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WDRシナリオ「チェリーパッキング」

WDRというNHKさん主催のシナリオコンクールにて落選した作品です。
「続きが気になる、海外でも通用するドラマの冒頭部分」というのが与えられた命題でした。
すぐに読めますので、感想等あればコメントにてお伝えください。


○ラブホテル・部屋・中(夜)
   下着や服が散乱した部屋。
   ベットで横になっている美森明日香(23)。
   服を着ずにベット横で電話をしている高橋倫太郎(27)。
高橋「はい。はい。そうです。よろしくお願いします。ちょっと待ってくださいね」
  床に置いてあったカバンの中を漁り出す高橋。
  スマホのような機器を取り出し、再び電話をし始める高橋。
高橋「マタニティリーダー、ありました」
   飛び起きる明日香。
明日香「え、まさか。あんた初めてだったの」
   頷く高橋。
明日香「わー、マジかよ。ハズレくじ引いた」
高橋「はい。じゃあ読み取り始めます」
   電話を切る高橋。
高橋「ということなんで、協力お願いします」
明日香「そういうのはさ、ヤる前に言えよ」
高橋「僕が童貞だなんて言ったら断ってるでしょ」
   マタニティリーダーを操作する高橋。
マタニティリーダーの音声「読み取り開始してください」
   ブルーライトを放つマタニティリーダー。
高橋「失礼しますね」
   布団をめくり、明日香の股間にブルーライトを照らす高橋。
   苦悶する明日香。
   明日香から離れ、マタニティリーダーのディスプレイを確認する高橋。
   画面には「認証完了」の文字。
マタニティリーダーの音声「認証完了しました。高橋さんおめでとうございます。はれてあなたは大人の仲間入りです。なお、今回のデータは日本政府に送られ……」
高橋「よっしゃー!!」
   拳を突き上げる高橋。

○鰻屋・テーブル席・中(夜)
   薄暗い店内は客で賑わっている。
   重箱に入った鰻重。
   鰆真由子(29)が上品に食べている。
真由子「あれ、食べないんですか」
   五明健斗(29)は箸に手をつけず、真由子の向かいに座ってモジモジしている。
五明「ああ、いや、食べますよ」
   箸を取り食べ出す五明。
真由子「私、苗字が鰆っていうんですけど」
五明「はい、知ってますよ」
真由子「全国に30人くらいしかいないらしいんです」
五明「へえ、そうなんですね」
真由子「……」
   黙って食べる真由子と五明。
五明「あ、鰻じゃなくて鰆料理の方がよかったですか?」
真由子「あ、いや。そういう意味じゃなくて、なんていうか、雑談? みたいな」
五明「すいません。雑談が昔から苦手で」
真由子「五明さん、いま楽しいですか」
五明「はい」
真由子「ならいいですけど。こういうマッチングアプリとかってよく使うんですか?」
五明「まあ、たまに」
真由子「彼女探しですか?」
五明「そんなとこです」
真由子「最近いつ彼女いました?」
五明「えーっとそれは」
   汗を拭う五明。
真由子「できたことないの?」
   頷く五明。
真由子「嘘。それってまさか、童貞?」
   財布を取り出し、中から一万円札を抜いて机に置く五明。
五明「すいません。キモいですよね。帰ります」
真由子「いやいや、何も言ってないじゃないですか。でも気になったんですけど、五明さん年齢は確か29ですよね?」
五明「……はい」
真由子「誕生日は?」
五明「再来月です」
真由子「それってやばいんじゃ」
五明「ここまで放置してきた僕が悪いんです」
真由子「私、協力したいのはやまやまなんだけど、あれってなんか身体にレーザーとか当てられるらしいじゃないですか。だから」
   手で真由子を制す五明。
五明「いいんです。すいません」
   席を立ち、出ていく五明。

○プロレス会場・客席・中(夜)
   リングの上で戦っているレスラーたち。
   後方の席で腕組みしながらリングを見つめている五明。
男の声「相変わらずやな、ゴメ」
   五明の隣に青島徹(29)が座る。
五明「青島! 久しぶりだな」
青島「東京観光来ててな。大学時代思い出して、ふらっと寄ったらお前がおった」
五明「まだ営業やってるの? 怪しい水売る会社」
青島「もう辞めたわ。いまは何やろな。自分探しの旅の途中」
五明「何だよそれ」
青島「お前こそまだゲーム作ってんのか?」
五明「まあな」
青島「というか、なんで正装してるん。プロレス見る格好ではないやろ」
   青島から目を逸らす五明。

○おでん屋・外席(夜)
   五明と青島が向かい合って座っている。
   テーブルにはおでんとビール。
五明「笑わないのかよ」
青島「笑ったらかわいそうやんか」
五明「むしろ笑ってくれよ。もう、本当に無理なんだ女性と接するのが!」
   通りすがりの人たちが五明を見る。
   会釈する青島。
青島「すいません、ちょっと酔うてますねん」
五明「青島はいいよな。学生の頃から女には苦労してなかったもんな」
青島「いやそれは女友達が多かっただけで、彼女とかではないで」
五明「同じようなもんだろ」
青島「違うねんなあ、それが」
五明「はあ、30歳まであと2ヶ月しかない」
青島「2ヶ月あれば何とかなるやろ」
五明「何とかなると思い続けて29年と10ヶ月が経ってしまった」
青島「あれって風俗とかはあかんの?」
   首を横に振る五明。
五明「金銭の授受があった場合の行為はバレると終身刑になる。しかも女性のデータも全て送られるから、すぐバレる」
青島「そういうことをするのが好きな、優しい女の子を探すとかは?」
五明「短期間で不特定多数と性行為がある女性もカウントされない」
青島「そんなん分からんやん」
五明「わかるだろ」
   カバンからマタニティリーダーを取り出す五明。
五明「これ使えば、女性器の摩擦係数も測定されるから。というかお前も童貞捨てるまで持ってただろこれ」
青島「……ああ。たしかそんな感じやったかな」
   机にひれ伏す五明。
五明「あー、俺も早くこんなもの捨てて自由になりてえ」
   五明のスマホが光り、通知が来る。
   スマホの時計は「0時00分」。
   「今日は青島徹さんの誕生日です」という通知。
五明「今日誕生日なのか青島。おめでとう」
青島「もう日付変わったんか」
   腕時計を見る青島。

○大通り(夜)
   横づけされたバンから二人のスーツ姿の男が出てくる。

○おでん屋・外席(夜)
   ビールを飲み干し、グラスを机に強く置く青島。
   五明はうつろな目をしている。
青島「ゴメ、俺な、恋愛感情ないねん」
五明「ゲイってこと?」
青島「ううん。どちらでもない」
五明「そんな人いるの」
青島「おるねん。今まさにここにおる。手繋いだりとか、キスとか、考えただけでゾッとする」
五明「今までいっぱいやってきたんじゃないの?」
青島「やったことない」
五明「え」
青島「やったことないよ」
五明「え、ごめん、ついていけてない」
   タバコに火をつけ、吸い始める青島。
五明「イケメンで、学生時代モテモテだった青島徹が、童貞?」
青島「バチバチ童貞ってやつやな」
五明「でも青島、30になっちゃったじゃん」
青島「なってもうたな」
   スーツの男A、Bが来る。
スーツの男A「青島徹か?」
青島「うわー、こんな感じで来るんや」
スーツの男B「国から拘束許可は降りている。ついてこい」
青島「はいはい。どこに連れてかれるんすか。私たちチェリーボーイは」
スーツの男A「それは言えない」
青島「この国は言えないことばっかですねー。こんなおかしな法律まで作って。先祖たちが泣いてまっせ。日本の現状を見たら」
スーツの男B「その先祖たちはセックスをして、未来を繋いできた方々だ。お前らとは違う」
青島「ははは。確かにそうだ」
   立ち上がり、財布からお札を取り出す青島。
青島「三千円で足りるかな?」
   千円札を3枚机に置く青島。
五明「青島はどこに連れて行かれるんですか」
スーツの男A「それは言えない。ただ一つ言えることは、我々には拘束権があるということだけだ」
青島「まあ、ちょっと行ってくるわ」
   スーツの男たちに押されるようにして出ていく青島。
青島「おーい、押すのは勘弁してくれや」
五明「青島!」
   立ち止まり、五明を振り返る青島。
青島「お前は頑張れよ」
   スーツの男たちに急かされ、歩き出す青島。
   呆然と立ち尽くしている五明。
タイトルイン「チェリーパッキング」
   


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