空想お散歩紀行 自由にゆる~く考えよう
「まだまだだな」
バサッと机の上に投げられる紙の束。それはとある計画書の束であった。
目の前で計画書を投げられた、それを書いた本人、ロランは不満足そうな顔で前を見る。
「僕としてはちゃんとした出来になっていると思うのですが」
丁寧な言葉遣いに収まっているが、声の端々には明らかに苛立ちが顔を出している。
それに気付いているのかいないのか。ロランの上司であるヒゲの男、ガイクスは机の上に脚を投げたまま答えた。
「確かにちゃんとしている。だがそれだけだ」
「だったら問題ないのでは?」
ロランは自分の上司であろうと決して退くことはない。それだけ今回の出来には自信があった。
「何て言うかな~。こう、もうちょっと遊び心って言うの、そういうのがあってもいいと思うんだよね~」
「めちゃくちゃアバウトじゃないですか。だいたい、遊び心なんて不真面目です!」
ロランは目の前の男の能力を高く評価し、尊敬していた。だが、それはあくまで仕事上のことで、人間としてはイマイチ苦手な部類だった。
「いやいや大切よ。そういうとこ」
ガイクスは過程を大切にする感覚派で、ロランは結果を大切にする理論派なとこも、この二人が合わないようでいて、バランスが取れている所以だった。
ガイクスは口元に笑みを浮かべながら、しかし決してふざけてはいない口調で話し始めた。
「大切なのよ。遊びってのは。しっかりしたものっては存外脆いものなのさ。こうするべき、ああするべきって考えすぎると、それ以外が見えなくなる。最悪、べき以外はありえないものとして最初から排除して考えようともしない。でもそこに重要なことがあったりするもんさ」
「言いたいことは何となく分かりますが、今回のことと何の関係が・・・」
「お前、ストーリーを書くとしたら、最初から書かないといけないって思ってるだろ?」
突然の例え話にロランは少し付いていくのが遅れそうになった。
「いいんだよ別に。好きなように書いても。エンディングだけを書いてもいいし、途中の山場だけを書いてもいい。読んでる人間に気ぃ使って、今どういう状況か説明しなくてもいい。案外その方がおもしろいもんができたりするかもな」
「・・・・・・・」
いまいち真意を測りかねている部下に、その上司は最後にいい加減に言った。
「ま、もっと気楽に考えればいいってことさ。ゆる~く行こうぜ」
ガイクスのお気楽を形にしたような表情にロランは、軽くため息をつく。しかしそれは失望と言うよりも、いい意味で気が抜けるような感覚だった。
「分かりました。ゆるくやるつもりはありませんが、もう少し頭を柔らかくして再考してみます」
机の上に置かれた紙の束を手に取ると、ロランは部屋の出口へと向かった。その背中に明るい声が掛かる。
「お前にゃ期待してるからよ。いいの頼むぜ。『政府議事堂爆破。腐った豚絶滅テロ』計画をよ!」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?