空想お散歩紀行 彼方への架け橋
橋とは、あちらとこちらを繋ぐ物。橋を架けることで、人の移動、物資の輸送と文字通り人々の生活を支える役割を果たす。
そして今ここに、新しくできたばかりの橋の真ん中に立っている男がいた。
彼は橋専門の建築家で、世界中を股にかけ都市の巨大な橋から田舎の小さな橋まで仕事の大きさを問わず、あらゆる橋を造っていた。
「やっぱりいいねえ。できたては」
男は橋の上という場所が好きだった。
橋とは、あちらとこちらを繋ぐ物。なので橋の上というのはあちらとこちらが混ざり合い、どちらでもあり、どちらでもない場所となる。それが彼の考えだった。
今彼は自分が造った橋を行き交う者たちの姿を眺めている。
この彼の言うところの、どことも言えない場所を誰かが通る。それによって何が起きるのか、世界が変わっていくのかどうかを、取り留めも無く想像するのが彼の趣味だ。
もしかしたら、この時間のために橋を造っているのかもしれなかった。
その時、彼のポケットの中からの振動が彼の体に伝わった。
「もう、せっかくいい時間なのに」
ポケットからスマホを取り出すと、それに向かって明るく答える。ディスプレイの表示で相手が自分の依頼主だと分かったからだ。
「はいもしもし。ああお疲れ様です。ええ、今完成品のとこですよ。ええ、問題ありません、予想の範囲内といったところですかね」
彼は改めて、自分の造った橋を通る者たちを見る。
それは、どれもこれも人では無かった。
人の形に近い者もいたが、全ては異形と言って差支えない化物の集団だった。
その集団は彼には一瞥もくれることなく前を通り過ぎていく。
「数日以内には、何かしら反応があると思いますよ」
橋とは、あちらとこちらを繋ぐ物。見方を変えれば、橋を造ることであちらとこちらができるとも言える。
彼は普通の橋を造るだけではなく、別の世界との繋がりをも造ってしまう力を持っていた。
あちらとこちら。彼岸と此岸。事実と虚構。
依頼主と話し終わった彼は通話を切る。
二つを繋ぐ場所。その二つのどちらでもあり、どちらでもない場所。そこで彼はまた心静かに物思いにふけるのであった。
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