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「汎-島嶼論」@群青建築展

群青建築展

19.10.18(金)~10.20(日)の3日間,Arts Chiyoda 3331にてグループ展「群青建築展」に出展しました.主催は超細密ペン画家・姉咲たくみさん.超未来建築を研究することを目的にANOMaRY Studioを設立し,日本のみならず海外でも活躍するお方.
そんな彼が設定したテーマがこちら.

3.11をきっかけに建築は大きく変わった。 震災以前は創造的で挑戦的な建築が多かったが、あの日をきっかけに人々は強固で強い建築を求める方向に進んだ。そしてもう一つ、 建築は多様化した。リノベーション、建築を作らない建築家、コミ ュニティーデザインなど設計以外の手法でそれまでの枠を超えて拡がった。現代日本の若い世代の建築家、もしくは建築を学んだ人たちは多様化の中で新たな建築を生み出そうとしている。
「群青建築展」の「青 」は新たな青空を指し、群がる可能性の意味を持って「群青」とつけた。

この考えをベースに建築を主軸にしつつ,しかしながら従来の建築以外の領域に足を踏み入れて活動しているメンバーが集まりました.

「汎 - 島嶼論」に至るまで

そんな中,今回出展したのが「汎 - 島嶼論」(パン - トウショロン)です.
「汎 - 島嶼論」とは,すべての物事を「島」と「島嶼群」として捉え,その在り方や関係性を指向する認識論的アプローチです.
それはつまり,一度すべての事物を「島」あるいは「島嶼群」に還元したうえで,それでも見えてくる関係性や差異について考える見方であると言えます.

この考え方の発端は修士研究まで遡ります.
東京ベイエリアにおいて明治以降に埋め立てられた埋立地を「島」として見立て,それらの存在意義や関係性,可能性をリサーチ・提案したものです.
世界的に見れば,東京も一つの「港湾都市」であるわけですが,ここでまず押さえておくべき重要な観点があります.

都市=「外部」からエネルギー・食料・人・情報・技術を交換することによって成立する生存拠点
(『新建築2012年5月号』西沢大良「現代都市のための9か条 近代都市の9つの欠陥」)

それに対して,

集落=「内部」でエネルギー・食料・人・情報・技術を自給することによって成立する生存拠点

と定義できます.
都市のうち,「外部」からエネルギー・食料・人・情報・技術を交換するうえで歴史的にみて最も重要な物流拠点だったのが「港湾都市」です.
そのため,「港湾都市」には多様な人種・職業・階級等々の社会的背景を持つ人々集まり,また移動していく寛容な場が生まれていました.
そんな場所が日本では失われていないだろうか,あるいは世界の港湾都市は一体どうなっているのか,というのが研究の動機です.

およそ「港湾都市」の形態は「襞型」「桟橋型」「島型」の3パターンに分類できます.

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そのうち,島型の港湾都市は「東京」と「ヴェネツィア」ぐらいしかありません.一方で,その特性を顧みず,東京ベイエリアは内陸部の焼き増しのような近代的再開発しか行われていないのが現状です.
そこで,島型の港湾都市である東京ベイエリア固有の都市・建築的提案を行うことを研究目的としていました.
以下はおおまかな研究概要です.

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まずは,歴史的にみて,物流の要衝地であったり覇権国の軍事を支えたりした港湾都市を順に選定して,定量的に把握しています.
(最近のアジア諸国の港湾都市開発はあまりにも経済性に偏重し大規模すぎてヒューマンスケールを大きく逸脱しているので,便宜上割愛しました)

その後,各都市の主要な再開発エリアの親水性を定量的に分析しています.

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それに対して,東京ベイエリアの親水空間はどうなっているのか? というと,島の外周部と内側で乖離が生じています.かつ,親水性の高い空間には人々は入れないという空間構造になっています.

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そういった背景を把握しつつ,東京ベイエリアを構成する埋立地を34島に分類し,それぞれを様々な指標によって定量的・定性的に分析し,特性を評価しています.

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その結果,最も特徴的な島として芝浦埠頭を選定し,建築的提案を行っています.

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この時考えていたのが,「超群島構想」というものです.

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〈島〉は個々にアイデンティティを蓄積しているにもかかわらず、それを無視した無個性な土地として扱われている現状にある。そのアイデンティティを顕在化させる提案をする必要があるとともに、それらを相互に連関させることで、相補的に価値を高めていくことが可能になる。
提案敷地とそれが存在する島、そして島同士、さらに東京港、ひいては日本と接続していくことによって、島単体としてでは到達できない価値を創り出すことが可能なのではないだろうか。

この観点が「汎 - 島嶼論」の背景となっています.
リテラルな群島ではなく,相互に連関した群島=超群島.この観点は,より沢山の文脈で検討できるのではないだろうか? というものです.

これは決してオリジナリティのある発想ではありません.実は地理学者だけでなく,哲学者・社会学者・文化人類学者たちが「島」の概念を多様に解釈し,参照したものが少なからずあります.
この島国,日本において,だからこそ「島」の意義や存在価値を考えることが重要なのではなのではないか? と考えています.それは抽象的な概念・用語よりも多くの人々が共有し得る言葉であり,同時に想像のしやすさを併せ持っているはずです.
人間あるいはそれを構成する多種多様な個人的性質,はたまた細胞レベルの話から,大きくは地球や宇宙のスケールまで,「島」を通してみた世界は,これまでとは違った切り口を私たちにもたらしてくれるかもしれません.それは,何か課題を解決するためではなく,これまでとは異なる<思索的な speculative > 視点を獲得するためのものです.

なぜ「島嶼群」を考えるのか?

「汎 - 島嶼論」を考える理由は大きく3つあります.
①何をつくったか ではなく なぜつくるのか
②平均化 ではなく 複数性
③強さ ではなく 弱さ

このあたりの具体的な話は『建築ジャーナル』で連載している「現代建築家宣言」の第1回・第2回で言及しています.ぜひご参照ください.

大まかに説明すれば,私自身が建築家として,何を考えて何をつくりだすか,という根拠を見出すための思考ツールです.それを具体的な哲学的思想で提示するのではなく,「島」「島嶼群」という共通認識を得やすいプラットフォームを設定することが一つの可能性としてあるのではないかと感じています.

「汎 - 島嶼論」の展示内容

そして,今回展示したのがこちら.

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108個の「島」にまつわる断章と,実際の作品や論稿を「島」の観点から表現するとどうなるか,というものです.
実は9月初週に実施した「横浜ハーバーシティスタディーズ2019」のチューターレクチャーで初めて「汎 - 島嶼論」の話をしたのですが,その時はあまりに抽象的な話だけで終わってしまったという反省があったので,今回は執拗に掘り下げることをしました.

「群青建築展」では,「汎 - 島嶼論」の思考プロセスは
具体的なものを抽象化したものを具体化する」ことであるとしました.

そのキッカケとなったのが,武田鉄平さんの「Paintings of Painting」展です.

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彼の作品は,人物を抽象的な表現にいったん落とし込んだうえで,その筆致や陰影を徹底的に具体的に描き込んで表現するというプロセスを踏んでいます.
それはつまり,人間という具体的なものを抽象化し,それを抽象的なまま具体的に表現し直している,と受け取ることができます.そしてそのプロセスの中に,えもいわれぬアウラが生まれているのではないかと.

一見,このプロセスは建築のアプローチでは一般的なようにも思えます.
具体的なリサーチから構造を抽出して抽象化したコンセプトを設定し,それを建築として具体的にアウトプットすること.

しかしながら,ここで私が表現したかったことは大きく異なります.というよりも,より高解像度の議論をしたかったのです.
気をつけるべきなのは,具体/抽象という言葉は,便利なようで,それ自体かなり多義的で抽象的であるということです.

これは展示した108の断章のコンセプトと内訳です.

世の中のあらゆる具体的な物事をまず「島」という抽象的な枠組みの中に漂わせてみること.
そしてそれらを,「島」の視点から再び具体的な物事に落とし込む.
具体的なインプットは,「島」によって変換され,以前とは異なった反応を伴って具体的にアウトプットされる.そしてそれは,それまで気づかなかった視点や価値意識をもたらすキッカケとなる.
① 6 の「汎 - 島嶼論」のための視点/ 16 の具体的なものを「島」へ抽象化するための視点
② 56 の抽象的な「島」の概念
③ 10 の「島」を通してみた具体的な応答
④ 10 の「島」をめぐる基礎知識/ 10 の背景となる引用文

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あらゆる事物を「島」として認識することはあらゆる事物を「島」に還元することでもあるのですが,そこで事物の総量が縮減するわけではありません.あくまで「島」の観点からとらえ直すということを意味しています.
という意味で,「汎 - 島嶼論」とは,すべての事物を「島」という色眼鏡で見ることを意味します.
たとえば,いま現在いる部屋を建物の中の一つの「島」として捉えることもできますし,部屋を構成するテーブル,イス,パソコン,人間それぞれを「島」として把握することもできる.でも事物の総量は変わらない.従って,抽象化の仕方が独特であると言えます.
これは一緒に展示していたイスナデザインの一瀬さんと話していて気付いたことです.

このため,思考プロセスにおいてたしかに「具体的なものを抽象化したものを具体化する」と述べましたが,この抽象化が指し示すところは,あるフィルターを通して見ることなのです.つまり,具体的な事物同士に通底する構造を抜き出す行為ではない.これが思索的speculativeであると述べている由縁です.

そのうえで,フィルターを介して捉えた「島嶼群」はどのように概念化できるのか,そしてその「島嶼群」の概念から具体的にどのようなことが提示できるのか,ということを試みています.
最後の具体化に対してはまだあまり踏み込めてはいませんが,これから継続的に考えていくつもりです.

ちなみに,この時に展示した「108の断章」はこちら.

「汎 - 島嶼論」_「108の断章」.pdf

今回はざっくりとした概要まで.



1991年神奈川県横浜市生まれ.建築家.ウミネコアーキ代表/ wataridori./つばめ舎建築設計パートナー/SIT赤堀忍研卒業→SIT西沢大良研修了