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バンドマン、芸人、舞台、漫画家、デザイナー。 これをやってるだけで悪口を言われることもある

余裕があるひとはかっこいい。

もう十年以上前の話になるが、大阪でバイトしていた頃、僕のミスのせいで降格させられてしまった上司がいた。
上司は僕を責めるでもなく「こういうのも俺の仕事なんだよ」と言っていた。やりたい仕事もできなくなり、給与も激減した。

それまでの僕はサイコ指数が高いのか、それほど大切なひとに出会ってこなかったのか知らないが、他人に迷惑をかけても罪悪感を感じない小僧だった。しかしあのときは、額がめりこむほど土下座したかった。

そして「余裕=かっこいい」という言い換えられる日本語をひとつ学んだ。

その上司は抜群に頭も良くて身体も強靭なゴリラだったので、「まぁ降格させられても、どうなっても俺なら大丈夫だろう」という自信があったのだと思う。

数年後、上司は梅田の曽根崎町にある高級キャバクラ嬢と結婚した。その話を聞いて僕は「ああなりたい」と心から思った。キャバ嬢が好きかはともかく、「やはり余裕のある男はモテるのだなぁ」と憧れたのだ。キャバ嬢も羨ましくないこともなかった。

反対に普段僕が付き合っていた飲み屋の知り合いはひどいものだった。
仲間は基本的にDV男や借金王、犯罪者予備軍に痴漢、アル中たちだった。彼らは共通して余裕がなかった。切迫そのものだったと言える。

窮地に立たされているのに、とにかくできない理由を探しまくり、建設的思考をしない。それなのに目ばかりギラギラ光っていて、何かしらうまそうな話があれば、「我先に!」と飛びつきそうな、いやらしさも持ち合わせていた。

そんな「余裕」の話なのだが、余裕とは一体なんだろう。

切迫していない
あわてていない
腹が座っている

このような様子なのだろうが、全貌はきっと「根拠のある自信と、根拠の無い自信の混合物」だと思う。

実績による自信&根拠のない「俺ならいける」という自信のミックスが、格式のある人物たる風格を作り出すのではなかろうか。「リスクをとってリターンを得た」成功体験と「今回もできるだろう」が混じり合っているひとには独特のオーラがある。

そしてこの「本物の余裕」と似て非なるものがある。

それが「余裕しゃくしゃく」だ。ここには劇的な開きがある。「何をのんべんだらりとしているのだ」と言いたくなる男だ。

ガチにならず、自問も無く、それでも「エヘヘ何とかなるっしょ」というように甘ったれつつ、自身への厳しさが1ミリも無くなったとき、「余裕しゃくしゃく」になる。DV男や借金王、犯罪者予備軍に痴漢、アル中たちが纏うオーラの主成分でもある。

余裕のある人物が滑落したときの「今回も何とかなるだろう」の質がまったく違うのだ。

「前回も自分の力で切り抜けたからいけるはず」と
「誰か何とかしてくれる」や「何もしなくてもなるようになる」との間には、ベルリンの壁より高い壁がそびえ立っている。

後者のように責任感も使命感も欠如してしまうと、考えも行動もしなくなっていくし、次第に数字や納期、稼ぐこと全般にむとんちゃくになる。「清貧」なのではなく、「やる気が無い」だけになっていく。ここまで堕ちると金遣いがやたら荒くなる。

余計なお世話だが、あなたの彼氏が「余裕しゃくしゃく」だったら「おい」と言った方がいい。
「おい」に効果があるかどうか分からないが、要る。その「おい」が目覚めるキッカケになりもする。何も鳴らなければ、その人間に未来と可能性は絶対に無い。

では僕のような「正しいレールの進路以外」を歩んできた人間は「余裕しゃくしゃく君」だらけなのだろうか。

バンドマン、芸人、舞台、漫画家、デザイナー。

これをやってるだけで悪口を言われることもあるし、無条件に最下層扱いされもする。

だけど、我々は我々で罪悪感を抱えていないわけじゃない。
同級生の影をまったく気にしないわけじゃない。
新卒で就職して、企業や社会に大切に育てられ、キチンと生きている友人に負い目が無かったわけではまったくないのだ。

バンドマンになるだけで一生に一度の「新卒生」なるブランドを失う。新卒至上主義である日本の企業体制の中でこのハンデはデカイ。

同級生が社会に歓迎されてスタートを切った頃、僕は「シフトの弱いフリーター」というボトムエリアからスタートを切ることになった。

だけど僕たち「レールから外れた族」の始まりはいつだってそこだ。どれだけ強くなっても大きくなっても、あの始まりは変えられない。

だからこそ「余裕しゃくしゃく」だった時間なんて一秒も無かった。「いつかは余裕を手に入れる」と息継ぎもできないで泳いでいた。

しかしそのふてくされたエネルギーを持つことで、余裕に近づけるのではないかとも思っている。変にしゃくしゃくしている男よりも、ずっと近いはずなんじゃないだろうか、そんなカウンターを信じていたい。


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