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豪国肉工場ヒヤヒヤ日記

シドニーの肉工場で働いていた、あの頃

オーストラリアでの4年間はいろんな仕事をさせてもらった。
ツアーガイド、フルーツ農家、引っ越し屋、治験、ウーバーイーツ、マダムの家のペンキ塗りetc…
総合的に一番安定していたなと思うのは、最後の1年間やっていた肉工場の仕事だ。

工場の朝は早い。朝3時45分に起きて、4時に家を出る。4時半にはもう工場のユニフォームを着て肉のベルトコンベアの前に立っている。
もう一度やれと言われたら絶対に嫌だ。そもそも朝が早いのがかなりのストレスだし、中はうるさいから英語のコミュニケーションは難しいし、単純作業で眠くなってくるし!でも、お金は良かった。日曜は時給50ドルくらいあったから、週1で日曜働くだけでもなんとかなるっちゃなる。あと単純作業の中にも国際規模のチームワークを発揮する場面がいくつかあるので、今回は「いかに工場作業を遂行するか」、そのアイデアの数々をご紹介する。

①トイレローテーション作戦

僕が行っていた肉工場はラインが6つくらいあり、そのラインの中でさらに5人1組ほどのチームに細分化される。基本的には流れてくる肉をサンプル通りに並べ、パッキングするのが我々の業務である(僕の場合は少数派の男だったので肉を切る系の仕事を任されることが多かった)。
皆、黙々と作業しているかと言われるとそうではなく、特にフィリピンやカンボジアのおばちゃんたちはベラベラ話しながらやっている(一緒に働いていた妻曰く、おばちゃんたちは「ミニオンみたいだった」とのこと)。
基本的にはずっと暇だ。どうにかして時間を潰したい。そこで今日も水面下でアレ実行されているであろう。「トイレ作戦」である。いかに偉い人にバレずしてトイレに行くかが至上命題だ。全員で行くとラインが止まってしまうし、バレてしまうので順番で行く。「Go Toiltet!」が合図だ。そんな大きい声で言うたらバレてまうがな。
たまにトイレで30分時間を潰すような、やりすぎバカがいるが、そういう奴はバレる。そしてまあまあ怒られる。

②なめくじ大作戦

その日のうちに完了させなければいけない肉の量は、朝出勤した時に確認できる。朝4時半から15時の間にこれを終わらせてねーというタスクがあるのだ。タスク量が多かったらてんやわんやだ。僕もあちこち走り回った。逆に少なかったらラッキーかと言えば決してそうでなく、早く終わらせてしまうと強制帰宅命令が上から発せられる。だからベストは14時台に終わらせて、掃除やトイレ作戦を駆使して15時ごろに退勤ボタンを押すことだ。
早く終わってしまいそうな日の我々の団結力は凄まじかった。全員が合言葉のように「Slowly」と唱える。僕は機械を操作する役割だったので、このペースじゃ強制帰還だなという日は、仲間たちが「やれ」と言わんばかりにこちらに目くばせしてくる。
「あれれ〜?」とバカなふりをしているコナンくんばりに、僕は一度機械を止め、意味もなく内部を覗く。これを挟むことで無意味に15分稼げる。ただし、この作戦が使えるのは1日1回なので使い所はよく考えよう。

③かくれんぼ

手を尽くしても、肉が尽きて帰されてしまいそうな時はもちろんある。しかしこちらは3時45分に起きているのだ。やすやす時給50ドルを逃すわけにはいかない。そこで最終手段としていつもやっていたのが、工場の一番裏に避難するという技だ。そこにはその肉工場の長老と呼ぶべきカンボジアおじさんがいて、彼はたいそう僕を可愛がってくれた。日本人が僕と妻しかいなかったので、珍しがられたのだと思う。彼はいつも僕が早く終わると「ここに来て隠れていなさい」と言ってくれた。裏だから、偉い人が来るリスクが少ないのだ。
そのおじさんは常に鼻毛が出ていて、英語もそんなに上手くない。でも、とても頼りになる人だった。僕はその工場で一番長く話したのはそのおじさんで、彼は僕が帰国する時にわざわざコアラグッズを大量に買ってくれて「家族にお土産で渡しなさい」と言われた。良い人だったな。

オーストラリアの肉工場で働く時は以上3点を留意していただきたい。
トイレで時間を潰せるようにスマートフォンは携帯しておくこと、英語は話せなくてもSlowlyという単語は覚えること、鼻毛が出ているおじさんを探すこと。ご参考までに。
ちなみにヘッダーの写真の彼は鼻毛おじさんではなく、トルコの激陽キャ男である。ちなみに英語は全く話せない。

サポートしていただいたお金を使って何かしら体験し、ここに書きたいと思います。