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『月に吠えらんねえ』3~5巻の見どころ 第1回

 現在、漫画アプリ「パルシィ」で『月に吠えらんねえ』が5巻まで実質無料で公開されている(毎日最低8枚は供給される”チケット”で一話ずつ読める設定になっている)。10月27日までの予定。

 過去にもkindleなどで2巻まで無料版が公開されたことはあるが、5巻まで実質無料というのは正直破格。
 なので、3~5巻にある見どころ・読みどころを月に吠えらんねえ公式Twitterを引用しつつ紹介し、未読者あるいは最初のほうだけは読んだけど、そういえば続けては読んでなかったな……という方々にアピールしてみたいと思う。

アピールの前に:そもそも『月に吠えらんねえ』とは

 タイトルから明々白々なとおり、詩人萩原朔太郎が題材になった漫画。
 主人公は萩原朔太郎の作品の印象から造形された朔くん。周辺人物もみな、室生犀星、北原白秋、三好達治など詩人とその作品から生まれている。彼らは□街という詩人・歌人・俳人が住む街に住んでいる。この街では詩人の想像力のたまものか訳のわからないことが平気で起こる。
 文学史における戦争、ジェンダーなどに切り込む展開がある。
 第20回文化庁メディア芸術祭漫画部門新人賞受賞。

3巻の見どころ:本格的に描かれ始めた戦争の影

 1巻の終わりから2巻にかけて、詩情を取り戻すために旅に出たはずなのに戦地をさまよっている犀や突如空襲に襲われる□街が描かれ、すでに「戦争」の要素が物語に入り込み不穏な雰囲気を醸し出してきていたが、3巻では『月に吠えらんねえ』とうい漫画が本格的に戦争と文学について描く作品だということがはっきりする。
 2巻の空襲のシーンでもモッさんが呟く短歌やチエコさんの口からあふれる高村光太郎の詩で、文学による戦意高揚が描かれていたが、3巻での□街はより露骨に戦争の熱気に包まれている。朔くんも要求されて南京陥落の詩を書くし、石川くん以外の詩人たちの態度も歯切れが悪いか、これが普通じゃないか、という態度をとるか。このあたりの初読での口の中が苦くなる感じはなんとも言えない。
 そしてサイパン島を彷徨う犀が、そこで出会った少女に自らの詩をもって語りかけ、交流するが、最終的に救うことができないという展開。甘いところが一切ない。
 1~2巻までならぎりぎり、文学者をキャラクター化し登場人物同士が交流するさまを楽しむ幻想的な漫画(時々不穏)で済んでいたのに3巻のこの展開に衝撃を受けた人は、特に『月に吠えらんねえ』が文学と戦争を描く漫画だという認識が広まっていなかった当初の時点では多かったのではないだろうか。

 パルシィでの『月に吠えらんねえ』のチケットでの公開が始まったのが7月、8月15日あたりで犀のサイパンでの放浪と少女の命の終わり(その終わり方は時代の価値観の中で少女が自ら考えて選択した方法によるものであったからこそなおさら)を目にすることになったのは、すでに何度か読んでいても、新たな思いを呼び起こす力があった。
 少女の死を見届けたあとのモノローグの内容は、現在を生きる私たちにまったく無関係ではないことを言っているので、未読の人には是非読んでいただきたい読みどころである。

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