何がなんでも働かなかった!

ーとにかく人間に向いていなかった。飲んで打って、耐えきれず狂って死んだー

そんな「駄目なひと」が減った。かつての僕のような男が減った。

なぜだろう。

おそらく働き方が多用な時代だからだ。まぁ、じつにいい時代だ。

もともと僕はマクドやローソンなど、日本語が満足に使えない外国人でも務まる仕事すら、務まらなかったワーカーだ。

そんな僕でも、路頭に迷わなくなった時代がやってきたのだ。

逆に言えば、僕は路頭に迷っていた時期がある。

あの時代とイマの最大の違いは、「ネットインフラのレベル」だも思う。

スマートフォンやその中身によるインフラのおかげで、起業や経営すらも簡単になった。

会社を始めるより、バンドを始める方が難しいかもしれない。

スマホさえあれば、どんなことも仕事になる。

「この先、路頭に迷うことは無いのでは」とすら思う。

あなたは路頭に迷ったことがあるだろうか。

「路頭に迷う」とは、生活の道を無くして、先行きの見通しも真っ暗になることを指す。

仕事に従事するひとにとって、最大の恐怖は路頭に迷うことではないだろうか。

ムカつく上司との葛藤に耐えて出勤するのも、出世争いから外れてしまって「先が見え」ても、ただひたすらにタイムカードを押し続けるのも、ただただ路頭に迷いたくないからだ。

この恐怖を克服するためには、一度路頭に迷ってみるしかない。

『爆裂な貧困』がどのぐらいの苦痛、不安、ダメージを人間の心に与えるのか体験してみると良い。

一度、身をもって知るのだ。

次に勤めるとき、自分中でものさしが鮮明になる。

「『路頭』はキツすぎるから、会社勤めにすがりつこう!」と検証するのだ。

天びんの両皿の比重がわかっていないと、働くことの嫌さかげんも、納得して受け入れられない。

つまり、実際に『路頭』キャリアがないと、ただ漠然とした不安が日々のしかかってくるだけなのだ。

フラれて独りになることも、バンドが解散することも、犯罪者になることも同様だ。

得体の知れない不安を天びんの片一方に乗せると、未知の恐怖というものは限りなく重たいものになる。

なおかつ現実の日常に対する不満は、「不満そのもの」として蓄積されていくのである。

極めて不透明でヘビーで、不健康な状態だ。

「知らない」というのは怖いことだ。

逆に言えば知ってしまえば、わりと怖くないことが多い。『路頭に』もその一種だった。

十年ほど前、仕事を辞めるとき、先輩からこういう忠告を受けた。

「人間というのは仕事を辞めて最初の二ヵ月くらいは嬉しくて楽しいんだけど、三ヶ月目からはまた働きたくなってくるもんやぞ」と。

「なるほど。そういうものなのか」とは思った。

しかし、現実には十ヶ月近く路頭に迷い続けた。

しかもそのあいだ「働きたい」などとは、まったく思わなかったのだ。

「三ヶ月すると働きたくなってくるもんやぞ」というのは先輩のケーススタディであって、彼がそういうタイプだったのだ。僕には当てはまらなかった。

「別の人間には当てはまらないことが多い」と学んだ一件だった。

「路頭に迷う生活」ひとつとっても個人差、それぞれの耐久力がある。

ただ、法則ではなく一般論として言えるのは、若くて健康なひとならば「路頭に迷う」というのは、それほど恐怖の対象ではないということだ。

なぜなら克服しようとすれば、必ずできるからだ。

失業者というのも捨てたものではない。

金銭面や条件面というのものを、じつに客観的に見れる。

仕事というものは、何を差し出して何を得るかだ。

「路頭に迷っている」という現状がさほど嫌でないのであれば、差し出せばいい。

すると自由が手に入る。

「ロックでマイノリティな自分」という幻想のオプション付きだ。

僕はイマでも、あの失業時代を思い出すときがある。

朝からちゃんと起きてビールを空けて、駅に行く。たくさんの働きに出る人々の群れをボーッと眺めるためだ。

ニヤニヤしながら、通勤電車の働きアリたちを眺めるのだ。

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あのいやらしい行為は、昔の自分への供養だった。

キツイところで働き、「自分を苦しめていた自分」への復讐だった。そしてその復讐は兵糧尽きるまで、一年近く続いていった。

もちろん僕は小さくて寂しい自分に気付いて、またどんどん死にたくなっていった。

結局、お金関係なく、ひとは働かないと人間として生きていけないのだ。

誰かに何かを差し出して、何かをもらって、関わっていないと、ひととひとの間に入れない。

「人間」以外の何かに変形し、果ててしまうのだ。多くがアル中かヤク中、統失になって、自殺するか野垂れ死ぬ。

もちろんこれはこれで悪くない。

「あのひとは、とにかく人間に向いていなかった。飲んで打って、耐えきれず狂って果てた」

なんともさっぱりした人生ではないか。

「結婚して、子を育てて、親の面倒を見て、世間体を満たして、立派だった」なんて人生よりも、よほど痛快だ。


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