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悪癖

完璧な人間など存在しない。人生において悪癖のひとつもないような男は信用してはならない

かつてチャーチルが言った。

つまるところ、男でも、女でも、悪癖のひとつもない人間ほどおそろしいものはないということだろう。

悪癖など、誰しも腐るほど持っていると思うが、わたしのとっておきの悪癖といえば『本を後ろのページから読んでしまう』ことである。

なんの本だったかは失念したが(ルース・レンデルの本だった気がする)、「彼女の作品はとりわけ最後の一文が恐ろしい」という解説者の言葉をきっかけに、どの小説も必ず最後の一文を先読みするようになってしまったのだ。昔からネタバレなんて全然気にしないような人間だったし、本を後ろから読むなんてエキセントリックすぎてかっこいいと今でも一人自惚れているのだから、ほんとうにどうしようもない。

そういった影響もあって、最後の一文に痛打を浴びせられるような、鋭い一打を常に放つことは、小説を書くうえでの大きな目標である。実際はかすりもしないのだけど。

わたしが書く物語といえば、主人公とその仲間たちは大抵、涙を流しているか、瞳を伏せるか、閉じるかをしていて、ときには絶望したり、泣き叫んでいることが多い。どうも救われない話や悲恋が好物すぎて、その思考がなかなか変えられず困っている。これも悪癖のひとつであろう。

人を感動させることはもちろん大変だが、人を笑わせることはそれ以上に難しいと思う。

ほんとうは、いつも塞ぎがちな彼女を幸せにしたいし、24時間、仏頂面を張りつけている彼の笑顔を見たい。心の底から笑わせてみたい。悲しみの涙ではなく、涙が出るほどの笑いを与えたい。

うっかり笑わせてしまうような、それでいて、わたしの悪癖になるようなユーモアを身につけたいのはやまやまだが、果たしてそんな日が来るだろうか。細胞レベルに染み込んだ悪い癖は、なかなか治らなくてじれったい。

さて、あなたのとっておきの悪癖はなんだろうか。

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