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Less is moreとはなにか?バウハウス校長がデザインしたレムケ邸を訪ねて

先日ドイツの建築家であるルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエが設計したレムケ邸を訪ねました。

ミースはバウハウス3代目の校長で、近代建築の三大巨匠と言われています。

Less is more

……少ないことはより豊かである
……より少ないことはより良いことだ

という言葉を残した人物でもあります。

レムケ邸にはその思想が込められています。

1932年、当時ミースがバウハウスの校長であった時に印刷会社オーナーのカール・レムケが彼に住宅の設計を依頼しました。

※写真は現地で掲載OK頂いてます&時々壁に飾られているのは展示品です。

レムケ邸とは

レムケ邸は、レンガ造のL字型住居。こてこてした高級住宅地には似合わないくら落ち着いた佇まいです。

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通りに面している壁には上部に小窓をつけてプライバシーの確保を大切にしていることが伺えます。

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玄関の目の前には長方形のダイニングルームがあります。

ダイニングの右手には細長いキッチンがあり、現在は管理人さんのオフィスとして使われているよう。

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通りの反対側にあたる面は、天井まで全面ガラス張りです。

ドイツの住まいの中では決して天井は高くありませんが、圧迫感がなく、広く感じられました。

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細い鉄枠とガラスの窓を兼ねた扉は重みがあり、強度の高さを伺えます。

フローリングは板を組み上げたもの。可愛い(!)

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部屋の両端には、白くて薄い板のようなセントラルヒーティング(暖房)を完備。一目して気づかないくらい部屋に馴染んでいます。

入り口から左手には長方形の部屋があり、この部屋の内装はダイニングルームと同じです。ここはオフィスとして使われていた模様。

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さらに奥にはもう一つ、少しコンパクトな部屋があります。

床や内装はほかの部屋と同様ですが、寝室として使われていたこの部屋の窓からの景色が美しい。

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鉄のモニュメントと湖を望むことができます。ローエにとって窓は額縁だったのでしょう。

テラスには広葉樹が一本植えられており、木の下にテーブルと椅子を2脚配置していたようです。

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石畳のテラスや室内からはシンボルツリーと木の実が実る木々を眺めることができます。

敬愛するドイツの建築家・ブルーノタウトと同じく、住居より広々とした庭は、植生が豊か=季節を感じることができるお庭という印象。

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通りから室内が見えないように造られた植物の仕切りがあるのも特徴です。

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石の小道はテラスから湖に続いています。

庭の端々にもシンプルな木の椅子があるので、レムケ夫妻はここで休息をしていたのでしょう。

どこにLessがあるか?

ここからが本題です。

※Less is more は細部まで最小限で造られている、ということは想像しやすいので大前提であるとして、今回は住居の特に触れません。

ドイツの住居の特徴は「箱型」であること。

たとえば、これまで僕がドイツで住んできたアパートメントはこんな間取りです。

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上から見ると中身がとてもシンプルな正方形または長方形であることが多く、細かく仕切られて複雑な日本の住居との違いだと感じています。

レムケ邸はL字型ですから、これまで見たり住んだりしてきた住まいとはちょっと違う間取りです。

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ところが部屋の中をうろうろしていると、テラスを介して反対側の部屋と繋がっている感覚を抱きました。

石畳のテラスまでがお家だなぁ、と感じるのです。

そのときにハッとしました。

「箱型」の住居スペースとして眺めると、どうでしょうか。

ミースは石畳のテラスも居住空間として設計していると見立てることができるのではないでしょうか。

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すると疑問が湧いてきます。

なぜ部屋にしないでテラスのような空間にしたのだろうか?

このスペースをもう一つの部屋にすることができたのに、もったいないのではないか?と。

ここにこそ「less」の思想が詰まっているように僕は思います。

つまり、室内と庭を結ぶ中間のスペースにこそ「more」が存在するのです。

仮に大きな部屋があるとしても、キッチンとその横にダイニングがあり、仕事用の部屋と寝室があるから、レムケ夫妻にとって必要ではないスペースだったと想像できます。

※追記:レムケ夫妻は二人暮らしです。子どもとの暮らしは考慮していない前提でのお話です。

石畳のテラスは、一言でいうとフローリングの延長でなんでもできる広いスペースです。

ある日は夫婦がコーヒーを飲んで一服する。

ある日は友人を招いてグリルする。

ある日はテラスで朝食をとる。

ある日はテラスでヨガをする…というふうに、石畳の空間では室内でできないことができる。

石畳のテラスは、ここで暮らす夫婦の過ごし方を増やしています。

必要性がない部屋を削ぎ落とし、室内と庭の中間に位置する余白の空間を作った理由は、過ごし方の自由を与えてくれる場所だからだと思います。

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Less is moreとは

ミースはLess is moreという言葉に、必要を満たす最小限であることによって(必要を満たせず不自由を感じることがなく)自分の心のままに過ごせることこそ豊かであるという考え方を込めたのだと思います。言い換えると、住まいとは住む人にとって白いキャンバスであるべきだということです。

逆に言えば、住人がなにかしらの窮屈さを感じることがあるなら、それは住まい方を見直したほうがいいかもしれません。

また less is moreという考え方は、あらゆることに転用できそうです。

住まいや暮らしだけではなく、仕事も必要最小限にすることによって、自分の思うように暮らしがしやすくなると思いますし、作品制作においても必要最小限にすることで、読み手に解釈する余地を残すことができます。

ただし、極端に不要を削ればいいわけではありません。

たとえば、ミニマリズムを追求した結果としてホテル暮らしをしてみるとします。

ときに「DIYしてみたい」「インテリアの配置を変えたい」「家で洗濯したい」といった必要(願望)が生じても、思うように行動できない窮屈さを感じるのであれば、少なくしたからといってもLess is moreであるとは言い難いです。

その人の暮らしに自由を与えてくれる絶妙な塩梅、バランス、調和こそ、住まいに必要であるとミースが教えてくれたように思います。


それでは、今日はおしまい。

■レムケ邸へのアクセス
Oberseestraße 60, 13053 Berlin, ドイツ
+49 30 97000618
https://goo.gl/maps/ac7RtyQRztz9Mipz8

■公式サイト


*映像も撮っています。ぜひお立ち寄りください。





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