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空想お散歩紀行 隠され続けたものの価値は・・・

「博士!これは新たな発見です!」
その日、研究室内は沸き立っていた。
遥か昔の人間が生活している写真が遺跡から見つかったからである。
この世界はかつて、とあるウイルスにより文明がかなり荒廃した時期があった。
しかし人々の懸命な努力により何とか滅亡の危機は逃れ、今ではそのウイルスへの対策は完璧に行われている。
対策と言っても、ウイルスに打ち勝ったわけではなく、特殊なマスクを常に付けるということだった。
屋内でも屋外でも常に付けなければいけない。
ウイルスはどこにでも常にいるからだ。
外すのは個人用殺菌カプセルに入って体を清める時か、個人用睡眠カプセルに入って眠る時くらいだ。
「むう、これが過去の人々の生活だと言うのか・・・」
大きなモニターに映し出されたその写真を博士を始め、研究者たちも見ている。当然全員がマスクをしている。
しかしどこか皆、居心地が悪そうな雰囲気を醸し出している。
その写真をまっすぐ見ることができず、かと言って目を逸らすのも逆におかしいような、そんな感じだ。
その写真とは、昼間の公園の風景だった。
太陽のもと、何人もの家族連れが楽しそうに遊んでいる。
休日だろうか、その写真に映っている人々は皆笑顔だ。
「・・・昔の人って大胆なんですね」
「うむ。ウイルスが出現する前の世界とは言え、ここまでとは・・・」
「今の僕たちの価値観ではなかなか理解ができないと言うか」
「大丈夫ですか?これ、世界にそのまま発表しても。何かしら処理は必要なんじゃ・・・」
研究者たちが、口々に自分の意見を言っている。その理由はまさにその写真の内容にあった。
それは、写真の人々が誰一人としてマスクをしていないのである。ウイルス前の世界なので当たり前と言えば当たり前なのだが、
「なんとまあ、ハレンチな・・・」
研究員は皆、どことなく顔を赤らめている。
ウイルスが世界に蔓延して何百年。世界中の人々がマスクをして生きるようになった。
マスクで顔の下半分が隠れているのが当たり前。食事もマスクをしたままできるように開発されている。
マスクを外すのは基本一人の時か、恋人同士が愛を重ねる時くらいのものだ。
なので写真に映っている人々が昼間の、それも屋外で堂々と口や鼻を露出していることが、今を生きる人間には理解しがたい行為なのだ。
それは性器を出しているのとほぼ同じ。
何百年も隠されたことで、鼻や口も性的なものとして位置づけられたのだ。
「まるで、違う星の生命体を見ている気分ですね」
「うむ。実に興味深い」
写真に映っている若い女性の顔をまじまじと見る博士たち。
そこに、コホン、と女性研究員の咳払いが聞こえ、慌ててモニターの画面を切り替えた博士なのであった。

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