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LOG ENTRY: SOL 249

 またまた更新が滞っておりましたが、楽しみにしていると言ってくれる人も世界に数人いるみたいなので、書きます。生存証明のために書きます。

 更新が遅くなった理由は実はふたつありまして。ひとつは家族が合流したこと。これをメインの言い訳に据えてましたが、実はもうひとつの方がでかいかもしれません。それは、とあるゲームアプリにどハマりしちゃっていること。ゲーム名を書くと犠牲者を量産しかねないので書きません。

 ってか起きたこと全部書こうと思うから腰が重くなるんだな。今後は時系列も無視して、どんどんテキトーに書いて行こうと思います。

★彡

熱慣性って何?

 入社以来ずーっとやってきた火星ローバーのシステム設計の仕事。とりあえず着陸地点の走行可能性の分析はひと段落したので、僕が次に取り掛かっているのは熱設計。

 火星の各地や各季節において、1日のサイクルの中で、ローバーや中の機器の温度がどのように変化するかを見積もるのが最初の仕事だが、熱設計の経験に乏しいので、一から勉強するところから始まった。

 熱の移動には伝導と対流と輻射(放射)があるというのはなんとなく知ってたけど、熱慣性って何?Thermal Inertia?さーまるいなーしゃ?

 熱慣性なんていう概念、初めて知った。簡単に言うと、物質の熱しにくさ/冷めにくさということみたいだから、直感的には、物体の運動における"質量"にあたるもの、だと思うんだけど、熱慣性の単位に、[秒]の平方根が入っててひじょーにわかりにくい。誰だよ、こんな定義にしたの。。

 ところで、公転軌道上の位置を意味するSolar Longitude(黄経)のことを同僚が「エルサベス、エルサベス」と言うので「そう呼ぶものなのか。何かそういう単語でもあるのかな、ソルスティスみたいな」と半年ほどずーっと思ってたら、ようやく謎が解けた。Lsを"ell sub ess"と発音してたんだ。。

 それにしても、エンジニアのような仕事って、日々アウトプットとインプットが入り混じっていて、インプットではお勉強をするわけだけど、それでお金をもらってて、ときどき不思議な気持ちになる。だって学校で勉強してたときはお金を払って勉強してたわけだから。

 裏を返せば、日々のインプットの中に、少しでもアウトプットが混じり始めたら、お金をもらっていいわけだ。となると、研究を通して世の中に新しい価値を生み出し始める大学院はむしろ、当然のごとく給料をもらうシステムが本来あるべき姿かもしれない。少なくとも授業料個人負担はなし、とか。

★彡

【小噺】
うちのセクションの秘書さんが僕のことをずーっとMikeだと思ってて(たぶんアジア系アメリカン人の同僚と間違えてる)、会うたびに訂正してたけど、ついに別のセクションに異動になり、僕は永遠にMikeになった。。
…と思ったら、人事異動ですぐ戻ってきた。今度こそMike卒業する。

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U.S. Person

 "U.S. Person"という言葉は、いろんな文脈で、いろんな意味で用いられる言葉だが、ここJPLでは、米国籍か永住権を持っている人を指し、それ以外の人は特定の建物や情報へのアクセスを限られる。

 これ、我々アメリカで生きていこうとする外国人は嫌でも突きつけられる現実なのだが、生まれながらのアメリカ人は全く意識してないのだろう、全然知らなかったりする。

 毎週定例の火星プログラムのセミナーで、Mars Helicopterという火星探査にヘリコプターを使うミッションのプレゼンのとき、内容がITARという規制にかかるものだったので、外国人には退出してもらわなければならなかった。

 ホストの人が僕の方を向いて「君はU.S. Citizen?」と聞いてきた。Citizenかと問われればそうではないのでNoと答えたら、僕をよく知る上司C.W.が、「グリーンカード持ってるからOKだよ。"U.S. Person"」と横槍を入れ、ホストが「あ、"U.S. Person"か」と言ってニッコリしたことがあった。

 この例に見られるように、アメリカ人は普段"U.S. Person"というくくりを意識しないため「君はU.S. Citizen?」という聞き方になってしまうのだ。

 また別の毎週定例の火星ローバーのミーティングには、インド人の同僚がいる。彼はロボティクスセクションに雇われており、グリーンカードを持っていないのでU.S. Personではない。ロボティクスセクションは外国人の雇用に寛大なセクションだ。

 そのミーティングは、誰かが洗練されたプレゼンをするというよりは、少人数であれこれブレストするようなワーキングセッションで、ときどきあるスライドを見ながら議論したいのだが、それがITARにかかる内容、かつ、そのインド人がいるために、それができないというシチュエーションが生じる。

 申し訳なさそうにするインド人と、申し訳なさそうにする我々3人。現場の人間にしてみれば、誰も得しない面倒なルールなのだが、一瞬気まずい空気が流れてでも一応ちゃんとルールを順守する同僚には、それはそれで感心する。

★彡

【小噺】
ミーティングを設定するときは、設定者が全員のスケジュールと部屋の空き状況を一覧で見ながら設定するのだが、先日あるミーティングが、行ったこともない建物のよく知らない部屋に設定されてあった。空いてる部屋がなかなかなかったのだろう。
当日僕は迷路のような廊下を彷徨いながらなんとか目的地にたどり着いたのだが、参加者がほとんど来ていない。10分ほど待っても、あまりに集まりが悪かったので、とうとうホストがミーティングをキャンセル。あまりに辺境の地すぎてリスケになったのだ笑。僕はオフィスに戻りながら笑いが止まらなかった。
教訓:ミーティングは辺境の地に組むなかれ

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プログラミング

 僕はシステムズエンジニアで、ミッションコンセプトやアーキテクチャをシステムレベルでざっくり設計するのが主な仕事なので、実は高度なプログラミングスキルを要求されることはほとんどない。僕の公用語はMATLAB、第二言語にC、あとは趣味でJavaをたしなむ程度、といった具合だ。

 そういえば以前、SpaceXの誘導・航法・制御グループに面接してもらったとき、C++やPythonという言語の経験がなかったために「うちの部署では厳しい」と言われたこともあった。

 ところで最近、仕事でロボティクスの人たちと会うことが多く、彼らはときに生ソースコードを直に見せながら話をするので、ついていけないときがある。そういうわけで、Pythonをちょっと勉強してみようかなと思い始めた。

 Pythonはライト級と言われている言語なので、そんなに難しくはないというイメージだ。というか以前、ラボメートがPythonのコードを送ってきたとき、試しに読んでみたら、日本人が中国語を読む感覚くらいには読めた。

 Pythonまわりをネットで物色していると「5歳からのプログラミング」なるワードが目についた。うちの長女はちょうど5歳だ(少なくともこの文章を書いていたときは)。僕のは急ぐ勉強ではないので、せっかくやるなら娘と一緒にやってみようかな、と思い立ち、iPad Proを買ってきた。

 手始めにScratchJrという子ども向けプログラミングアプリをインストールしてみる。ピースを組み替えて視覚的にプログラミングしていくアプリ。娘は一瞬でモノにした。。こ、これは、僕の仕事を外注できる日が意外と早く来るかもしれない。。プログラマーの単価を調べておかねば(`・_´・ ;)ゴクリ

 続いて、Swift Playgroundsをインストール。こちらは選択形式でコーディングもさせるので少しだけ難しい。娘は、僕の助けを借りながら、次々とステージをクリアしていった。そして、ついにforループの概念が登場。

 5歳児にforループは早すぎる。。説明するのも難しい。。そもそも僕は早すぎる教育は良くない派だった。やりたがる娘を制して、ひとまず中断。しばらくはScratchJrで遊んでもらおう。

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NewsPicksの取材

 NewsPicksという、誰でも記事のリンクを引っ張ってきてコメントできるプラットフォームサービスがある。僕は1年ちょっと前から使っている。記事本文に加えて、幅広くいろんな人のコメントも読めるのが特徴。僕も宇宙関連や教育関連など興味のある記事を読んでは気楽にコメントを付けてきた。

 そんなNPから先日、取材の依頼を受けた。たまたまNPのライターさんがロサンゼルス在住だったのだ。というわけで、近所のカフェで待ち合わせ、1時間程度のはずが、途中から攻守交代して、僕が彼女にキャリアのことやロサンゼルスの遊び場などいろいろ教わったために、およそ2時間半にわたっていろいろお話させていただいた。記事はこちら

SOL 43でも紹介した近所のThe Americana at Brandというショッピングモール。そこだけ映画のセットのようなオシャレな空間になっている。たまたま取材場所がここになり、エンジニアらしからぬ背景に。。
写真:NewsPicks 小野晶子さん

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日本人学校

 前回の日記でイマージョンスクールについては述べた。かくして娘は、二言語教育を行う公立の現地校に入学することが無事決まったわけだが、妻はそれだけでは飽き足らず土曜の補習校(日本人学校)も見学したいと言い出した。それで僕らは、車を飛ばして30〜40分のところにある学校にアポを取り、施設や授業の見学をさせてもらった。

 びっくりしたのは、先生が猛スピードで授業を進めていたこと。小学校の先生ってこんなに怖かったっけ?ってくらい、ビシビシと指導している。ところが生徒たちはそれに臆することなく、のびのびと手を上げ受け答えをする。娘は少しびびっているようだった笑。

 補習校は1日で1週間分くらいの授業を進める必要があるので、なるほど確かにスピーディーにならざるを得ないわけだ。さらに生徒たちは普段現地校に通っているわけで、一方通行の座学よりもっとインタラクティブな授業を受けてるだろうから、平気でガンガン発言するように育っているかもしれない。

【余談】
その学校は現地校の校舎の一部を土曜だけ間借りして運営されており、教室の壁には現地校の掲示物が貼ったままだった。
"NO Trump NO Vote"と書かれた紙と特定の州だけ色が塗られた地図が貼ってあったことには驚いた。遠目に見ただけで、記憶も定かではないが、もしそれが民主党支持州の地図なら、結局反トランプ側も差別を助長していることにならないか。子どもらには世界をそんな色眼鏡で見てほしくない、と思った。

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 とまぁ、こんな感じで、他にも書きたいネタはいろいろと溜まっていますが、時系列は無視してどんどん書いて、もっとこまめに更新するようにします。次回は給与査定の話、エンセラダスの話、SpaceXの話など。今日は今から、嫁の運転実技試験(2回目)。うまくいきますよーに。

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