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アウトライナーフリーク的個人年表 2004〜2023

前編(1975〜2003年)はこちら。

2004年

仕事仲間に紹介された仕事を請けるための条件は派遣会社に登録することだった。ということで2月から便宜的に「派遣社員」として仕事をするようになる。

新しい仕事ではPowerPointとExcel方眼紙で長文ドキュメントを作成することが必要だった。PowerPointはスライドを作るため、Excelは計算するためのものだと認識していたので衝撃を受ける。

レポートのドラフトをアウトライナーで作り、内容が煮詰まってきたところでPowerPointやExcel方眼紙に移すという方法を取ろうとするが、「できたところまで共有して」と言われて往生する。

新しい同僚たちが紙に下書きしてPowerPointで清書しているのを見て、ライティングの手法が80年代からほとんど進歩していないことに衝撃を受ける。

5月、安定した収入。

6月、安定した収入。

9月、契約社員になる。

2005年

4月、正社員になる。

プライベートでPowerBook G4を購入。6年ぶりにMacユーザーに復帰した。OmniOutlinerも購入したがほとんど使う時間がなかった。

PowerPointとExcel方眼紙の上で思考できるようになろうと努力するも、羽をもがれたような気がする。PowerPointにもアウトライン機能があるのが多少の慰めになる。

2006年

長大ドキュメントの作成にWordのアウトライン機能+スタイル機能を使うことを社内で提案する。たぶん、今ならそういうことはしない(この件に関してはアウトラインを作るだけで半自動的にフォーマットされるテンプレートを作り、社内セミナーまで企画したが数年後に諦めた)。

プライベートMacで、かつてのActaの作者が作成したOpalというアウトライナーを使い始める。Actaの使用感がほぼ完全に再現されていることに驚く。90年代にMacのアウトライナーを使っていたあの感覚──断片が収束して密度を上げてく感覚──が蘇ってくる。

このとき抱いた「なぜWordのアウトラインモードではこの感覚が得られなかったのか?」という疑問が、後に「プロセス型アウトライナー」と「プロダクト型アウトライナー」の違いに気づくきっかけになるが、当時はActaやOPALこそが「真のアウトライナー」なのだと思っていた(そんな単純な話ではなかった)。

2007年

以前作りかけていた本のアウトラインとメルマガに書いた原稿を元に個人サイトに「Happy Outlining」というページを作り始める。この時代にアウトライナーの本など成立するはずがないと思うようになっていた(90年代と異なり、アウトライナーは冬の時代だった)。

デイブ・ワイナーの「アウトライナーとプログラミング」をはじめ、海外のアウトライナー関連記事の翻訳も始める。勝手に訳した上で著者に許可を求めるメールを送る方式を採用(万一断られたら労力は無駄になるが、許可を得てから訳すという順番ではおそらくできなかった)。

2008年

Happy Outliningと並行してブログを始める。「ちゃんとした記事にならない」雑記を放流する目的だった(だから「言葉の断片=Word Piece」という名前になった)。

Happy OutliningにしてもWord Pieceにしても、当初はアウトライナー(Opal)でだいたい書き上げた記事をCMSやブログエディタに貼りつけて完成させるというやり方だったが、長めの記事だとその後もアウトライナーを使いたくなることが多く、後にOpalからWordに移し、完成させてから貼りつけるようになる。

ドラフトまでをプロセス型アウトライナー、それ以降をプロダクト型アウトライナーという棲み分けがこのあたりから確立される(でもプロセス型、プロダクト型という用語はまだない)。

2009年

デイブ・ワイナーのScripting Newsを最初から最後まで通して読む。アウトライナーの歴史と思想の宝庫であり、ブログの歴史と思想の宝庫でもある。

断片を流すはずのWord Pieceに徐々に「記事らしい」記事が増える。Opal上で自由にアウトライン・プロセッシングするうち断片が次々と結合・収束し、自然にそうなっていった。「これpiece(断片)じゃないよなあ」と思っていたところ、pieceには「作品」という意味もあるという啓示を受ける。

翻訳が楽しくなってきて、アウトライナー関連以外にもいろんな翻訳をする。特に文章を「uncopyrighted」という条件で公開していたレオ・バボータの文章は数多く訳させてもらった。実は電子書籍として最初に有料販売したのはレオさんの本を訳したものだったのだ(現在は販売終了)。

デイブ・ワイナーに影響されてTwitterを始める。

どれほど忙しくても週末には意地でもブログを更新するようになる。

2010年

午前6時に出勤して午前2時に帰宅する生活になるも、最低週1回の更新は意地でも維持(同音異義語)。

AppleのPagesに本格的なアウトライナーの機能が搭載される。Wordと同じく「見出し」スタイルが設定された行をアウトライン項目として抜き出すタイプ。

これまでWordを使っていた用途をPagesに切り替える。Mac OSの見た目との親和性はWordの比ではない。しかしPagesのアウトライン機能は後に削除されTak.さん激怒。

yomoyomoさんのYAMDAS ProjectにHappy Outliningを取り上げていただく。

深夜のコンビニでぶっ倒れて頭を強打し7針縫う。

たぶんこのままではマズイと思い、OmniOutlinerで人生のアウトラインを真剣に作る。今自分がしていることには上位階層が複数あることに気づく。

2011年

東日本大震災の日はたまたま腹痛で会社を休んでいて、地震発生時には病院にいた(急性胃腸炎だった)。前年に人生のアウトラインを見直していなかったら無理して出社していたかもしれず、もしそうならその時間は急性胃腸炎を抱えたまま埼玉某所で身動き取れなくなっていた可能性が高い。

Evernoteの台頭でアウトライナーが時代遅れになりつつある感を抱く。

日本産の超高機能なアウトライナーTao(後のNeo)をしばらく使う。MOREを彷彿とさせる機能(クローンとか集合とか)を備えたアウトライナーは貴重だったが、Opalのシンプルさと透明感に破れる。

Word Pieceで不定期にアウトライナー関連の記事を書いているうちに、アウトライナーについての質問や相談をメール等でいただく機会が増える。

2012年

メインのアウトライナーをOpalからOmniOutlinerへと本格的に移行。

OmniOutlinerはずっと登録ユーザーでありながら本気で使っていなかったのだが(日本語フォントの表示にちょっと問題があった)、気分転換にブログを数記事書いてみたらすごく具合がよかった。文章を書くためのエディタとしての動作がOpalよりも自然だったのが決め手。

OmniOutlinerのフォントには、Mac版Officeに付属してきた「メイリオ」を使うとベストマッチ(個人の見解です)。

自分で言うのもなんだけど、この時期のWord Pieceの密度はすごかった。その密度を支えていたのはOmniOutlinerだった。

2013年

デイブ・ワイナーの手によるアウトライナーFargoが登場。最初のアウトライナーThinkTankの直系の子孫。それよりも何よりも、実用的なアウトライナーがウェブアプリとして登場したことに驚く。それは環境を問わず人に勧められるということだ。

と言っているうちに、フォロワーさんを通じてWorkFlowyという、これもウェブアプリのアウトライナーの存在を知る。試してみて、そのUIと速度と滑らかな動きに驚愕する。

ひとつのアウトラインにすべてを入れるというWorkFlowyの思想は、アウトライナーの歴史の中ではじめての飛躍だとも感じる。「ひとつのドキュメントであると同時に複数のドキュメントの集合体でもある」という特性は最初期のアウトライナーがすでに持っていたものだが、ユーザーも開発者自身もその本当の意味には気づいていなかったのだ。

Tak.としての活動を通じて知り合った人とはじめてリアルで会う。倉下忠憲さんの『KDPではじめるセルフパブリッシング』の発売記念イベントでのこと。

倉下さんの本にも後押しされて、KDPでの出版について真剣に考え始める。WorkFlowyの登場によりユーザーの間口が劇的に広がったことと相まって、「アウトライナーの本を書く」ことがにわかに現実味を帯びる。

2014年

Happy Outliningの構成をベースに、あらためてアウトライナー本のアウトラインを作り始める。

OmniOutliner上で仮アウトラインを作り、Happy OutliningとWord Pieceのアウトライナー関連記事を放り込む。気づいたこと、新たな思いついたことを加筆し、ボトムアップで見出しを立てる。新しい見出しがうまくはまるよう仮アウトライン全体を組み替える。

全体像が見えてきたらWordに移行し、後はプリントアウトしては手書きで修正を書き込み、Wordに戻すことを繰り返す。これをしていると、Wordのアウトラインがあたかも自律的に変化しているように見える。

作業の中でシェイク、プロセス型アウトライナー、プロダクト型アウトライナーという名付けが行われる。

12月、10年間勤めた会社を退社し、またしてもフリーランスに。「この会社に10年いて体重が2キロしか増えなかったことは高く評価されるべきです」と後輩に言われる。

2015年

3月、アウトライナーのことを考えていて階段から落下し全治2週間。

5月、『アウトライン・プロセッシング入門』をKDPで出版。本格的に作業を始めてから8か月、芝公園駅のホームで思い立ってからは12年かかった。

30冊くらい売れたらいいなと思っていたところ、いわゆるライフハック界隈の多くの方にブログ等で取り上げていただき、まさかの嬉しい誤算となる。

メインのアウトライナーは一貫してOmniOutlinerだったが、アウトライナー本を書くことを後押ししてくれたのはWorkFlowyの存在だったし、多くの人に読んでもらえたのも誰でもすぐに試せるWorkFlowyあってのことだった。OpalやOmniOutlinerがいくらいいと言ったところで、それまではアウトライナーというニッチな世界の、そのまたMacだけの話だったのだ。

6月、タスク管理でのアウトライン・プロセッシングに特化した続編の作業に取りかかる。3か月くらいで出すつもりだった。仮題は『ライフ・アウトライン』。

8月、『アウトライン・プロセッシング入門』がKindleの「日替りセール」対象に選ばれる。Kindle有料ストア1位を1日半にわたって継続。

9月、技術評論社より「アウトライナーの本を書きませんか」という連絡をいただく。商業出版の対象にはなり得ないニッチなテーマの出版手段としてKDPを選んだのに、その結果として商業出版の話をいただくというのはなんとも不思議な話。

フリーランスとしての引き合いもいろいろあって順調のように思えたが、この頃から本格化した私生活上の問題が徐々にシャレにならないレベルになっていく。

2016年

WorkFlowyを画面例として紹介する関係上、メインのアウトライナーが自然にWorkFlowyに移行。

6月、技術評論社より『アウトライナー実践入門』が出版される。まったく無理のないスケジュールを組んでいただいたのだが、私生活上の問題が激化する中での作業はよく乗り切ったと自分を褒めたいレベル(当社比)。同書の作業の中で「アウトライン操作の5つの型」という概念が生まれる。

8月、堀正岳さん、倉下忠憲さんとともにはじめてリアルイベントに登壇し、断片(piece)を通してアウトライナーについて語る(堀さん、倉下さんもそれぞれの視点から「断片」の話をした)。今だから言えるが、私生活上の問題により、登壇できるか当日の朝までわからない状態だった。万が一ダメだったら堀さん・倉下さんお二人でお願いすることになっていた。

11月、KDPで『Piece shake Love』を出版。Word Pieceに書かれた(アウトライナー関連ではない)記事を創作的に再構成したもの。と、ややこしい言い方をしたけれど、これはたぶん小説な気がする。リニアかつフラットに記事を並べているけれど、アウトライナーがなければ絶対に作れなかったと思う。

※『Piece shake Love』はちかぢか何らかの形でNoteで公開するつもり

『Piece shake Love』の作業を通じてアウトライナーによる長文作成の考え方が大きく変化する。アウトライナーは一般のイメージと異なり、階層構造を作って整理するためのものではなく、リニアな配列を作るものだ。階層構造はそのための手段にすぎない。

どう考えても収益性のない『Piece shake Love』を『ライフ・アウトライン(仮)』より優先したのはたぶん私生活上の問題のせい。アウトライン・プロセッシングは自己カウンセリングなのだ。

父の他界により私生活上の問題が一段落する。父はアウトライナーを必要とするタイプの人だったが、アウトライナーを知らないまま終わった。

2017年

千葉雅也さんの『勉強の哲学』で『アウトライナー実践入門』を取り上げていただく。千葉さんには他にもさまざまな場面で『アウトライナー実践入門』に触れていただいた。

なお、同書の制作の過程を開示した『メイキング・オブ・勉強の哲学』は千葉さんのアウトライナーの使い方を実例つきで見ることができる。書き手の本物の作業プロセスがここまで赤裸々に開示されるというのはすごいことだ。

気分転換を兼ねてDynalistを使う。1年ほど前に試したときと比べて完成度が大幅に上がっていて驚く。ウェブアプリであり、無料プランでの項目数制限がないことも合わせて「もっとも広く勧められるアウトライナー」に認定する。いろんな意味で「純粋さ」は感じないけど。

とか言っているうちに、いつの間にかDynalistがメインになっている。何しろ圧倒的に便利だ。

秋ごろになって『ライフ・アウトライン(仮)』の作業を再開する。工程の前半はプロセス型であるDynalist、後半はプロダクト型であるWordという棲み分け。

この頃からプロセスの中にScrivenerを組み込むことをくり返し試みる。プロセス型アウトライナーの代わりにはならないことは経験上わかっているので、後半でプロダクト型アウトライナーの代わり(つまりWordの代わり)にならないか。

Scrivenerはアウトライナーにはならないと個人的には思っているが、志のある良いアプリだと思う。

2018年

6月、『アウトライン・プロセッシングLIFE』をKDPで出版。3か月のつもりが3年かかる。

「タスク管理のためのアウトライナー」みたいなタイトルにしたらもっと売れたのにとも言われたけれど、タスクを扱うためにはタスクだけ考えていてもだめで、結果的にLIFE(生活と人生)を考えることになる、と教えてくれるのがアウトライン・プロセッシングなんですよ。

アウトライン・プロセッシングシリーズの次は長文編。ということで、今度こそ3か月で出そうと思う(←)。

WorkFlowyは素晴らしいが、一方で「アウトライナー=WorkFlowy」と捉えられている気もしてくる。アウトライナーはWorkFlowyだけではない。

2019年〜2020年

いろんな人と意識的にコラボしたり、他人のKDP本の編集をしたりする。今思えば少し逃避も入っていた。

五藤隆介(ごりゅご)さんとの共著『アウトライン・プロセッシング対談』には、その時点での『アウトライン・プロセッシング長文(仮)』の内容がかなり流入している。

『書くための名前のない技術』シリーズをKDPで出版。佐々木正悟さん、Marieさん、千葉雅也さんとの会話から多くの示唆を得る。ちなみに同シリーズは3巻で終わっているが本当はまだ完結していないのだった。

倉下忠憲さんとNoteで「Re:vision(仮)」を共同連載。Tak.パートではタスクのアウトラインを通じて、ライフ(生活と人生)の中でのアウトラインのレベルアップ(階層を上がる)ことの意味について考えた、つもり。

内容が古くなったHappy Outliningをホスティングサービスの終了に合わせて閉鎖。アップデートしようと何度か試みたが無理だった(結局すべてを書き直すことになる上に『アウトライン・プロセッシング入門』と同じ内容になってしまう)。

代わりにWord Pieceの中に固定ページを設け、。「アウトライン・プロセッシングミニ入門」というページを作る。Happy Outliningの中から使えそうなものをいくつか移行する。

2021年

『ライティングの哲学』が出て、アウトライナーの認知がさらに広がる。もっと言えば「アウトラインを作って書く」のとは対極の、(でも本当の意味ではアウトライナー的な)執筆姿勢への認知か。すばらしいことだ。Wordについての認識だけは少し残念だったけれど、それはマイクロソフト自身の責任が大きいとも思う。

『書くためのアウトライン・プロセッシング』をKDPで出版。また3か月のつもりで3年かかった。文章を書くためのアウトライン・プロセッシングについて、これまで書けなかったことも含めて書いた。「アウトライナーで文章を書こうとしたけれどうまくいかなかった」という疑問へのアンサーのつもり。アウトライナーにおける「発想」とは何かについても触れた。

「書くための」とタイトルに入っているのは、『書くための名前のない技術』シリーズから多くのものを受け取っているからでもある。特に「オープンエンドなシェイクからクローズドエンドなシェイクへのスイッチ」の話はMarieさんとの会話がなければ書けなかった。

『アウトライナー実践入門』が6年目にして増刷。編集者さんに「まさかもうないと思ってました」と言ったら「私もです」と言われる。

金風舎より電子書籍『思考のOSとしてのアウトライナーを通じて「個人的」情報ツールについて考える』を出版。長いタイトルですね。アウトライン・プロセッシングというよりも、「アウトライナー」というツールを少し違った角度から捉える試み。汎用ツールとしてのアウトライナーの上に、自分の目的とニーズに合ったアウトラインを載せて利用する。それはアウトライナーというOSの上で動作するアプリケーションを作ることだ。

2022年

倉下忠憲さんとの共著『Re:vision:タスクリストとアウトライン』をKDPで出版。Noteでの共同連載をまとめたものだが、倉下さんの編集により連載時とはずいぶん違うものに生まれ変わっている(倉下さんすげえと思った)。直接的にはタスクリストとアウトラインの話だけれど、そこに留まらないリアルでモダンな生活哲学になっている、と思う。

「書くための名前のない技術」シリーズもそうだったけど、KDPには共著のための仕組みがなく、いろいろ手間とストレスがかかる。

Noteで定期購読マガジン「アウトライナーライフ」を開始(このマガジンです)。有料マガジンだが、Happy Outliningを閉鎖して以来、自分の思うアウトライン・プロセッシングの基本的な解説を読める場所がなくなっていたので「基礎講座」は全文を無料で読めるようにする。

2023年

ライフ・アウトラインの運用マニュアルにすることを意図して定期購読マガジン「アウトライナーライフ」を中心に「ライフ・アウトライン実践」を連載。その他、80年代から90年代にかけてのアウトライナー関連書籍の紹介など。わざわざ古い本を紹介するのは、そこにある情報が必ずしも現代に引き継がれていないから。

Bike Outlinerがメインのアウトライナーに。昔のMacのアウトライナーを彷彿とさせつつ、WorkFlowy以降のモダンなアウトライナーの良さにも目配りされた、ひさしぶりに「すごく気に入っている」と言えるアウトライナーだ。

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