空想お散歩紀行 デジタル不老不死
あれからどれくらいの時が経ったであろうか。
脳の仕組みが完全に解明されてから、その仕組みを人工的に再現できるようになるまで、そう長い時間は掛からなかった。
人の脳をデジタル上に完全に再現する。
人生コピー。それはそう名付けられた。
そして私は今、このネット空間の中にいる。
肉体はとうの昔に無くなってしまったが、私の人格は今なお顕在だ。
自分の人生をコピーして、最初に驚いたのは過去の忘れてしまっていたと思える記憶も全て再び手にすることができたことだ。なので、今や私の人生の一分一秒漏らすことなく、いつでも好きな時に思い出すことができる。
基本このデジタルの世界にいるが、物理現実に出ることも可能だ。
私のこのデータを、予め用意した人型にダウンロードすればいい。そうすることで物理現実で活動が可能だ。
食事もできるし、セックスだってできる。その時の感覚をそのまま体験できるのだ。
人型も好きに選べばいい。子供、大人、男、女。もはや年齢や性別といった壁は私には無い。
そもそも肉体の死という人間最大の恐怖から解放されたのだ。
もはや私は完全になった、と思っていたのだが。
どうしても何かが足りないという気持ちが消えない。
あらゆる不安や心配が無くなり、世界中のあらゆる知識が私と同化しているはずなのに。
それでも何かが私から欠けているようなそんな感覚。
ただ、時間だけは無限にある。この何かが無限の時間と無限回の計算でいつしか解明されるときが来るだろう。そう、ここは完全なのだから、何も心配することはない。
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