空想お散歩紀行 外敵見敵必殺
「郵便でーす」
目深に帽子を被った配達員が郵便物の伝票を差し出す。口元だけがにこやかに笑っていた。
目の前には大きな城壁と、その内側に入るための門。その門の前にいる見張りの者が、伝票をチェックする。
「よし。通っていいぞ」
「どうも。では」
配達員が軽く会釈をして、門の中に入ろうとしたその時
「悪いが通すわけにはいかん」
突如、声だけが響く。声の主は配達員でもなければ、門の見張りでもない。
次の瞬間、
「ぐぎゃあああああ!!」
配達員が絶叫を上げたかと思うと、その場に倒れる前に体が消滅した。一片の欠片も残すことなく。
そして、その配達員が先ほどまで立っていたその背後にいつの間にか一人の男がいた。
手に剣を持った軽装の鎧を着た男だ。
その男はとくに感情を表に出さず、一体何が起こったのか分からないという表情をしている見張りに近づいた。
「気を付けろ。こいつはウイルスだ」
数えきれないほどの情報が一瞬も休むことなく飛び交っているネット。
その情報が最終的に行きつく各端末。その端末を護るため、ネットの海から乗り込んできたウイルス等有害プログラムを殲滅するための部隊、その一員が彼だった。
「最新のバージョンにアップデートはしているか?最近は新種のウイルスも増えている」
「す、すいませんでした」
謝罪する見張りに、特にそれ以上責めるわけでもなく、フォローするわけでもなく、彼はまた門の中へと戻っていく。
その時、彼の腰に付けている機械から通信が入った。
「今すぐ応援に来てくれ!どうやらダウンロードされたフリーソフトに不審物が付着していた模様。このままではバックドアが開く可能性あり!」
「くそッ、またか。怪しいフリーソフトなんてなぜ入れるんだ、ここの主は」
だが、文句を言っていても始まらない。彼の仕事はただ侵入してきた外敵を排除すること。日々新しいものが生まれるこの海からこの城を守ること。それしかできない。彼は現場に向かって走り出した。
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