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教師教育者の意図

英語科教育法IIの振り返り。
いつもは学生にも授業を思い出してもらって、更に思考を深めてもらえればみたいな気持ちも持ちながら書いているが、今回は完全に自分のための省察としてのみの目的で書く。
まぁ、教師の省察を実際に見せたり聞かせたりすることも教師教育者の仕事なので、そういう目的もなくはないが、それでも今回は見せすぎではないかという気がする。

英語科教育法IIは「問い」に基づいてディスカッションをする回と模擬授業と対話型模擬授業検討会を行う回に分かれており、ディスカッション回を2週続けた後、模擬授業回を1度行う。
ディスカッション回で考えたことが模擬授業の中で発揮されることをうっすらと期待してはいるが、明示的にそういうことを求めたりはしない。

模擬授業の構成

今回の模擬授業はざっくり分けると
① 洋楽リスニング
② 現在完了形の導入

という流れで進み、本時のメインは②「現在完了形の導入」にあった。

①の洋楽リスニングではTaylor Swiftの"Shake It Off"を用いて、曲中に出てくる過去分詞形を聞き取ってディクテーションさせた。生徒らは過去分詞形が穴抜きにされているとは知らず、ディクテーションした結果それらが全て受動態をやった時に習った(という想定の)「過去分詞形」という動詞の一形態であることを確認する。

②では教科書の挿絵をきっかけに「バスケをしたことがある」という文を生徒に書かせる。この時点で過去形しか知らない生徒は「バスケをしたってことはバスケをしたことあるってことにもなるから、"I played basketball."で良くない?」と過去形で書き、(塾で習っているなどの理由で)すでに完了形の使い方を知っている生徒は"I have played basketball."と書く。過去形しか知らない私は、塾に通っている隣の生徒の文を見て「なんでhaveやねん」とツッコんだりしていた。

その後先生役の学生は「過去と現在の繋がり」という現在完了相の本質的な特徴に触れようと"I have lost my key."という例文を提示する。当然私は「『鍵をなくしたことがある』ってこと?」と言って先生を困らせる。

このシーンについて教師役の学生はこう振り返る。

機能を重視しすぎてしまい、現在完了形には意味が4種類あるにも関わらず、提示した例文が2つの意味を含んでしまい、混乱を招いてしまった。

学生の省察レポートより

この回の前のディスカッション回で文法の形式・意味・機能の話をしたため、その中でも機能を意識しようとした結果、「過去と現在の間に繋がり・関わりがあることを言う」という現在完了の機能的側面を学生は取り出したのだが、その抽象度の高い機能の説明を理解できるほどには現在完了の意味的側面の具体的な理解が(塾に通っていない生徒にとっては)進んでいなかった。

検討会の論点

例のごとく「8つの窓」に基づいた対話型模擬授業検討会を行うのだが、今回はこの検討会の在り方を検討したい。

授業の省察を深める8つの窓

しかしこの「8つの窓」には本来もう1つ「どのような文脈か」という9つ目(あるいは0個目)の窓がある。
私はこれまであえてこの「文脈」の窓を設定せずに検討会を行ってきた。
理由は2つある。1つは模擬授業自体がそこまで長いものではないので、文脈・場面の転換が起きない場合も多いこと。つまり、設定するまでもなくみんなが振り返る場面が目に見えている。2つ目は、仮に授業内に複数の場面があったとしても、生徒役含めその場にいる学生たちが振り返りたい部分を振り返ることを重要視していることだ。

しかし、今回の模擬授業検討会ではこの2つ目に関連する問題が(私の中で)起きた。私としては今回の模擬授業のメインは現在完了形の導入だったと見ているし、先生役の学生もそのつもりで、現在完了に入る前の活動(導入の導入)として洋楽リスニングを行った。
しかし検討会序盤から生徒役の方から出る意見は洋楽リスニングについてのものが目立った。ホワイトボードに書かれた文字や矢印も検討会中の省察を促す重要な要素であるため、ホワイトボードにそれ以上書くスペースがなくなるような場合には、検討会も終わりに向かうことになるのだが、洋楽リスニングについてのコメントが想像以上に多く、メインの活動を振り返る時間的・空間的余裕が徐々に失われていった。

このことの原因は大きく3つあると考えている。
① 授業は時系列に沿って振り返るものだと捉えられていた。
② メインの活動で先生役の学生がだいぶ困らされていたので、無難に終わった洋楽リスニングの部分にポジティブなコメントをしようとした。
③ 先生役からではなく生徒役から意見を出させた。

①と②は文字通りの意味で、実際どちらの要素もあったのだろうと推測する。学生たちの真面目さと優しさが出たのだろう。流石にあの授業のメインは洋楽リスニングだと本気で思って、そこを重点的に掘り下げようとするほどズレた授業観察眼を持っている学生達ではない。(もちろん事前の活動の楽しさも影響して、その後の文法の話も割とクラスの雰囲気が良い状態で進んだということはあるが)

③について。私は前期の対話型模擬授業検討会では基本的に「先生、やってみてどうでしたか?」とか「先生、この授業の狙いは?」という風に先生役のFeelやWantから聞くようにしていた。
その一方で「先生のFeelやWantを先に聞くと生徒役の発言がそれに引っ張られてしまうこともあるのかな」とか、純粋な興味として「生徒役から先に聞いてみるとどうなるのかな」とかモヤモヤと思っていた部分があった。
そんな背景から、「じゃあ今回は生徒役の方から授業の感想とか聞いていこうかな」と投げかけたのだ。

そのことが引き金となり、①や②の要因と相まって、私の掘り下げたいと思っていた文法指導の方になかなか辿り着かなかった。

教師教育者の意図

渡辺(2019)は深い省察を促す授業検討会を行うためには検討会の参加者が結論を急がず、自分の思考や感情をありのままに表現し、それが連鎖していくことが重要であるとしている。また、コルトハーヘン(2010)はALACTモデルのプロセスにおいて指導者(今回の場合は教師教育者)は必要最低限の手助けしかしないことが望ましいとしており、指導者には「沈黙のスキル」が求められている。

今回の検討会で私は一人の生徒役としても参加しつつ、ファシリテーターの役割を担っていた。検討会を開始する前、私は「文法指導の場面についてどういう振り返りになるんだろう。先生役の学生に『自分の勉強不足』とだけ思わせるような振り返りにはしたくないなぁ」と考えていた。しかし蓋を開けてみると、前述の通りなかなか文法指導の場面の話にすらならない。
そこで痺れを切らした私はファシリテーターとして「後半の方に、文法指導とかの方に行きたいんですが、そっちの方で、生徒側から思ったこととか感じたこととか何かありますか?」とその場を仕切ってしまった。せめて自分が生徒役として文法指導場面について感じたことや思ったことを言うのならまだしも、ファシリテーターとして(そして教師教育者として)の権力を利用して話題を指定したことを、この発言の直後からずっと後悔し、その後の検討会の間もずっとそのことが頭の中でぐるぐると渦巻いていた。

結果的にはそれなりの時間文法指導について振り返ることができたのは良かったと思ってはいるが、やはりそれを自分の教師教育者としての権力を使って、つまり教師教育者の意図を明示的に学生たちに示すことで実現したことへのモヤモヤ感がとても大きい。
本来ならば私がファシリをやるという構造からまず変えて、学生同士で出来るだけフランクに(渡辺の言うように)学生のありのままの言葉が連鎖していくような検討会ができれば嬉しいのだが、それなりに振り返りが機能するようにと、どうしてもファシリとして働こうとしてしまう。
私がそこに立ってしまうと、いかに教師教育者の意図を見せないようにやろうとしていても、どうしても対話の展開を教師教育者がコントロールしている感は否めないし、私の純粋な生徒役としての発言も学生たちにとっては教師教育者の意図を持った発言に聞こえるかもしれない。

検討会の焦点を特定の場面に当てたいのであれば、9つ目の窓を用意するのも一つの手として考えてもいいし、8つの窓を展開された学習場面の数だけ用意して、場面ごとに振り返ることを促してもいい。今回顕在化した問題に対する技術的かつ表面的な解決はそういう形であり得るが、より本質的な部分にタップするならば、まずは私が一段降りること。学生のディスカッションに本当の意味で対等に入り込むか、それができないなら後ろから見守ること。

実はこの授業での私の振る舞いやその後の葛藤はこの日この時間だけたまたま現れたわけではなく、後期に入ってから至るところでその片鱗を見せていたように思う。
「大学教員になれた喜び」に駆られた勢いだけでやっていた前期とは少し違って、段々と教師教育者としての自覚や責任感、そしてプレッシャーを感じるようなになってきたり、教師教育のテーマで複数の研究計画書を書き上げたりもした。
私の振る舞いに変化を与えているのは、私個人の心理的な部分だけではない。それぞれの学生との色々な関係性が築かれてきたこともおそらく影響している。「もっと出来ると思っていた」とか「この学生は今こういう問題を抱えているから」とか、学生のことを少しずつ知ってきたからこそ、あらゆる場面における私の振る舞い方や感じ方に明らかに変化が生まれている。


冒頭にも書いた通り、教師のリフレクションを実際に見せる聞かせることも教師教育者の役割だと肝に銘じているので、一応これをいつも通り公開はするが、私の見ている学生でこれを読んじゃった人、どう思ってる…?

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