大学院を下見にデンマークを訪問しました🇩🇰
2023年4月19日から、5月1日にかけてデンマーク・スウェーデンを訪問しました。初の渡欧です…!
今回の旅はヨーロッパの雰囲気を満喫しつつ、大学院をいくつか見学するのと、再生可能エネルギー導入の最先端をいく国の雰囲気はどんなものなのかを感じたい、というのが主な目的でした。
なぜデンマークへ?
デンマークは風力発電導入に注力している国で、2022年は年間供給量 [kWh] の6割を太陽光と風力発電が占めるようになっています。
その導入の反面、再生可能エネルギーの間欠性に起因するレジリエンスの課題が懸念されていて、学術研究が盛んに行われています。
その中心にいる、Aalborg University, Department of Energy (AAU Energy)で Research Day という公開ラボイベントが 4/25 に開催されるとのことで、思い切って行ってみることにしました。
訪問先大学について
前提として私は、社会人のどこかで修士課程への大学院進学をする前提で学部卒で就職をしています。
先に社会人としてエネルギー業界の新規事業開発、新技術の社会実装の経験を積んだあとに、大学院に戻って応用研究に従事して、また新技術の社会実装をする…というアカデミアとビジネスを股にかけて、エネルギー問題解消に従事するキャリアを考えていました。
社会人も5年目になり、そろそろアカデミアの選択肢を模索しようということで、今回は旅行ついでに以下の3大学を見学してきました。
Technical University of Denmark
コペンハーゲンほど近くの Lyndby にある工科大学で、通称DTU
DTU Energy という Department があり、風力発電や熱電変換、蓄電素材開発など、機械・化学系のエネルギー技術研究が盛んに行われています。
一方電気系は DTU Electro という Department にまとまってますが、そちらは通信や半導体デバイスに強みを持っている印象を持ちました。
Aalborg University
デンマーク北部に位置する第4の都市 Aalborg に位置する大学で、通称AAU
AAU Energy という Department があり、パワーエレクトロニクスやマイクログリッド、Power-to-Xなどの電気系のエネルギー技術研究が集約されています。研究グループは6つあり、その下に研究プロジェクトが13あります。
ポスドクやPh.Dは研究プロジェクトごとの公募 + self funding 併せて100人以上いそうな感じでした…日本のパワエレ分野のそれを合計した数と、同じぐらいの規模感なのではないかと思います😖
Power Electronics の第一人者である Dr. Frede Blaabjerg や、Microgrid 研究の先駆者である Dr. Josep M. Guerrero などが在席しています。
Chalmers University of Technology
スウェーデン西部 Gothenburg に位置する工科大学で、通称 Chalmers
Department of Electrical Engineering の下に、Devision for Electric Power Engineering (EPE) があります。
EPE では Power Grids and Components / Electrical Machines and Power Electronics の2学類を中心に学ぶことができます。
卒業研究は企業に research intern 的に受け入れてもらって取り組み、審査を大学側が実施するという実践的な内容で、この仕組みから就職に繋がるケースが多いとのこと。修士から直接 Ph.D へ進学するケースは非常に稀のようです。
大学内に Chalmers Power Central という発電施設があります。oxyfuel combustion, and biomass gasification の研究をしながら、発電した電気はキャンパスへ供給。排熱もキャンパスの District Heating に利用しているとのこと。
3大学を比較すると、Chalmers は 1つの大学に工学体系が集約されていて日本の大学の工学部の組織構成に近しく、DTU と AAU は特定の分野にリソースを集約させた組織構成になっているようでした。
デンマークは大学数が少ない(わずか8大学)ので、大学ごとで注力研究領域が被らないように役割を分けているような印象を受けました。
同じ Department of Energy でも、発電機構などの機械や化学プロセスの研究ならDTU、パワエレなど電力系は AAU と住み分けがある。
研究リソースを集約させることで、同じ大学内での共同研究やプロジェクト発足がしやすい形になっていて、研究するにはとても良い環境なのかなと感じました。
今回は3大学のキャンパスの見学に加えて、AAUでは研究室訪問やオープンラボイベントへの参加、Chalmers では大学院のアドミッションガイダンスを受けることができました。
デンマークの電力インフラについて
旅先で外せない観光といえば電力インフラを眺めることなのは異論の余地なしかと思いますが、デンマークの電力インフラはかなり面白かったです。
以下で、私がデンマークで目にした電力関係設備をご紹介します。
Amager Bakke / Copenhill
デンマークを訪れる全ての電力関係者に行ってほしい設備 No. 1 です。
なんと Waste-to-energy の発電所の壁面で、クライミング、スキー、ハイキングを楽しむことができるという、デザイナーズ発電所です。
デンマークで最も高さのある設備(78m)とのことで、Densk Architecture Center に LEGO の模型が飾ってありました。デザインコンセプトは人口増加に伴う新しい空間活用の提案、とのこと。
デンマークは flat city なので、市内でスキーが楽しめるこの発電所は人々で多いに賑わってました。
Middelgrundens Vindmøllelaug
Copenhill の上に登ると、隣接する HOFOR のバイオマス火力発電所と、その奥に洋上風力 Middlegrundens Windfarm を見ることができます。一直線に並ぶ洋上風力は見ていて気持ちが良いですね。
写真には収まらなかったですが、Middlegrundens Windfarm の左前方には陸上風力の Lynettens Windfarm もあります。こちらは浅い海を埋め立てて敷設されていて、徒歩や自転車で結構近くまでいくことができます。
Electric Bus Charging Station
コペンハーゲンでは電気バスが走っています。Siemens 製の Bus Charging Station 450kW が Terminal 駅のバス停に設置されていました。コペンハーゲンは 2026年を目標に、全ての公共バスをEV化する方針とのことで、このインフラも数が増えそうです。
終点に到着したバスを充電しているときには、脇に敷設されたキュービクルが音を立てて一生懸命稼働していました笑
Windfarms
デンマークの内陸は多くが草原という植生らしく、高速道路を走ると草原に聳え立つ陸上風力発電所を眺めることができます。地図に記載のあるもの/ないもの色々です。地図に記載がなく、数台しか並んでいない風力発電所は誰が所有しているのか気になるところです。
Electric Vehicle Fast-charger
滞在したホテルの駐車場に、300kW出力の急速充電器が14口ついていました。街中ではBMWとVW、TeslaのEV/PHEVを良く見かけました。日本車は思ったよりも少なかったです。ドイツの隣国ということも影響してそうです。
Copenhagen Airport の駐車場には、ABB製の急速充電器 22kW がついていました。空港の駐車場には90基ぐらい EV Charger が導入されているようです。
Nordjylland Power Station
Aalborg を南北に隔てる浅海 Limfjord の北側にある石炭(石油も可らしい)コンバインド火力発電所(411MW)です。この発電所は排熱を Aalborg の District heating (地域熱供給)に利用しています。
日本だと排熱利用はあまり一般的ではないものの、JERA川崎火力で蒸気熱供給をしているという例もあります。同じように需要地点に近い京浜、京葉の発電所の排熱を都心の District Heating に活用して良いのでは?と思いました。流行りの温泉・サウナに利用できたら良さそう
架空送電線
コペンハーゲンには全く架空送電線が見当たりませんでした。都市景観配慮の観点で、地下送電線が埋設されているのだなぁと理解しました。
郊外にいくと架空送電線がちゃんとありましたが、一部の鉄塔がキテレツな形をしていました🤔 烏帽子型?に近い形ですが、上側に送電線通しちゃってますね
電灯
デンマークではどの街でも、なかなか電柱が見当たりません。主要な市街地では電灯が宙に浮いています。これも古都への景観配慮なのだろうな…と感服しました。
デンマークの電力事情について
年間の電力供給量のうち、風力発電が6割を占めるようになったというデンマークは注目が集まりがちですが、電力消費量の規模的には北海道に近い国であり、日本の総計(900 bn kWh)のわずか 1/30 であることには留意しないといけません。
人口(デンマーク 3.5M人、北海道 3.2M人)
面積(デンマーク 43000 km^2 、北海道 83000 km^2)
電力消費量(デンマーク 33.02 bn kWh、北海道 32.89 bn kWh )
系統もEURO圏と繋がっており、くし型独立系統の日本と横並びで議論はできませんが、再生可能エネルギー導入時の課題に先にあたる地域という観点で、日本にとって参考にできる点は多くあるのではないかと考えます。
Denish Energy Agency は今後さらに風力発電の導入量を増やしていく(2022年に2.3GWだった洋上風力の容量を2030年に8.9GWまで増加させる)方針を表明しています。
Aalborg University や Technical University of Denmark では、再生可能エネルギー大量導入による余剰電力の課題を解消するための研究テーマが盛んに行われているとのことでした。
参加した AAU Energy Research Day の今年のテーマは「e-Power-to-X」で、再エネ電力からGreen Hydrogen, e-Fuel を生成する研究開発、社会実装動向について紹介がありました。
終わりに
今回の旅で感じたこと、まとめると以下3つかなと思います。
デザイン性が高い、ということについて
デンマークの都市や設備、家具や小物にいたるまで、随所にデザイン性の高さを感じました。
デザイン性の高さ、というと曖昧この上ない表現ですが、今回の旅行の感覚を通じて私の中では「気分のよくなるものが、デザイン性の高いもの」と定義付けられるなと思いました。素敵なデザインのものに囲まれると、気分がよくなるなと思ったからです。
例えばこの定義では、排気や騒音を出すエンジン車よりも、静かに走り排気を出さないEVの方がデザイン性が高い。同じEVでも、怖さを覚えない温かみのある見た目の方がデザイン性が高い。情報量が適度でうるさくない広告の方がデザイン性が高い。
私自身も、デザイン性の高いプロダクトを世に残していきたいなと思いました。
エネルギーを身近に、そしてクリーンに。
これは SGDs No.7 のタイトルですね。SDGs での本題の意味するところは Access to Electricity を向上して脱炭素を進めようという意味合いのものですが、今回は「Access to Energy Facilities」を向上させるべき、という視点でこの言葉を使いたいなと思います。
デンマークの、高速道路に乗れば至るところで風力発電設備を眺められる、という光景は面白かったです。日本だと新東名の浜松風力ぐらいしか見かけなかったので。
CopenHill のように発電所に人々が集まるような仕掛けがあると、発電所に関心を持つきっかけになってとても良いなと思いました。
日本でも発電所設備の見学可能範囲を広げるなど、人々の「Access to Energy Facilities」を高めることで、身近に感じてもらえるようにできらたよいなと感じます。
大学院進学について
はじめに触れたように、私は社会人経験を一定積んだ後に大学院にいく、ということを決めて社会に出ています。奨学金受給の年齢制限もあるので、そろそろ頃合いかなと思い始め、今回の見学を企画しました。
AAU Energy Research Day は、アカデミアによる研究紹介と、ビジネスサイドの社会実装状況の紹介が行われるなど情報交換の機会になっており、AAU Energy が社会実装に関わっていこうとする積極性を感じました。
今回見学した3大学はいずれも平日に訪問しました。研究設備の大きさもさることながら、空きコマ中の学生が勉強に励んでいる様子に刺激を受けました。もう一回こういう期間を過ごしたいなーという気持ちを覚えました。
アカデミアとビジネスの間に立って新技術の社会実装に尽力したいなと思ってきた身ですが、あらためてその思いを強めることができました。
総じて、仕事と大学院準備のモチベーションがさらに上がる、良い旅行になりました。年度始めのおやすみを快諾いただいた現職のみなさんには感謝してもしきれません…!
引き続き楽しんでやっていきます✊