『学習と生徒文化の社会学 -質問紙調査から見る教室の世界-』読了。
『学習と生徒文化の社会学 -質問紙調査から見る教室の世界-』須藤康介 (2020).を読みました。
大規模な質問紙調査を基に,昨今の教育界を取り巻く言説の真偽を明らかにしている。と言っても,そんな壮大でラディカルな感じを纏うこともなく,淡々とした書き振りで,かつ思慮に富んだ考察も各章で丁寧に置かれている。
学校教育に関するあらゆる言説を一度冷静に見つめ,生徒への声掛けや生徒指導・入試広報のあり方についても考えさせられた。
第8章「ジェンダーをめぐる隠れたカリキュラム」では,男女混合での活動・授業が逆にジェンダーフリーに反するような実態を産んでいる可能性が説得力あるデータを伴って指摘されいる。(その考察も秀逸なのでぜひ多くの先生に読んでもらいたい)
今回はジェンダーの関係での調査だが,仮にこれを「習熟度」に当てはめた時,「習熟度別クラスなんて無くしてしまえ」「習熟度別じゃなくなれば,今基礎クラスにいる生徒も無用な劣等感など抱かない」と(一応これも学術研究の結果を根拠に)言っている自分の信念と逆のことが起きないと言い切れるだろうか?と疑問を抱きモヤモヤしている。
一点気になったのは(中高一貫校についてまとめた)第2部から,特に第6章「中学受験入学者の学校適応と価値観」。
「中学受験で入学しておくと,高校に入った後の学習が有利になるという通説に反している」という結論が導かれているが,その根拠となっているデータは中学入学生徒と高校入学生との比較である。高校入学生が受験を終えたばかりで学習習慣や知識が定着しているという考察までは妥当であるとしても,「中学受験で入学しておくと,高校に入った後の学習が有利になる」かどうかを確かめるためには小学校6年生段階,あるいはそれ以前の中学入試に向けた特別な勉強を始める前の段階で同等の学力を持った生徒を比較するべきではないだろうか。
質問紙調査の量的整理の部分は恥ずかしながらちょっと読んでいるとしんどくなる部分もあったが,ぶっちゃけそこを読み飛ばしても調査から導かれた結論は分かりやすく読めるのもありがたい。付章として表の読み方等もまとめられているので,あまり分厚くない割に結構至れり尽くせりな一冊。
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