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『月に吠えらんねえ』3~5巻の見どころ・読みどころ 第2回

 漫画アプリ「パルシィ」で『月に吠えらんねえ』が5巻まで実質無料で公開されている(毎日最低8枚は供給される”チケット”で一話ずつ読める設定になっている)。10月27日までの予定。
 本記事では4巻の見どころ・読みどころをアピールする。

4巻のみどころ:第17話「あどけない話」チエコとコタロー

 『月に吠えらんねえ』に登場する人物は基本的に詩人とその作品の印象から生まれた存在である。□街に住んでいるのは皆、詩人・歌人・俳人である。
 しかし、少年の姿で登場する高村光太郎作品由来の存在、彼がつれているチエコさんは詩人ではない。チエコさんは高村光太郎が妻への愛を描いた詩集『智恵子抄』の存在によって形を得ることができた存在だ。
 □街ではコタローくんは少年、チエコさんはキャタピラ付巨大ロボットという姿だが、物語の舞台が美術街に移動することで奇妙にも二人の姿が変わり、チエコさんの内面が語られる展開が起きる。

 女学校を卒業した「新しい女」として、絵画の道で名を成すことに憧れつつ、実家の没落と評価されない絵、そして才能ある芸術家である夫の隣にいる小さな自分に苦しめれられた彼女の一生。
 智恵子抄という詩集は、夫の側から、ともに芸術生活を送る妻、その生活の果てに発狂する妻の姿を描いている。智恵子抄は愛の詩集として後世に残ったけれど、それは本当に愛なのか、という問いかけが『月に吠えらんねえ』のこのあたりの展開にはある。
 コタローくんは問う「チエさん これは愛だろうか」。
 この問いに至る流れと、この問いに対する答えは4巻の中でも是非読んでいただきたい読みどころである。
 『月に吠えらんねえ』は詩の引用が多用されている作品だが、実は膨大な参考文献に基づく作者の解釈から生まれたオリジナルの言葉の力が相当強い。
 戦後まで生き延びた高村光太郎の内心で、亡き智恵子とこんなやりとりが行われていたかもしれない、と感じられるくらい説得力がある。

中心人物は萩原朔太郎≒朔くんだけど

 『月に吠えらんねえ』というタイトル、読む前から「ああ、萩原朔太郎をモチーフにした作品なんだろうな」ということが想像できる。実際、中心人物は萩原朔太郎≒朔くんと萩原朔太郎の周辺にいた人物と作品がもとになった人々ではある。
 でも、がっつり萩原朔太郎周辺というわけでもない人物の描き込み方もすごいということが、このコタローくんとチエコさんの話でもわかってもらえると思う。この直後にあるアッコさん(与謝野晶子)とヒロさん(与謝野鉄幹)のエピソードも、すごいよ。

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