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ビールを飲みながら速くなる~総論①~ミトコンドリア保護活動(略してミト活)

 運動後はすぐビール!そんな方も多いと思います。
 マラソン大会はウォーミングアップ、そして打ち上げが本番!本音ではないかもしれませんが、そう豪語する人もおられます。

 ランニング後の飲酒はいいですよね。自分も大好きです。ランニングの疲れが吹き飛びます!
 ただそんな飲酒中の間もせっせと働いている臓器があります。それはミトコンドリアです。エネルギーを作り出すミトコンドリアは、持続性運動機能に大きく関係すると言われています。筋肉運動の持続力を生み出すミトコンドリア遺伝子なんていう報告もあります。

 ランニング中はせっせとエネルギー源のATPをつくり、
 そして飲酒中はせっせとアルコールを分解しています。

 そして使いすぎると鍛えられるわけではなく、働いた結果できてしまう副産物の活性酸素により、細胞ごと死んでしまいます。ランニングしたらストレッチしてプロテインを摂取して「ハイ終了!!」ではなく、特に飲酒する場合は酸化ストレスを軽減して、ミトコンドリアをしっかりメンテナンスをする活動・・・略して「ミト活」をしましょう。

1.お酒を飲んでも飲まなくても!

 結論から言うと、普段の食事で抗酸化物質や栄養をしっかり摂りましょうということです。食事はラーメンや牛丼でも、足りないものはサプリメントで補充すればいいんじゃない!?ではないんです。飲酒しない方の「ミト活」は、普段から抗酸化栄養素の食事を!サプリメントに頼らない!ということです。飲酒される方も、これができれば素晴らしいです(無理か・・・(笑))。

 1-1.ランニング前後の酸化ストレスに対して

 ランニング中は主に、運動の影響で筋肉内に活性酸素が生じます。酸素を消費してATP(エネルギー)をつくる過程で一定量の酸化ストレスが生じます。先日アスリート肝臓の記事にも書いたように、比較的短距離(数キロ程度)の運動で生じる酸化ストレスは、実質無視してよいくらいではないかと思っています。ですが、ハーフやフル、ウルトラマラソンなどの長距離のランニングではしっかりケアが必要になります。
 実際にトルコからの報告では、普段の食事での抗酸化物質やポリフェノールの摂取が、運動のパフォーマンスと運動後の回復の両方を改善する可能性とあります。ただしこれらをサプリメントとして摂取すると(文献では4週投与)、細胞膜脂質の過酸化を防ぐもののそれ以上の効果は得られなかったとあります。またビタミンCやビタミンEサプリメントなどは、よいという報告変わらないという報告があります。

 これは何故でしょう・・・。これはいくつかある運動による酸化ストレスのレビュー論文にあります(1)(2)。文献中の一文をGoogle翻訳で訳したものをコピペします「抗酸化物質の補給は、フリーラジカル種と内因性抗酸化メカニズムのバランスを乱し、生理学的適応反応を変化させる可能性があることが観察されています。」
 わかりますでしょうか。

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 要は「骨格筋は活性酸素を使って強くなろうと、そして抗酸化力をつけようと頑張ってるのに、余計なものをいれて急に環境を変えるんじゃねぇよ!!」ということです。筋肉が強くなるためには、筋肉を壊してさらに強くする必要がある。そのために活性酸素は必要なんだという考え方です。
 確かに害が及ぶほどの活性酸素はいけませんが、ある程度の活性酸素は必要で、やみくもにサプリメントをインすればいいというものではないということです。しかし不足しているものを補う分にはよいというデータもあり、最近では個々でオーダーメイドの抗酸化物質を考えようという研究もあります。

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 「多少のミトコンドリアは犠牲にしても、それにより骨格筋を強くしてパフォーマンスや運動に対する適応力を獲得しよた方がよい」ということかもしれません。

 1-2.紫外線による酸化ストレスに対して

 また、日中の屋外のランニングであれば紫外線をたくさん浴びてしまいます。紫外線は皮膚に活性酸素を発生させ、結果たんぱく質が変性して炎症を起こします。直接運動能力低下、ミトコンドリア障害がおこるとは言われていませんが、種々の抗酸化物質がさらに消費されてしまうことが予想されます。皮膚の酸化ストレスの抑制には、UVケアをしっかりして、ビタミンC・EDHAの摂取などいいと言われています(こちらはサプリがよくないという文献は見当たりません)。

 1-3.ランニングドクターの最適解

 鍛えなければいけないのは筋肉で、もちろん皮膚は守らないといけません。普段からしっかり食品として抗酸化物質(ビタミンB,C、ポリフェノール)を摂取するようにして、大会やポイント練習では少し多めに摂取することをおすすめします。そして日焼け防止はしっかりしましょう。
 例えば大会やポイント練習の時には、普段朝食の時に果物ジュースを1杯飲むところを1.5杯にしたり、普段間食の時にナッツを10粒食べるのであれば20粒にする。普段の自分の抗酸化力を、バランスを崩さないように高めるようにしましょう。

 もちろん抗酸化サプリなどがよくないという明確な報告もないので、食事の片寄りがある人や、年1回の目標としていた大会などで強く消耗した時には、服用してもよいのかもしれません。

2.飲酒するのであれば ・・・

 そして先日、トレーニングにより生じた活性酸素は肝臓にも負担をかけることを書きました。飲酒もアルコールの代謝の過程で活性酸素を生じます。それはもちろん肝臓に障害を及ぼす可能性があります。
 肝臓は走っている最中はエネルギー源となる糖質の放出の他、走ることによってできてしまった副産物(乳酸や変性したたんぱく質)の多くを代謝しています。また走ったあとはたんぱく質をつくって体の修復をするのも肝臓です。そして筋肉と違って、肝臓は鍛えるものではなく守るものです。
 走ったあと飲酒するならば、なるべく肝臓を守るよう心がけましょう。

 では肝臓を守るにはどうしたらよいのでしょうか。文献の多くはアルコール性肝炎(腹痛、発熱などで時に致命的になる国内では比較的まれな病気で、多くの飲酒者が問題になるγGTPが高い程度のものはアルコール性肝炎とは言いません)について述べているものですが、抗酸化物質としてはN-アセチルシステイン、S-アデノシルメチオニン、肝還元型グルタチオン、MitoQ、レドックスナノ粒子などが上がっています。ただこれらは普段使うものとしては不向きですので、自力で考えてゆきます。

 2-1.普段の食生活

 1-1.でも述べたように、普段から抗酸化力を高めておくことは大事です。みなさんは気を付けてますでしょうか。20年以上前の文献になるのですが、石川県で健診受診者の食事・栄養の摂取状態を調べたものがあります。さすが石川県、日本酒摂取量・魚摂取量が想定していたより多いのですね(笑)。でも問題はそこではありません。

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 飲酒者は圧倒的に果物や緑黄色野菜が足りません。結果抗酸化物質のビタミンA、ビタミンC足りていないようです。しっかり摂るよう心がけましょう!

 2-2.ランニング後から宴会まで

 ランニングをしたあと、あなたの体は活性酸素まみれになっています。できれば乾杯をする前に、抗酸化物質を摂取しましょう。ビタミン剤などは食事とともに摂取しないと吸収も悪いので、ポリフェノール含有飲料がおすすめです。最近にはコンビニにもたくさんおいてあります。
 ウコンの力とヘパリーゼの二大勢力ですね。どちら?どれ?がよいのかはまた各論でお話しします。

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 2-3.宴会中

 飲酒をしながら、バランスよく抗酸化物質・栄養を摂取するのがよいのですが、一つ意識して摂取してほしい栄養素があります。それは比較的不足しやすい抗酸化物質ビタミンEです。アメリカでは約9割が不足しているとの報告もあります。日本人の場合は平成27年度の国民健康・栄養調査では男性6.9mg(推奨6.5mg以上)、女性6.4mg(推奨6.0mg以上)とギリギリ足りていたとの調査結果はありますが、肝臓の治療の際には一日6mg程度ではなく、300から600mg程度用いることもあります。特に肝臓の酸化ストレスにはビタミンEが有効と言われていますので(ここは自分の専門なので論文的な裏づけはなしでよいでしょう(笑))、肝臓に負担のかかる場では意識してビタミンEを摂取してもらいたいのです。

 ビタミンEはゴマ油、オリーブオイル、エゴマ油など油分に含まれます。ランニング後はさっぱりしたものを好むようになるので、ランニング後はどうしても摂取不足になりがちです。サプリで摂取するのもありなんではないかと思っています。

 実はミトコンドリアに負担をかけるのはアルコールだけではありません。食品添加物や、実は食品自体も負担をかける可能性があります。考えたらきりがありませんので、せめて飲酒はホドホドにしましょう。
食品色素のCyp代謝
食品添加物のCyp代謝
 飲みすぎた時には、アルコール代謝の補酵素になるビタミンB群もしっかり補給しましょう。

 2-4.宴会後

 宴会後も気を付ける点があります。特に飲みすぎたときには、エタノールの分解をサポート、ミトコンドリアを補助するためにポリフェノール含有飲料を摂取するのがよいです。どのドリンクかはまた各論で述べます。入眠の時までアルコールが残っていると、体温を下げられなかったり、アセトアルデヒドが睡眠の持続を妨げます。しっかり眠れたように思えても体の回復は不十分となってしまいます。
 その他総論②で述べるBCAA、総論③で述べる水分も積極的に摂取するとよいと思います。

 2-5.ビアランナーの最適解

 飲酒をしないのであれば、普段の食生活で抗酸化力を高めるだけでよいと思っています。ただ飲酒をするようにであれば、しっかり抗酸化力を高めましょう。
 ランニング後はランニングでできた活性酸素を抑えるために、そして飲酒による活性酸素に対抗するために抗酸化ポリフェノールを。そして飲酒中にはビタミンE(場合によりサプリでもOK)を意図的に摂取するようにし、飲酒量が多くなったときはビタミンB群をとるようにしましょう。
 飲酒後は飲酒量や摂取した食事によりポリフェノール含有飲料、BCAA、水分の摂取をしましょう。

3.余談

 20年以上前の話、自分が研修医の時代に、ミトコンドリアGOTというものをよく測定していました。劇症肝炎(今は急性肝不全というようになりました)という重篤な病気の診断の診断のために用いていたのですが、アルコール肝障害でも上がることが知られています。その後、一般的な検査項目を入れるだけで診断できる予知式なるものができて、今はほとんど測定されなくなってしまいました。でもその頃から肝障害のなかでもアルコール性肝障害は、「ミトコンドリア障害がおきやすいのではないか」と考えるようになりました。その後肝臓の病理(病気の肝臓を顕微鏡で観察する学問)を勉強したのですが、飲酒される方の肝臓には「巨大ミトコンドリア」というくたびれたミトコンドリアが見られることがあります。飲酒とはミトコンドリアを酷使する所作なのだなと感じていました。
 時を経て、今はランニングを趣味としていますが、ランニングもミトコンドリアに負担をかける行いなのです。そしてランニングの能力向上にはそのミトコンドリアの能力を高める事が大事になります。例えば高地トレーニングやHIITのように。
 ミトコンドリア機能の研究については、まだまだ発展途上と思いますが、大事なのは間違いないと思っています。「ミトコンドリアを守る抗酸化力」皆さんも大事にして頂けるとと思います。

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