【授業で洋楽】 Photograph / Ed Sheeran
オミクロン株の感染急拡大に伴って,勤務校は少し前からオンライン授業に切り替わった。
私の英語の授業の一番の「売り」は,長い英文を見ても目を背けなくなる(と信じたい)読解の授業だと思っている。
それがオンラインでは,まぁ正直厳しい。オンライン授業で一人で家で黙って教科書3~4ページ分の英文に立ち向かえるのであれば,もうその生徒には私の授業は必要ないとも言える。
というわけで,思い切って授業を根本的に変え,オンライン用にデザインし直すことにした。
オンライン授業はリスニングと結構相性がいい
4技能の中で個人的にオンライン授業との相性の良さを感じるのはリスニングだ。zoomの画面共有機能を介して比較的ラグや音の乱れも少なく音声を聞かせることができるし,YouTube等の動画を見せたい時にもスクリーンに映すより画面共有の方が見やすい(多少カクカクすることはあるが)。
ということで,授業の主眼をリスニング力の向上,そしてあわよくばリスニング学習方法の体得を目指すということにした。
が,それについてはまた別の記事で書くことにする。
今は色々とやることに追われていて,「note書く暇あったら,先にやることやれ」と心の中のリトルかわむらが囁いてくるのだ。
ただ,そんな中でも今日はどうしても今日のうちに書いておきたいことができた。リトルかわむらもこれは許してくれている。
Photograph / Ed Sheeran
恥ずかしながら私は英語教師とは思えないぐらい英語圏の音楽や映画に疎い。これまでにも洋楽を使った授業は何度もしてきたが,正直私の知ってる曲なんて両手両足の指で済んでしまうぐらいの数で,生徒からオススメを教えてもらったり,適当に色々検索してなんとか見つけているのが実情だ。
(ちなみに洋画は基本的に『プラダを着た悪魔』しか観ない。)
ただ今回のリスニングに爆振りするという決断に伴って,普段aikoと乃木坂46しか聴かない私が,在宅勤務中にひたすら洋楽を流しまくっている。
そんな中で出会ったのが,Ed SheeranのPhotographだ。
洋楽好きな人からしたら,「そんな常識的な曲も知らんのかお前は」と言われてしまいそうだ…。知らんかった。
この曲を初めて聴いた時の印象は2つ。
・テンポがゆっくりだから割と簡単にリスニング出来そうだな。
・ラストサビのちょっと盛り上がるところ,好き。
まずはリスニング教材として準備するためにYouTube上のOfficial Music Videoのコメント欄をスクロールして,僕みたいな人のために歌詞を全部書いてくれている人を探し,見つけたらそれをpagesにコピペする。
あとは原曲を聴きながら意味の解説をしたいところと,穴埋め問題にしたいところをひたすら探す。
最近to不定詞の応用的なところをやった中3にとっては,"Wait for me to come home"とか,かなり良い。
そのあと,歌の解釈をすべく歌詞全体を丁寧に,行間を想像しながら読んでいく。
最初は,遠距離恋愛になるカップルの(おそらく)彼氏が「僕の写真を持って,家に帰ってくるのを待っててくれ」的なことを言ってるのかなと思った。
ただ,ちょっと遠距離恋愛ぐらいで大袈裟やな…と思うところも。
それにちょっとメンヘラ過ぎるところも。
この辺りに違和感を持ちながらも,まぁまぁ基本的な単語をゆったりとしたペースの曲の中で聴き取らせるには良いよねぇと,思い過ごしていた。
しかし,やっぱり全体的に,遠距離恋愛ぐらいでちょっと重た過ぎる,洋楽リテラシーの低い私でも名前ぐらいは知っているEd Sheeranってこんな感じなの?という違和感が拭えず,もう少し丁寧に読んでみることに。
Photographは母親に向けた曲?
これもやはり洋楽好きの方々の間では常識なのだと思うのだが,この曲は母親に向けた曲だ,という解釈に辿り着いた。それは歌詞を解釈したというより完全にMusic Videoのおかげだ。
MVの映像は子どもの頃からのホームビデオだし,よく見たらその投稿日は2015年の5月10日,つまりMother's Dayだ。
さっきまで違和感しかなかった重い感じとか,メンヘラな感じとか,親子の曲だと考えると納得がいく。
ただ,母に向けた曲だとしても,実はまだもう一つ引っかかっていることがあった。
この曲の最後の歌詞だ。
待て待て,家を出て行くのはお前じゃないのか?
なんで"Wait for me to come home"と,youがwhisperしてるんだ??
大混乱である。
Photographは母親からの曲?
よく考えてみれば,そもそもこの曲は基本的に残される側からの視点で書かれている。
つまり,我が子が(夢を叶えるために)家を出て行くときの母親の視点で愛が語られているのだ。
私の大好きなこの歌詞も,確かに「16の時に買ったあのネックレス」とか,最初は「何歳の恋愛だよ」と思っていたが,母親だと考えればすごく情景がありありと浮かぶ。
そして,一番のポイントは,何度も繰り返されるある一文だけが,旅立つ息子,つまりEd Sheeran本人の視点で書かれているということだ。(たぶん)
この曲全体を通してこの歌詞だけがEd Sheeranの想い・言葉,それ以外は全て母親の想い・言葉だとすると,全ての辻褄が合う。
この歌詞も,母親目線の一文で,ダブルクォーテーションで囲まれたセリフだけは,Ed Sheeranが電話越しで囁いた言葉だと理解できる。
洋楽にハマりそう
この記事ではずっと,洋楽好きな方にとっては常識かもしれないことについてダラダラと書いてきた。なんだか申し訳ないし,恥ずかしい。
でも,それでも書いておきたいと思うぐらいに,これには感動させられた。
高校卒業とともに親に反対されながらも実家を出たという過去も関係ないではないかもしれないが,そんなことより歌詞の構造的な美しさに対する感動がとにかく大きい。
この記事で述べてきた解釈が正しいかどうかはもはや問題ではない。
聴き手に多くを考えさせ,多面的な考察の末に行き着いた解釈によって感動させる。
それだけで芸術がこの世界に存在することの価値を証明している。
基本的にネガティブな思考の癖がある私は日頃から「英語を勉強した時間を別のことに使ってたら,どんな人生だったんだろう…」と英語ばかりやってきた自分の人生を後悔することは少なくない。
しかし,今回ばかりは「英語を勉強してきて良かった!」と心から思った。
Photographの歌詞を適当に和訳したショボいwebサイトに頼ることなく,自分で音楽を聴いて,歌詞を読んで,解釈を試みることができる。最高だ。
この感覚は"The Devil Wears Prada"(『プラダを着た悪魔』)を英語音声・英語字幕で楽しむことができるようになった時以来だ。
というわけで,乃木坂46に期待の5期生が加入するこのタイミングではあるが,意識的に色々な洋楽に手を出して,耳を傾けてみようと思う。
(なお,今のところ「オススメの曲」とかは特に受け付けていない。自分で勝手に見つけて勝手に解釈して感動したいだけなので,「これ良いよ」と手渡された時点で今回のような心からの感動は無さそうだ。)
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