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【長編小説】カットバンド #4 「Dirty deeds don't dirt cheap...」


くそっ。どこかへ走っていってしまった。
どうするべきか。後田つくし、中々に面倒臭そうだ。追いかけるにも、もう部活も終わる時間のようだ。
他の生徒に紛れ混まれては追いかけようがないな…。ここは一旦、戻って報告しに行こう。そう思って、ドントリーの地下に向かった。

「そうか…やっぱりか。」
「はい、もう一目散に逃げちゃって…」
「…やっぱ、単純じゃダメだな。もっと作戦を、練ってからじゃないとなあ。」
「そんなに、嫌われてるんですか?」

「…まあ、多分?」

「多分って…」
何をしたのか知らないが、あそこまでの拒否反応は普通じゃない。なのに多分って…。
「ま、とにかく何かあったってことだろう。」
「それで、どうするんですか?」
「こういう時する事は決まってんだろ。」
「こういう時にあんまり遭遇しないので…。」

「『誘拐』だよ。」

「はい?」
俺がそう言った後、「すぐ戻る」と言って、席を外した。数分後、みそらさんは若干古めかしいダンボール箱を持ってきた。
「これは?」
「見ればわかる。」
バコッ、という音と共に埃が舞い散る。俺は埃アレルギーなのですぐさま離れる。
埃が大体落ちた後、近付くとそこには…
「目出し帽…ですか?」「ああ。」
「そして……、手袋と、ヘルメット、ゴーグルに、催涙ガスに煙幕に…あと『秘密兵器』。」
「秘密兵器?」
「使ってみてのお楽しみだ。」
ぽーいと、俺にその『秘密兵器』を投げる。
「こ、これはまさか…!」

「作戦は明日、T西高が部活の時間に決行する。」
「あたし、手伝わないからね。」
張り切るみそらさんを横目に、カリスさんはテーブルに突っ伏して眠そうにしている。
「えー、いいじゃあねーかよ、ケチオカマ。」
「当たり前よ、下手したら前科持ちになっちゃうわ。」
「じゃ、じゃあ俺も…」
「お前はダメだろ、200万。」
くそっ。やっぱりダメか。
「で、でもこの作戦に2人じゃあちょっと少ないんじゃないですかね。少なくとも、実行班が2人、見張り役が1人は必要だし、あと一人足りないと思います。」
「そこも抜かってはいない。カモン!エージェント『D』!」
「はっ!」
みそらさんが指を鳴らすと、黒いスーツに身を包んだ女の人が天井を突き破って三点着地で登場した。真っ黒なサングラスをつけていて、さながらMIBエージェントのようだ。
「こいつが今回の任務に同伴するプロエージェントの『D』だ。」
「貴方があつしね。私は『D』。特務隠密捜査機関『SSCC』のチーフエージェントよ。」
その気迫と漂うオーラは、頼り甲斐のある姉貴分、先輩エージェント……。

「墓守どうか、17歳、菊の花高校の2年で、
スニーキング部の部長よ。」

えっ。

「ちょ、ちょっとカリスさん!!」

えっ。

あっ(察し)

ふ〜ん(軽蔑)
どうやら、普通の女の子のようだ。…なんか、まあ、安心した。
「…ま、まあとにかく、実力は確かだ。見張り役にはうってつけの人材だ。」
「見張りってのがちょっと、不服ですけど…。まあいいでしょう!私の実力、見せてやりますよ!」
「…じゃあ、頼みますよ!」
そうして、不本意ながら、人生初の故意による犯罪を犯すこととなった……。
「なあ、あつし、ひとつ聞いてもいいか?」
「はい?」

「なんでお前がT西高の制服持ってんの?」

「あっ。」

どうやら、ミッションは二つになったようだ。


決行当日の放課後のこと。

「どうかさん、そちらに誰かいますか?」

〈「今の所誰も見えないですね。行っていいですよ。」〉

「よし、あつし、前の扉に構えろ。俺が後ろから突入する。」
「了解!…です!」

緊張が走る。指示を待つ。心臓の拍動がテンポをどんどん上げていく。

「待て、あつし、様子がおかしい。」

その声に、拍動がミュートされる。


「俺らはいつも言ってるけど、気持ち悪いよ。お前。」

教室から音漏れしたのは、明らかにつくしさんの声ではなかった。つくしさんはここにいるはずなのに、つくしさんの声が聞こえない。

「お前はいっつも机トコトコトコトコ…いい加減うざいって言ってるよな?。俺らずっとやめろって言ってるよな?日本語わからないのか?それとも何だ?俺らに反抗か?」

「…」

「お前はッ…生意気なんだよっ!」

教室からは、嘲笑と、壁や床、ロッカーや机に何かがぶつかる音が響いている。

「この音を止めなくては!」そう思った。
これは音楽というにはあまりにも酷い出来だ。
止めなくては。でも、俺には止められない。

ばきっ。と、何かが壊れる音がした。

「あっ、はっ、なっ、なんだお前!」

ん?
さっきと、声色が明らかに変わった。周りもざわついて、心なしか、なにかに悶えている。
気になって窓から教室を覗いてみると…。

「貴様はこの世で最も価値のないモノの1つだ。そんなモノに名乗る名などない。」

「うっ…ぐぅ……まさか…みそら…?」

なんと、そこには、ドアを破壊したみそらさんが、声の主の前で仁王立ちしていた!

「日野、来い!『D』もだ!」
〈「ええーっ!!私、見張り以外もしていいんですかー!?すぐに行きます!!」〉

返事が早い!ひっそり期待してたのが確定バレバレ濃厚だ!

「り、了解!」
1拍遅れて、俺も返事をする。
「おいつくし、投げるぞ!」
「よ、よし!…え?」
「あつし、キャッチしろよッ!」

「は?」
みそらさんは、ガシッと両腕でつくしさんの制服の首根っこを掴み、こちらに投げた。
よーし、ばっちこい。絶対に捉えてみせる。

あ、まずい、無理だ。これ、キャッチ出来ない。やばい。ぶつかる​───────​──────…

「…あれ?」

ぶつかっていない。
前を見上げると、そこには、どうかさんがつくしさんを横抱き、お姫様抱っこの状態でキャッチしていた。どうやってやったんだ、それは。

「一度キャッチしようとしたのはよかったですよ、日野君!」

…惚れた。
というのはさておき、現在。みそらさんが、一人で複数人を相手している。どうみても多勢に無勢だ。加勢したほうがいいか…?

「『D』、『秘密兵器』だ!ピンを抜いて投げろ!」
「了解!」

そう言うと、つくしさんを横に寝かせ、ポケットから『秘密兵器』を取り出した。なぜか、やけに手際がいい。やっぱり、期待してたんだな。
カランカラン、と音を立てて、『秘密兵器』が転がる…。


ありがとうよ、どうか。まあ、よくもこんなものを思い付いたなと、自分でも思ったよ。

鍵が閉まる。それと同時に、俺の秘密兵器は作動する…。

パンッ!

ああ、やはりガスマスクは偉大だな改めて思うよ。そうだ、秘密兵器の名を伝えて無かったな。秘密兵器、その名は…

『10年物のシュールストレミング』

「おおおぉおおえええええっっ!!!!くっっっせええええええ!!!!!!」

「くっっっさおぼろろろろろろろろ!!!!」

「カコウアァッ!!!カプッコォン!ヌッ!ルッ、オゥオ、コケケエエエエ!!!!」


「日野君、作戦は成功ですよ!」

「…そうみたいですね…」

「おっえ、私の手くっせえ!!!!」

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