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23-24AWメンズウェア展示会リポート②

前回からの続きをお届け。2月から3月は独立系の国内ブランドと新興ブランドが多め。自転車を走らせてあちこち会場を移動した。


2月15日

MAISON MIHARA YASUHIRO
メゾンミハラヤスヒロ

カルチャーへの深い造詣と社会情勢をアイロニカルに捉えた視点を、クリエイションに落とし込む三原氏。今季はベルリンの壁崩壊当時のユースカルチャーからインスパイアされたコレクション。メッセージは伝わりやすく、あの頃のフィーリングを服に込めたのであろうが、個人的にはダメージ&ユーズド加工がトゥーマッチに思えてしまった。一方で、MMYから派生したブランドの展示会に着目。スポーティカジュアルラインの「インストゥルメンタル」、サステイナブルに着目したシューズラインの「ジェネラルスケール」、スタイリスト井嶋氏が手がける「メンドリル」とのコラボなど、欲しいアイテムが多かった。コレクションラインとは別に、リアルクローズ寄りのアイテムは別ラインでしっかり提案するという方向性は非常に良いと思った。

2月17日

MARKAWEAR
マーカウェア

2003年から続くベテラン。メイドインジャパンにこだわり、生地や縫製といった洋服の本質的部分を追求したていねいなモノ作りが特徴であり最大の魅力。時代に合わせてシルエットを調整しながら、ミニマルで都会的なワードローブを今季も展開。テーラード、ミリタリー、ワークというメンズ服の基本に則ったラインナップ。あまりに真っ当すぎて、セレクトショップのオリジナルのようにも思えるが、実際のところそういう立ち位置が求められているブランドなのだろう。近年はサステナビリティにも気を遣い、さらに素材にこだわった上位ラインの「テクスト」も展開。デザインやコンセプトよりもプロダクトありきで、実直なモノ作りをストーリーとともに紹介するという手法は、今後さらに重要になってくると思う。トレンドを無視する訳では無いけれど、プロダクトファーストな人には非常にありがたい存在だ。


JIEDA
ジエダ

まだキャリアが浅いながらも、ショップとブランド経営を軌道に乗せているやり手のデザイナーとの前情報を仕入れたので、中目黒の会場へと足を運んだ。ジーンズを主軸にしたカジュアルブランドで、そこにオーバーサイジングやダメージ加工などを入れてストリート感をプラス。メンズでは珍しいペールカラーの提案やタイダイやウォッシュ加工など、どこか2000年代初頭のストリートを感じさせるところが今っぽい。プライス設定を含め、売り方が上手なんだと思うが、どうしてもオリジナリティ不足という印象は拭えない。他にも若手で良いブランドはたくさんあるので、次のステップへ登るためには何らかの仕掛けが必要だと思う。


JOHN LAWRENCE SULLIVAN
ジョン ローレンス サリバン

ここ数年は発表の場をロンドンに移し、エッジの効いたコレクションを展開しているJLS。テーラリングアイテムを得意とし、パワーショルダーのジャケットやコートを極太パンツと合わせる提案が目立った。ここ数シーズンは極端なビッグショルダーや角度を付けた前振りのアームなど攻めたデザインが多かったが、今季はやや控えめでコスプレ感が少なく、ちょうどいいバランスにまとまっていたと思う。とはいえ、メタルパーツをあしらった“殺し屋1”のようなシューズ(ダークビッケンバーグ風でもある)や、サイドに編み上げをあしらったSM嬢みたいなレザーパンツなど、毒気はたっぷり。とあるお笑い番組で、芸人の千鳥がJLSのジーンズをネタにしたことにデザイナーの柳川さんが怒りの反応を投稿し、賛否の声が上がったのが記憶に新しい。ハイファッションは奇天烈な見せ物にすぎないのか、時代の先を提示するアートの一種なのか、それはあくまで受け手次第なのだろう。個人的には柳川さんに同情するが、門外漢からのイジリは無視した方が賢明だったのかも知れない。


3月1日

SEVEN BY SEVEN
セブン バイ セブン

メンズブランドの日本人デザイナーの多くが、事あるごとにヴィンテージからの引用を口にするが、それはある種の逃げ口上に聞こえることもある。しかし、このブランドはこうした批判をさらりとかわす新しさがあるのが、他ブランドとの大きな違いだ。アイテムのほとんどはオーバーサイジングなのだが、実際に着るとただ大きいだけではなく、着る人の身体をちょうどいいバランスで見せてくれるように計算されているのだ。今季もベーシックなカジュアルアイテムを、上質な素材と縫製、ありそうでないパターンで再解釈。特に目立つ服ではなけれど、他にはないカラーリングと素材感とシルエットに。アンドワンダーと同じく、アングローバル傘下のブランドになったこともあり、安定感が高まっているのが如実に現れていた。年代、体型を気にせず今のファッションを楽しめる通好みなブランドで、個人的にも欲しいものが多数あった。


ISAMU KATAYAMA BACKLASH
イサム カタヤマ バックラッシュ

レザーアイテムに特化した息の長いブランド。数多くの有名ミュージシャンに愛されていて、熱心なファンも多数。トレンドに左右されずに我が道をいくスタイル。今季目立ったのは、初挑戦だというレザーのツナギ。かなりの重量だが、実際に着るとそうでもないそう。バイク乗りにはいいと思うが、やっぱりツナギはトイレ問題があるのでそこは注意したい。他にはアウトドアテイストのボアジャケットも良かった。環境に優しいエコレザーが注目されているけれど、やっぱり本物のレザーの雰囲気は何物にも代え難い。

LAD MUSICIAN
ラッド・ミュージシャン

あと2年で30周年ということを考慮しても、息が長いドメスティックブランド。ある程度の規模感を維持しながら、顧客の世代交代がきちんとなされている稀有な存在。ブランド名通り、ミュージックカルチャーからの引用がデザイン源となっているが、時代に即したシルエットやグラフィックの効果的な使い方で、しっかりファッション現役世代にも刺さるクリエイションを展開している。ウィメンズのシャツワンピースのようにも見えるポンチョ風ロングシャツなど、トレンド要素を確実に突いている。夭折のカリスマ、イアン・カーティスのフォトコラージュTが個人的にはストライク。


SCYE
サイ

服好きならば誰もが知っているベテランデザイナーデュオによる通好みなブランド。基本はトラッドながら、時代に即したアレンジと、このブランドらしい上質な素材とパターンメイキングが際立つ。スカイブルーのフランネルジャケットは、まさにこのブランドらしい遊び心と卓越したモノ作りが同居した秀作。極端なオーバーサイズやタイトフィットではなく、きちんと身体にフィットしつつも今っぽくまとまるのが素晴らしい。他にもスウェットのツナギやカラフルなドリズラージャケットなどの新提案もあり、欲しいものがたくさんあった。


3月3日

SOUTH2 WEST8
サウスツーウエストエイト

「ディーベック」や「ダイワピア39」など、”フィッシング”をバックボーンにしたブランドがいくつも出現したが、その前から「サウスツーウエストエイト」は釣りとファッションの融合を提案。テンカラと呼ばれる毛針を使った釣りを取り上げ、ギア的要素を高めたコレクションを展開している。今季もアイヌの伝統的な柄mのようなグラフィックを多用し、透湿防水素材を使ったコートやパーカを中心に、フィールドにも対応する機能的なパンツも多数ラインナップ。街中で着ても違和感がなく、トライバルな雰囲気が楽しめる。自分は毎年のようにエンジニアドガーメンツばかりを注文してしまうのだが、たまにはこのブランドも着てみたいと思う。


3月10日

YOSHIO KUBO
ヨシオ クボ

長年培ってきた確かなテクニックとバランス感で、モードでもありストリートでもある独自の立ち位置でコレクションを展開している中堅ブランド。今季のテーマはカンフーで、チャイナボタン風の前合わせがポイント。そこへ横方向に極端に広いオーバーサイズシルエットを組み合わせて、ありそうでない1着へとアレンジ。バイアスカットし生地を丁寧に柄合わせしたシャツなど、ハイセンスなキレイめのアイテムが紛れ込んでいるのもこのブランドらしいところ。リアルクローズながらもちゃんとデザイナーズらしい主張があるのがいい。単に奇抜さを追い求めるだけでなく、かといって真面目にモノ作りに傾倒するだけでもない。そんなバランス感が久保さんの魅力なのだ。


N. HOOLYWOOD
エヌハリウッド

あまりに混雑している時間帯にお邪魔してしまったので、新作の写真は撮ってない。でも、会場入り口の1Fにある、従業員用のジムの写真をこちらにアップしておく。デザイナーの尾花氏と久しぶりに挨拶したとき、このジムのことを少しだけ話したのだけれど、自分専用ではなく社員も自由に使えるのは本当に素晴らしい福利厚生だと感心しきりだった。コレクションラインの一部ではチェックを多用していたが、基本的にはNハリらしいグレーを基調としたミニマルなコレクション透湿防水や吸汗保温など機能性素材を駆使したテクニカルアパレルが目を引いた。以前よりもかなりスポーティになっている。


LENO
リノ

デニムを基本とする古き良きアメカジ路線に、ユーロワーク・ミリタリーを加えて、無骨になり過ぎないデザインが特徴。「エンジニアドガーメンツ」や「ポストオーバーオールズ」といったワークウェアカジュアル系。素材にも気を配っていて、アイテムひとつひとつの完成度も高い。プライス設定も良心的で、サイズ次第でユニセックスでも楽しめるアイテムが多いので間口の広いブランド。雑誌のポパイやファッジを読んでいそうな人に受けると思う。決して大化けするブランドではないけれど、息の長いブランドになりそう。このブランドもそうなんだけど、今季はなぜかフードなしのモッズパーカとチャイナボタンをやたらと見かける。


3月15日

VALAADO
バラード

2021年にデビューしたばかりで、パンツに特化したメンズブランド。下半身をスラリと見せてくれるスラックスが秀逸。同パターンで素材違いのデニムバージョンもある。以前、やはりパンツに特化した「リディアル」というブランドがあり、パターンメイキングが素晴らしかったことを思い出した。良くも悪くもアイテム特化型ブランドは、トータルな世界観を打ち出すことが難しいが、「バラード」はしっかりとシーズンビジュアルを作り込んでいるのがいい。ワイド&ビッグなシルエットの人気は継続しているものの、先鋭的なブランドは細身に回帰しつつもあるので、うまくその波に乗ることができれば一定の支持を集められそうだ。


MANASTASH
マナスタッシュ

上野商会と合併したTSIホールディングスが、アメリカのアウトドアブランド「マナスタッシュ」を大幅にリブランディング。ヘンプ素材を多用したタフな作りのアイテムが身上だが、そのDNAを受け継ぎながらも日本企画によってさらなる飛躍を目論んでいる。ライフスタイル、パフォーマンス、ストリートという3つのカテゴリーに分けて商品を構成し、販路も分けるそう。透湿防水素材や吸湿保温素材を使ったハイスペックなアイテムでも5万円以下と、かなりお値打ちなのが魅力。「ザ・ノースフェイス」「パタゴニア」「アークテリクス」などがひしめくアウトドアアパレルの中で、新しい選択肢のひとつとなり得るポテンシャルは十分にある。安っぽく見えないようにブランドイメージをコントロールすることがこれからのカギになりそう。


M’s Braque
エムズブラック

2001年のデビュー当初から現在まで、業界内外の服オタ(失礼!)から評価の高いブランドで、テーラードアイテムを基礎にモードとエスニックの要素を掛け合わせて、現代のジェントルマン像を描き出している。以前からインターナショナルギャラリービームスでよく取り扱われていたブランドで、雑誌の仕事でよく撮影したことを覚えている。ドレスクロージングを軸にしながらも、素材使いや色柄選びで無国籍な雰囲気にリミックスする手腕は今季も健在。メンズでは珍しいドルマンスリーブのような袖付けや、カーディガンのように羽織るドロップショルダーのジャケットが面白い。いつもこのブランドからはインポートのような佇まいを感じる。


3月22日

IRENISA
イレニサ

「ヨウジヤマモト」と「サポートサーフェイス」でキャリアを積んだ二人の男性デザイナーが設立し、20-21AWからスタートしたばかりの新鋭。少し前から名前は聞いたことのあるブランドで、知り合いがPRに関わっていたので拝見した。ミニマルかつ構築的なシルエットに仕立てられたブルゾンやジャケットは、往年の「アレッサンドロ・デラクア」や「ニール・バレット」など90年代後半のイタリアのデザイナーズブランドを思い起こさせる。上質な素材を厳選しており、ゆとりを持たせつつも身体にしっくりと馴染むシルエットも絶妙。洗練された大人のリアルクローズは、業界筋からの評価が高いのも納得。「ハイク」や「リラクス」とかが好きな人に響くブランドだと思う。


KAMIYA
カミヤ

ミハラヤスヒロのストリートラインとしてローンチしていた「マイン」が、デザイナー神谷氏自身の名前を関してリブランディング。デビューコレクションは90年代ヒップホップからの影響を感じさせる不良なアメカジ路線。併せて公開されたルックも、ギャングスタっぽいムードに。三原氏の弟子だったこともあり、手の込んだパッチワークやカットアウトなど随所にデザイナーズブランドらしさを取り入れ、ありきたりなストリートブランドではないことが伺える。古着を取り入れたスタイリングにも違和感なくマッチ。派手さはないが、今のストリートを的確に捉えていると思う。ただ、懸念点はストリートファッションが今や飽きられ始めているということ。このカテゴリーに安住してばかりいると危うい。


VOLTAGE CONTROL FILTER
ヴォルテージ コントロール フィルター

長いブランド名は、エレクトロ系のDJが使用するアナログシンセサイザーに由来する、デビューしたてのニューカマー。デザイナーはマルジェラのデザインチームで仕事をしていた実績がある。主にウィメンズだが、サイズ次第でメンズも楽しめるユニセックス提案で、デニムやダック素材を多用したコレクションを展開。最近ウィメンズではお馴染みの肌見せのデザインやボリュームのあるスリーブなどで変化を付け、ストリートモードな仕上がりに。ありきたりのビッグシルエットではなく、どこか90年代っぽさを想起させるあたりが秀逸。90年代の終わりから00年代初頭に、一部で人気を博したイタリアの「レフトハンド」やドイツの「サボタージュ」など、当時のクラブキッズに愛されたブランドにも通じる雰囲気が面白い。ウィメンズを軌道に乗せることができれば、メンズでもまだ伸び代がありそう。とは言え、かなりニッチなゾーンではあるが…。


THE DAY
ザ・デイ

「ポーター・クラシック」のPRを務めていた河内君が独立して立ち上げたブランド。デビューコレクションは、テーラードアイテムを基軸にシャツを加えたシンプルな構成。当然ながら型数は絞られるが、厳選した素材を使って今っぽい落ち感のあるビッグシルエットにデザイン。シティボーイ路線とも言える“普通なようで普通じゃない”服といったところだろうか。PRで培ってきた人脈でたくさんのエディターが来場していたので、しばらくは注目を集めることができるだろうけれど、「オーラリー」や「ヨーク」などにも通じる“ニューベーシック”路線は、競合が多いので前途多難だろう。忍耐強く続けるためには資本的なバックアップが必要だと思う。


3月24日

KIIT
キート

2007年のデビューから現在まで安定したコレクションを展開している。前述の「マーカウェア」とカテゴリーは同じで、“気の利いたデイリーウェア”路線。ブランドの母体が繊維会社のため素材にこだわっており、見て触るだけで上質さが伝わるアイテムが多数。デザインベースとなるのは、トラッドで、そこにミリタリーやスポーツといった要素を加えたラインナップ。特にオーバーサイズでもタイトでもなく、バランスのいいサイズ感に仕上げている。ちょっと真面目すぎて退屈に思えてしまうかも知れないが、ちゃんと売れる服を作っている。「ワイルドシングス」とのコラボは今季も継続。


TAMME
タム

2021年にスタートしたニューカマーで、方向性としてはM A S U同様に“着飾る男服”。デザイナーは「サカイ」でパタンナーを務めていた玉田氏で、装苑賞をはじめ数々の受賞歴を誇る実力派。今季は随所にジッパーやスリットを配したり、レース刺繍をあしらったり、ボタンの開閉によって印象が変わるギミックなど、ひとつのアイテムにいくつものギミックを仕込んでいるのに驚かされる。ややゆったりとしたトップスに、細身のスラックスを組み合わせた上下のシルエットバランスも今っぽい。ロックミュージシャンの衣装のようでもあるし、決して万人受けするブランドでは無いけれど、エッジの効いたアイテムを求めている人にはうってつけだろう。


MIOSMOKEY
ミオズモーキー

スタイリストの榎本実穂さんが21年にスタートさせたユニセックス提案のブランド。最近はジェンダレスという呼称の方がいいかも知れない。ドロップショルダー&ビッグシルエットのセットアップやオールインワンが人気なのだそう。女性デザイナーらしく、服自体がとてもクリーンに見えるのは、素材と色柄の選び方が上手いからだろう。ただし、こういうアプローチはもはや珍しくもないし、たくさんのブランドがやっていることなので差別化が難しいところ。


HIDESIGN
ハイドサイン

スシローや東京ガスなどの大手企業のユニフォームを手掛けているデザイン会社でありウェアブランドが「ハイドサイン」。東コレにも参加するなど、ファッションブランドとしての打ち出しをしっかりしていて、今回は青山スタジオの一室を借り、たくさんのマネキンに着せ付けたインスタレーションを披露。90年代の「ファイナルホーム」を思い起こさせる、近未来感のあるユニフォームを展開。ワークウェアとしての機能性を突き詰め、同時にモード感もあるデザインに仕上げている。ユニフォームを手がけるデザイン会社がこういう取り組みをするのは面白い


③に続く



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