谷保ZiNEという本を作った(後編)
「谷保ZiNE」という本の制作記録の後編です。
前編記事はこちら↓
秋
9月後半、文章執筆をお願いした方々からぞくぞくと文章が届いた。
「どうして谷保にいるのか。」という問いだけ投げかけて自由に書いてもらったのにもかかわらず、文体は違えど、何人かが同じような内容を書いてあった。
谷保について似た認識を持っていて、なんかおもしろい。特に打ち合わせした訳ではないのに。
ある日、主要メンバーで集まって本の締めくくりはどうしようかと話し合った。
元々は、発起人のTさんと私で、締めくくりのまとめ文章みたいなものを書いて載せようかと話していた。
ただ、せっかく多くの方々の想いが集まっているのに、2人だけで結論めいた文章を書いてもよいものかと、途中から思うようになっていた。
そこで話し合った結果「座談会」をしようということになった。
著者が集まり、それぞれの文章を読んだ感想を共有することで、現在の谷保の姿が少しだけくっきり見えてくるのではないかと思ったからだ。
あと「谷保はこうですよ!」とはっきり述べるよりは、「こういう風に考えている人もいる」くらいに留めておいて、読んで下さる方があれこれ考えられる余白を残しておきたかった。
座談会はやってみると、考えを共感できたり、未来について考えたりすることができておもしろかった。
当初、座談会は4ページで掲載する予定だったが、削るのが惜しくなってきて結局8ページとなった。
ただ、これでも全体の3割くらいしか掲載できていない。実際は全部見てもらいたいけど、紙面の都合上仕方がない。
10月に入り、華僑に入ってきた。
というのもメンバーのうち数人が文学フリマ東京に参加予定で、そこで初お披露目をする予定だった。それが11月中旬なので、10月末には入稿しないと間に合わない。
それぞれ座談会の音声を文字起こししたり、その文章を整えたりと、連日地味な作業が続いてヒーヒーであった。
私はデザインを詰めていった。
各著者の文章ページはできていたが、まだやることがたっぷり残っていた。表紙やロゴ、掲載写真の選定などなど。
ロゴについては、紙面で使用した丸みや余白感を踏襲して、谷保ZiNEの空気感を体現できるものを目指した。また骨格は谷保天満宮の屋根のカーブなども参考にした。
ある程度まとまってきたところで、文字の大きさや線の角度、文字の太さなどをいくつか作り検証しながら最終調整し、今のロゴタイプとなった。
続いて写真の選定をする。
著者の文書ページの写真は、各著者に選定をお任せしていたが、その他のページ(谷保の紹介ページ、冒頭のページなど)はこちらで選定することになっていた。
使える写真は、メンバーみんなが持っているものをGoogleドライブで集めておいたので、ある程度ストックはあった。
その中から使えそうなものを選んでいく作業から始めた。
ある程度選んだところで、ふと自分の選んだ写真を眺めてみた。
そこには谷保天満宮や大学通り、国立駅舎など「国立・谷保といえばここ!」といった感じの写真が並んでいた。
あ、いかんいかん。
せっかく行政でもまちづくり団体でもない一般人が集まって制作してるのに、これじゃ我々がやる意味がない。
冷静になり、最初選んだ写真は全部やめて、一般人ならではのものを選び直した。
改めて選んだ写真は、何でもない椅子や水槽を撮ったものなどで、パッと見よく分からない。
けど、そこには谷保にいる人ならではの日常が内在しているはずで、観光案内を作っている人には撮れない写真だと思う。
なんかバタバタしてくると、完成させることだけに意識が集中して、そもそもどんなモノ作るべきなのかを考えられなくなるな。気をつけないと。
谷保について紹介するページも集中して整えていたらネットで知れる情報が多めになってきていので、谷保にいる人ならではの一次情報も入れるように心がけた。
そんなこんなで全ページ完成。
最後にみんなで集まって赤入れを行った。頭がボーッとしていたけど、大きな変更もなさそうで何とか入稿できそうだ。
最後の修正が終わり、入稿データが完成!となったところでいつもお願いしているネット印刷屋さんが混み合っていて、納品にいつもより時間がかかることが分かる。確認すると文フリには間に合わないことが発覚。オエー。
ということで文フリ分の数冊は少し値段が張るけど早く印刷してくれる別の印刷屋さんに、文フリ後に使う分はいつもの印刷屋さんにと、2回入稿することになった。
そして無事納品され、なんとか文フリに間に合った。よかったよかった。
感想
文フリでは用意した分が完売したそうで、何よりであった。
その後はまちづくりイベントでお世話になった方々に献本させていただいたり、谷保の小鳥書房でお披露目イベントをさせていただいたりと、谷保ZiNE活動がいろいろとあり楽しい日々だった。
手にとって下さった方からは、こういうところがおもしろかったと多くの感想をいただけた。
また谷保でお菓子屋さんをされている方は、お菓子を買いにきた方が読めるように、お店の本棚に本を置いて下さっていた。作ったものがまちに溶け込んでいるようで嬉しかった。
ある地域について、その地域に関係のある人たちで自主的に本を作るというのは全くありふれた事ではなく、実は結構幸せな活動なんだと思う。
作っている最中はなんやかんや大変なので見失いがちだけど。
谷保ZiNEでも書いたけど、「職場」とか「学校」とか、ある程度強制的に括られたコミュニティでは人が一緒に活動するのが当たり前だ。
一方「まち」というものは曖昧で、別に人と交わらなくても十分に成立してしまう。
「まち」で別にコミュニティに参加していなくても全く問題ないのだけれど、「まち」の人と気軽に遊べて、飲みに行けて、くだらない話ができるという日常があるということは、それが無いのと比べるとはるかに豊かなのだと実体験を通して感じた。
なんだかんだ暮らしているとストレスが溜まってしまう。
それを解消できる手段として複数のコミュニティに属していることが割と大事なのかなとぼんやりと考えることがある。
仕事だけ、家族だけだと、いくら仲が良くても、ずっと長い時間一緒にいれば嫌になるタイミングも少なからずあったりする。
複数のコミュニティに属していれば、全く違った人間関係の環境に移動することができる。
そこがちょっと嫌になってきたら、また別のところに移動すればいい。
ふらっと軽快に、コミュニティ間を行き来できることって気楽に生きるのに結構大切なのではないかと。
「まち」に参加することは必ずしも必要ではないと思うけど、参加するコミュニティを増やすという点では「まち」は一つの有効な選択肢だと思う。
幸い私は多くの国立・谷保の方々の優しさもあり参加できているけど、そういう人に出会えずにいる人も多いはずだ。
また話すのが得意でなかったり、足が悪くてそもそも外にも出られないという人もいるだろう。
もし、「まち」に関わりを持ちたいけど、そうした理由で踏み出すことが困難な人がいた場合、今回の谷保ZiNEでやったように、文章で関わるという手段もあるのではないかと、ふと思ったりもした。
できたらみんなが豊かに暮らせる社会であるべきだと思う。
今存在する仕組みではうまくコミュニティに参加できないという方がいれば、「まち」への関わり方の別手段として、谷保ZiNEのようなプラットフォームがもしかしたら力になれるのかもと、この半年間の活動を通して感じた。
最後に、今回の制作に関わって下さった方々、無理なお願いを受け入れて下さりありがとうございました。心より感謝いたします。
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