無職はノーパワー
僕の周りだけかもしれないが「無職」を自虐のパワーワードとして使う人間が多い気がする。はっきり言って何も笑えない。自虐にしてはあまりに中途半端すぎる。いったい彼らはどういう言葉をかけられたいのだろうか。「早く仕事決まるといいね」なのか「いいな、羨ましいな」なのか「貯金尽きるまでプータローすれば?」なのか。大学生の頃とかならまだ笑えたかもしれない。バイトクビになったから無職やねん!みたいなノリはあった気がするし、結構笑っていたと思う。でもアラサーの無職は正真正銘の無職なので、笑うより先に「人生の転換期なんだね」とか「パワハラでもされて辞めたのかな?」とか、真剣味の方が勝ってしまう。
高校の同級生の結婚式に行った際、同じ円卓になった友人がまさにそれであった。久しぶりに会う面々だったので「今何をしているのか」という話題に当然なる。彼はもう堪えきれない感じで、
「今!実は無職で!毎日ゲームしてて外出るのは久しぶりやねん!いやー、無職やのにこんなとこ来てええんかなー?」と呼吸もままならない勢いで話し始めた。周りは「大変やな」「羨ましいわ」と言うしかない。すると彼は、
「まあ来月から兄貴の会社で働くこと決まってるんやけどな」
「お、ん?あ、そうなんや」
「いやーでもみんなちゃんと働いてるんやろ?すごいわ。感心するわ」
「しばらく働いてないん?」
「いや、今月辞めたばっかり」
こいつ張り倒してやろうかと思った。まさか結婚式場でそんな感情を抱くことになるとは、新郎新婦も驚きだろう。
その後も彼は「無職」というワードを少なくとも60回は発したと思う。何かにつけて無職で落とす戦法で行くと腹を括ってきたらしい。
「結婚ええなー、俺もしよかな。あ、無職やから彼女おらんのやった」
「高校はキツかったよな。あれでかなり根性ついたと思うわ。まあその結果いま無職なんやけどな」
「道をこんな堂々と歩いてええんかな。いや、ほら俺無職やから税金納めてないやん?」
もうずっとこの調子である。今日は無職キャラで貫き通そうという相当な覚悟を確かに感じ取った。そうかい、じゃあ僕もカウンター行かせてもらうぜ。
「あのー、俺も無職やで」
はい。何を隠そう、その時僕も無職だったのだ。オーストラリアから一時帰国して出席した結婚式で、仕事を辞めてから来ていたのだ。再入国してからのアテは何もなかった。それどころか長らく正社員として日本で働いておらず、住民票を抜いていたので税金も納めていなかった。
まさか同じ円卓に同志がいるとは知る由もなかった彼の顔は一気に青ざめ、それ以降無職自虐を封印した。きっとずっと家にいて、人と話すのが久しぶりだったのだろう。無職自虐はそれほどおもしろいことじゃないよ。
この前温泉で隣に同士になったドイツ人は1年間休職して世界を旅しているらしい。ドイツだけでなくフランスもイギリスも、ヨーロッパの人はプライベートが完全優先だとよく聞く。そういえばオーストラリアもそうだったな。ワークライフバランスなんて言葉も理解不能かもしれない。バランス取るもんじゃねえだろと。ライフが上に決まってんだろうと。
自虐無職を武器にするあなたへ。それウケないし、反応に困るから今すぐやめた方がいい。そして海外ではもっとウケない。もっと堂々としてなさいよ。ハローワーク行ってしっかり退職手当もらって、今しかできないことをやれよ馬鹿者。新宿野戦病院見ろ!
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