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「ゲノム編集された食品は安全なのか」という問いが正しいのか 2022年2月9日(水)

※2019年10月14日に書いた記事に加筆・修正を加えました。

ゲノム編集食品とは



今年の10月1日から、狙った遺伝子を効率よく改変する「ゲノム編集」技術で開発した食品の販売に向けた届け出制度について、運用が始まっていることをご存知でしょうか。

ゲノム編集された食品は、届け出のみで販売できるようになり、安全性審査は不要です。

因みに、遺伝子組み換え食品は安全性審査が必要です。安全性審査というのは人間に害を及ぼさないかどうかを調べるものです。

早ければ年内に一部のゲノム編集食品の流通が始まります。


ところで、ゲノム編集というのがどういうものかご存知でしょうか。
ざっくり言うと「突然変異を狙っておこす」行為のことです。

作物というのは、長い歴史の中で栽培化され、交配を繰り返して長い年月をかけて美味しく食べることの出来るものが選抜されてきました。

何年も何十年もかけて選抜された品種を今日の私たちは食べています。

「別に今は困っていないから、わざわざゲノム編集なんてよく分からないことをする必要ないのでは」

そんな声も聞こえてきそうです。

しかし、食品ロスが問題となっている現状の日本では感じないかもしれませんが、世界的には爆発的な人口増加が今後も続く見通しで、他国への食料輸入が増えれば相対的に日本への食料輸入量は減る可能性もあり、食料安全保障の観点においてもゲノム編集を知り、理解しておくことは重要であるわけです。

【参考資料:農水省】
2050年における世界の食料需給見通し

ゲノム編集食品のポイントは大きく2つあります。

・健康的で安全性の高い作物を遺伝子操作で時間をかけずにつくる
・同じ面積でも収量が増える作物を遺伝子操作で時間をかけずにつくる

前者は健康成分を増やしたり、例えばジャガイモのソラニンのような毒となる物質を遺伝子操作して削除することでより「健康的で安全性の高い作物」をつくります。

後者は稲の本数(茎数や穂数)が増えるように遺伝子操作をして「いつもと同じ仕事量でいつもよりたくさん収穫できる作物」をつくります。

特に後者においては、今後も人口が減り続けると予想される日本においては、食料安全保障において重要であると思います。



ゲノム編集の問題とされている点




「健康的で安全性も高くて、収量もとれるなんて、ゲノム編集万歳!」

という風にはなるはずもありません。

詳しくゲノム編集について知らない(知らされない)ままに「ゲノム編集した食品でまわりまーす」と言われたら、ただでさえ広く受け入れられたとは言い難い「遺伝子組み換え食品」の二の舞になることは想像に難くありません。

因みに遺伝子操作をするという意味では、遺伝子組み換え食品もゲノム編集食品も同じなのですが、両者には大きな違いがあります。

遺伝子組み換えでは、遺伝子を追加します。
一方で、ゲノム編集は遺伝子を切ります。

もう少し具体的にいきましょう。

遺伝子組み換えは、例えば病気に弱いトマトがあったとすると、そのトマトに外から持ってきた病気に強い遺伝子を追加して、病気に強いトマトをつくります。

一方で、ゲノム編集は同じく病気に弱いトマトがあったとすると、そのトマトの病気に弱い遺伝子をハサミのようなもので切って、突然変異を起こさせることで病気に強いトマトをつくります。

ゲノム編集は遺伝子組み換え食品と比べると、時間と労力が圧倒的にかからないのも特徴です。

さて、ここからが問題です。

遺伝子組み換え食品は人間に害を及ぼさないかどうかを調査する安全性審査が必要です。

ところが、ゲノム編集食品には安全性審査は不要なのです。

これは、遺伝子組み換えが自然界の現象として有り得ないことだから、安全性審査が必要だけど、ゲノム編集は天然の放射線で遺伝子が切れて突然変異するように、自然界で通常有り得ることだから安全性審査は必要ないというものです。

これは考え方が様々でアメリカは日本同様に安全性審査は不要という考えですが、EUは安全性審査が必要だという考えです。

また、狙った遺伝子と違うところを誤って切ってしまう「オフターゲット変異」という現象の可能性も問題視されています。

これについても、「いずれにしても自然界で起こり得る突然変異であり問題ない」とかそれに対する反対意見など、賛否両論があります。

結局のところ、ゲノム編集の問題点として指摘されているのは以下です。

・安全性審査の要不要
・オフターゲット変異よるリスク検討の要不要

つまり、安全に食べることの出来るものかどうかが明確ではないのではないかということです。

ゲノム編集の本当の問題点




ここからは、かなり個人的な意見です。

まず、安全に食べることが出来るかどうかというのは、「悪魔の証明」が必要であり、つまり実質的に今現在であっても100%安全だと保証出来る食品はないというのが私の意見です。

みんなが普段から使っている塩だって、摂取量を間違えれば死に至ります。

「無農薬だから安心安全!」と思うかもしれませんが、例えば菌核病にかかった無農薬セロリは「フラノクマリン」という毒素を大量に作り出すため、大量摂取で死に至る可能性もあります。

安全神話が崩壊した狂牛病の事件も昔ありました。

〇〇だから安全だというものは何一つないのです。
安全なものを諦めろというわけではなく、100%安全なものはないという理解をした上で、ゲノム編集についても学び取捨選択を自分でしていく必要があるということです。

では、本当の問題点とは何か。

私は、本当の問題点は「国と国民とのコミュニケーション不足」だと思います。

ゲノム編集食品は安全性審査が不要なため、実は遺伝子組み換え食品のように食品表示は義務付けられていません。

つまり、知らぬうちにいつの間にかゲノム編集食品を食べている日が来るのです。

これは問題です。

私はひねくれているので、こんなやり方をされたら国は私にこのように言っているように聞こえます。

「ゲノム編集食品は安全だから、表示はもちろんしないよ。分からないなら、ちゃんと自分で勉強してね」

「食べても問題ないからいいよ」と最後に判断するべきは「買う人」であり「食品の消費者」だと私は考えています。

現状の世間のゲノム編集に対する理解や認識を考えると、選択は出来るようにしておくべきであり、そうでないと消費者側もゲノム編集食品について自ら学ぶことをしなくなり、それどころか逆に「なんか嫌だ」というふわふわとした疑念が消えなくなってしまうでしょう。

今年ぶどうの収穫時期にあった出来事です。
ある4名の家族がぶどう狩りに来ました。ぶどう園には蜂もよく出るのですが、急に蜂が現れて家族は逃げ惑っていました。
ある人が、「こっちから攻撃しなければ襲ってこないから大丈夫だよ」と言っていたのですが、その家族としては「そんなこと言われたって恐いものは恐い」という感じだったでしょう。

言いたいことが伝わりますでしょうか。

表示されたとしても、何も知らなければ「恐いものは恐い」のです。

最低限、「ゲノム編集食品だぞ」と表示をして、それから理解を少しずつ得ていく努力を欠かさずするべきだと私は思います。

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