軽音楽部とバンプとジュディマリと千原

夢は忘れた頃に叶う。

ピッタリ同じカタチではないにせよ、近いカタチで到達するらしい。

僕のはじめの夢は「スタジオ代を自腹で払わない」だった。

練習スタジオを借りるには、1時間あたり3000円から3500円ぐらいのお金がかかる。

バンド活動の特徴は野球部やサッカー部と違って、練習が無料ではないことだ。
しかし部活を通して音楽をやれば金銭的に苦しまずに済む。「部室」があるからだ。

でも僕には軽音楽部で音楽ができる協調性、社交性が無かった。

一度だけ軽音楽部に関わったことがある。高校生に成り立てのときだ。

体験だったか入部だったかは覚えていないが、初日から先輩に捕まった。
バンプのメロディーフラッグのコピーをやらないといけないハメになった。

「ある程度弾ける」と言ったせいだ。

楽譜を渡されて、家で練習した。集中力は30分も持たなかった。

面倒なので大よそだけさらって、リフやコードワークは自分で作り変えた。その方が早かったからだ。

翌日、部室で曲を合わせた。

先輩から「自分でフレーズを変えてはいけない。藤くんへの冒涜だぞ」という説教をくらった。

「冒涜してるつもりはありません」

「いや、藤くんはそういうの許さへんから」

「そんなガチガチなひとじゃないでしょ」

「藤くんは妥協できへん性格やから」

「別に藤くん今見てないからいいじゃないすか」

「見てないなら何やってもいいんか？」

「観測されてないものは『無い』です」

みたいなやり取りがあった。

先輩のバンプに対する信仰は凄まじかった。

なんかよく知らないけど「俺もロストマンやからな」らしかった。オーイェーアハーンを聴いたら、どの曲のオーイェーアハーンか分かるとか言っていた。

そして先輩の彼女はブスだった。

自己主張の激しいジュディマリの信者だった。

「YUKIちゃんはアタシのお姉ちゃんだ！」と言い張っていた。

今思えばちょっとかわいそうな感じだった。それにどちらかと言えば、千原ジュニアに似ていた。

僕は次の日、ジュニアの後ろでラッキープールを弾かされる刑が待ち受けていた。

もちろん弾かずにバックれた。

音楽が上達したいならコピーは大切だ。

だけど僕は上達したくて音楽をやっていたわけじゃない。

やりたかったのは自分が書いたものを歌って、自分で考えて決めて、自分の中身を伝えていくことだった。

「与えられたことをこなす」しかない学校社会の中で、自分で考えて決められるのは、自分の曲ぐらいしか無かった。

ロックが好きな人間には二種類いる。

ロックをカッコいいファッションとして着飾る人間と、ロックを使ってサバイブする人間の二種類だ。

どっちでも良いし、正解も不正解もない。

ただ僕にとってのロックは、鬱積と不満と焦燥と少しの夢と希望と自己表現だった。

仕方ないので、外で人間を集めて部活外でバンドを組んだ。

週一ぐらいで三ノ宮まで出向いて、バンド練習でスタジオに入る。一人当たり2000円弱払い、2時間ぐらい練習する。

月に何本かライブをした。ライブハウスに出るにもお金はかかる。

ライブハウスには「ノルマ制」というシステムがあり、4万弱ぐらいかかる。4人バンドなら割り勘しても1万弱はかかる。

とにかくお金が無くなった。練習も本番もかかり続ける。

「スタジオ代」と「ノルマ代」に圧迫され続けると、バンドは三年も持たない。

自然と解散する。高校生の頃にやったバンドはすべて半年から一年で潰れた。

正直、なかなか持たない。持っているだけで奇跡だ。奇跡が続くかは「続いてほしい」と祈る人間の数や熱にもよるのかもしれない。

ロックバンドを6年半やれて、さらにその利息で先にまで来ている。奇跡だ。

まだ僕の作った音楽は呼ばれている。

なんだかジュニアに頼まれたままのラッキープールも成仏した気がした。