄のように。それが、ここまでのまとめであり、この後の物語の方向を決める、ストーリー上重要なきっかけです。
 三幕構成でいうところの〈1stプロット・ポイント〉および〈インサイティング・インシデント〉です。ここまではいわゆるセットアップ。ここからが第2幕であり、メインストーリーの始まりと言っていいでしょう。

[⑤強豪『山王』]

 再び場面は試合へと移りますが、湘北のメンバーらの活躍がことごとく止められてしまいます。
 赤木の苦戦、三井の苦戦、流川の苦戦が描かれ、停滞するムード。それを取り払うのは、やはり桜木花道。彼が『狂言回し』として、流れを変えるドラマ上のきっかけを作ります。

[⑥回想:リョータとバスケ部]

 続いての回想は、宮城リョータが湘北のバスケ部に入ってからのエピソード。
 先輩としてチームの中心に立っている赤木と相容れなかったり、三井には絡まれて派手に喧嘩したり。リョータにも、観客にもストレスがかかる展開が続きます。
 そして、ずたぼろの体で疾走し、バイク事故を起こすリョータ。退院後、沖縄を訪れ、大雨の中、兄と潜ったホラ穴にたどり着きます。
 こうして、一度派手にキレることで、そして相応の時間が経ったことで、ようやくリョータは兄の死を受け入れることが出来たのでしょう。大泣きに泣いたあと、目にしたのは、かつて兄が読みふけっていたバスケの雑誌。打倒山王の夢。
 これが、この後の試合中での宮城の突破に繋がる、〈2ndプロット・ポイント〉です。

[⑦熱戦と沢北の苦境]

 とはいえ、簡単に勝たせてくれる山王ではない。試合の中では相変わらず苦戦を強いられて、赤木vs河田や三井vs疲労の戦いも熱を増していきます。そして、沢北vs流川。
 そんな中で、試合は進行していき、同時に、桜木花道の背中には異変が。

[⑧天才のブザービート]

 白熱する試合の中で、ついに点差は縮まり、安西先生の決断でコートに再登場する花道。
 ひょっとすると選手生命を賭けることになるかもしれない中で、ラストのブザービートに向けて一気に画面のテンションは上がり、クライマックスを迎えます。
 湘北が勝ち、山王の敗北を一身に請け負うように沢北が泣き。

[⑨エンディング]

 湘南の海岸で会う母子。強くなったリョータは、「恐かったよ」と過去形で言えるようになる。
 そして、アメリカでの後日談。高校を卒業した後でも、リョータと沢北は同じ舞台で鎬を削りあうのだった。


 ってな感じでしょうか。
 ポイントとしては、過去の回想が試合の展開とオーバーラップしているが、実際のプレイの内容と直接リンクしているわけではない、ということ。
 つまり、例えば回想で誰かの助言を思い出し、それによって新しいプレイを編み出す、みたいな展開は、たしか無かったはず。
 あくまで映像的な演出として試合のテンションと過去のドラマを符合させていたような印象があります。これはこれでうまい手法
 少年スポーツマンガにありがちな技のインフレや、やたらに説明臭くなってしまうのを避けられています。

 いやあ、頑張って思い出してみたけど、順番とか入れ替わってたりする部分あると思うし、捏造しているシーンとか、抜けている大事なシーンとか普通にありそう。まあ、来年2月末に円盤が出るらしいですし、そのうち確認して修正するかもです。
 半端なレビューでスミマセン。

■あとがき

 ということで、映画『THE FIRST SLAM DUNK』のレビューを書いてみました。
 2回目に観たのが2月の終わりだったから、9か月以上温めていた感想、ということになりましょうか。いや、そんな大仰なものではないですが。

 1回目を観終わった帰りに自転車を漕ぎながら、ふと、「あれ、この作品、作り方が分からないな」と気付き、今度は分析する心づもりで後日もう一度映画館へ足を運び、家に帰ってから必死に分析しました。
 どういう仕組みになっていて、どういうポイントを踏めばこの作品になるのかが知りたくて、映画の頭からシーンを書き出していくことで構造が見えて来て、めちゃくちゃ勉強になりました。

 こういったものを記事にしてアップするのは初めてなので、結構緊張しています。意見・感想がありましたら是非コメント下さい。私自身も、こういう作品分析は学んでいきたいところです。

 次回も既に準備中です。来週あたりに、『怪獣症候群』という同人小説アンソロジーの感想を載せようと思います。
 大分毛色が変わりますが、作品自体も面白かったので是非。

  以上


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