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農業分野の新規事業

今回は農業分野の新規事業をまとめようと思います。これまで業種/業界/領域毎の新規事業の方向性をまとめていましたが、今回「これまで農業をしていた法人/個人がどのような新規事業を行っているか」というよりは、他業種/業界からの参入も含めて事例を見ていこうと思います。

後述の通り、課題も解決余地も大きいというだけでなく、『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦』で活き活きと描かれているようにポテンシャルも大きな分野だと思います。

新規事業を進めている方に参考にしていただくのはもちろん、歴史のある産業の今を簡単に知ってもらう記事にできればと思います。

農業の超概観

 就業人口 就業者の年齢 国の対策と現状の観点から概観してみましょう。この切り口は『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦』から、①
・②の農業の数値はmirnorasu 実らす、農業のミライ」から、漁業の数値は「水産庁 漁業就業者をめぐる動向」「水産庁 漁業生産を支える人材確保」からお借りしています。

 就業人口
2000年に389万人だった農業就業人口は、2019年に168万人にまで減っています。20年弱で6割弱の減少です。漁業就業人口は2003年の23.8万人から2017年の15.3万人に減っていますが、減少率としては4割弱なので(いずれも減少著しいものの)農業の方が大きな変化に向き合っていそうです。

 就業者の年齢
168万人のうち、65歳以上が70.2%を占めるようです。ちなみに漁業の場合は65歳以上が38.3%のようです。

 国の対策と現状
改正農地法や農業競争力強化支援法などが試行され、特に2009年の改正農地法では企業が農地を取得・貸借しやすくなったことで、企業の農業参入が増えました。ただ、農業は天候などの不確定要素も多く、参入後、黒字化まで到達している企業は少ないようです。

他、2018年の「未来投資戦略2018では、スマート農林水産業の実現に向けて、データ活用をはじめとしたKPIも設定されています。

農業分野の新規事業の事例

今回も3つの軸から構成されるマップを用いて事業例を見ていきましょう。毎回但し書きをさせていただいていますが、この3つの軸はあくまで例で、場合によっては別の切り口の方が適していることもあります。

  • 横軸:事業範囲。1次産業だけを対象とするのか、2次・3次産業も含むのか

  • 縦軸:利益の源泉。コストダウンなのか、新たな価値を創り出すのか

  • 奥行:実現手段。アナログなのか、デジタルなのか

これらの組み合わせで12個の箱が存在するマップを作りました。今回は事例を4つ整理しましたのでご紹介します。

1. 楽天農業株式会社

企業の農業参入の事例としてイメージがわきやすいものから始めます。

Webサイトから読み取れる範囲では、楽天農業社は(今となってはもう新しくありませんが)「無農薬栽培」という価値と、加工も含めた大規模化=コストダウンを利益の源泉としている印象です。

他にも企業が農業に参入しているケースでこのポジションに当てはまるものは多いですよね。

2. 高槻電器工業株式会社

元々、FA・EMS・真空管事業など、製造業を営んでいた会社が農業に参入した事例です。これは楽天農業社とはちょっと異なる参入をしています。

リーマンショックの影響を受け、製造業以外のビジネスを模索した結果、自社製品のLEDを使ったトマト栽培が始まったようです。LEDを用いることによる高糖度のトマトは新たな価値と呼んでよいのではと思います。さらにECで販売しているので、「+3次産業」の「デジタル」の箱も色をつけています。

(余談ですが、東京のレストランで実際に食べて知りました。野菜というよりフルーツといった感じ。これで栄養素も豊富とのこと)

3. ドラマ『限界集落株式会社』

フィクションを事例として引くのはズレているかもしれませんが、個人的にとても好きな話なので紹介まで。

左下の「一般的な農業」を進めてきた集落がジリ貧になり、どうするか?というお話です。まずは販売所を設けて規格外野菜の取り扱いを始めるのですが、それだけではどうにもならず、ドラマの中ではこの言葉は使われていませんが「アグリツーリズモ」に近い取り組みを始めます(ちょっと言い過ぎかな...)。

都市圏に住む家族にいわば農地を提供し、週末に家族連れで農業を楽しんでもらう。地元の人とのコミュニケーションも楽しんでもらう。平日は集落の農家が農作物の面倒を見る、という事業です。

この集落に観光コンテンツがあり、それらを巻き込んだ体験にできれば、より本格なアグリツーリズモになりますね。

4. 株式会社スプレッド

最後は農業の自動化から農作物の加工までを行う企業の事例です。何度も参照している『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦』の中に出てくる事例です。

植物工場は様々な企業が取り組んでいますが、黒字化が難しい事業のようです。その中でスプレッド社は最適生産条件を見つけ、大規模化に成功しているとのことです。グループ企業が青果物流事業を行っているので、流通網の構築がスムーズにできたことも成功の一因のようです。

事業ではなく産業として農業を見たときの注意点

商工業は消費者の可処分所得が増えると(農業と比べると)需要が増える傾向にあります。生産性向上のスピードは速く、供給も自然に増えていきますが、これまた農業と比べるとコントロールしやすく、価格を維持しやすいという側面があります。

一方、農業は消費者の可処分所得が増えても胃袋のサイズには限界があるので需要に天井があり、中長期的に見れば生産性が向上して供給が増える傾向にあり、価格が下落しやすいという宿命があります。

これまで「比較優位」という観点から、周囲の国・地域より相対的に強い産業に集中するというアプローチが採られてきたのではないかと思います。現代の地域創生も近しい考え方が多いように思います。ある地域の特定の農業・漁業はその地域の風土に根ざしているので、他の地域より相対的に強くなります。ただ、その点に表層的に着目するだけでは、ある地域内では供給業者の数が増えて価格下落につながったり、育てるべき他の産業に十分なリソースが投下されなかったり、というリスクにもつながります(ここまでの内容は『現代経済学の直観的方法』をベースにしています)。

我田引水のようになってはいけないのですが、上記のことを踏まえると、2次・3次産業を含めて「事業範囲」をどのように定義し、そこでどのような「利益の源泉」を狙い、どのような「実現手段」を用いるか、という観点は事業を考えるだけでなく、産業としてどのように勝ち抜くのか検討する上で重要だと思うのです。

まとめ

今回も限定的な事例の紹介に留まりましたが、農業分野の新規事業検討の参考になれば幸いです。

今回十分に書けなかった点を最後に書くと、農業は他の業種/業界/領域の新規事業と比べて「忍耐」「徹底」が必要ということです。

ご紹介したマップのどこにポジションを取っても、「自然」を相手にする以上、不確実性や不可視なことは多くあります。また、歴史の長い産業である事業/取り組みが行われていない場合、何らかの制約があるということでもあるでしょう。新規事業自体、忍耐や徹底は必要ですが、農業分野はなおさら、ということが言えそうです。

ただ、他分野のアプローチを持ち込み、成功している事例もあり、可能性は大いにあると捉えています。適切なプロセスを踏みながらの「忍耐」や、様々な新規事業開発の経験を投入した「徹底」といった面で、皆さんのチャレンジに我々が貢献できると思います。

事例やアプローチなど、お気軽にお問い合わせくださいませ。


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