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「世の中のアイデアを自分たちなりに変換することから企画する」バラエティ番組みたいなアクティビティで遊べる【VS PARKのTAKURAMI】

​​「TAKURAMI STORY」では、商品、映像、音楽、写真、物語など世の中にワクワクする企画を提案してきた方々をお招きし、業界や肩書に捉われず、その企みを紐解きます。今回は、バンダイナムコアミューズメントの新感覚バラエティスポーツ施設「VS PARK」の企画を、プロデューサーの加藤俊さんが紹介。

全国に展開するゲームセンター「namco」をはじめ、池袋の屋内型テーマパーク「ナンジャタウン」、太鼓の達人やワニワニパニックの企画開発など。数々のアミューズメント事業を手がける、バンダイナムコアミューズメント

そのバンダイナムコアミューズメントが、国内外に展開する「VS PARK」は、Instagramのハッシュタグ投稿数1.1万件以上(2023年1月時点)の新しいスポーツ施設です。

スポーツは、得意な人だけが楽しいものになりがち。でもVS PARKは、バラエティ番組のように“みんなで楽しめる”アクティビティにすることで、得意・不得意で人を選ぶことなく、子どもから大人まで楽しめる空間を実現しています。

シーソーに乗り、ボールをうまく転がして最下段のゴールを目指すアクティビティ「ドロップシーソー」

私たちに身近なゲーム・遊び場を手がけてきた企業は、VS PARKやそのアクティビティをどのように企画したのだろう? 

VS PARKのプロデュース業を担当する加藤俊さんにお話を聞くと、バンダイナムコアミューズメントは、「世の中に溢れるアイデアを、“自分なりに変換”して企画する」ことを大切にしていることが見えてきました。

「みんなで楽しめる」スポーツを追求したVS PARKの企画

──バラエティ番組で見られるようなアクティビティをはじめ、VRとスポーツを融合するアクティビティなども楽しめるVS PARK。バンダイナムコアミューズメントはどんなふうに、VS PARKや施設内のアクティビティを企画していったのですか?

企画の最初は、バンダイナムコアミューズメントがスポーツ庁の調査で出た、「20代や30代があまり運動やスポーツをしていない」というデータに着目したことからでした。そのデータから、「運動やスポーツって、運動神経がいい人やスポーツが好きな人じゃないと、楽しめないものになりがち」という課題があることに気づいたんです。

課題を見つけたうえで、「運動神経がいい人だけが楽しめるものじゃなくて、みんなで楽しめるものにしたい」という思いが、VS PARKの企画の根本にありました。

VS PARK越谷レイクタウン店の施設内風景

──埼玉県越谷市にあるVS PARKに行ってみたところ、男女で楽しんでいたり、女性同士のグループで盛り上がっていたりという光景を目にしました。みんなで楽しめる形にするために、どんな工夫を凝らして企画していったのでしょう?

まずは、僕たちが届けたい「みんなで楽しい」という価値を、どういう言葉に変換したら伝わるのかを考えていきました。そして、バラエティ番組みたいなことが体験できる施設だったら、スポーツをする人もそれを見る人も、みんなで楽しめるんじゃないかという発想に至ったんです。

VS PARKは、身体を動かしながら楽しむ施設ですが、運動が苦手な人の方が、面白がれたり、笑いが取れたりするんです。それは、バラエティ番組にアスリートが出演して全力でスポーツをするより、運動の苦手なお笑い芸人が出演した方が輝き、視聴者も面白いと感じられるのとおなじ感覚です。

──VS PARKにある25種類以上のアクティビティは、どのようにバラエティ番組のような体験を可能にしているのでしょう。

例えば、バラエティ番組の企画からインスピレーションを得て生まれた、VS PARKの代表的なアクティビティ「ニゲキル」。モニターに映されたチーターやゴリラ、ゾウ、恐竜など、いろんな猛獣と10mの超短距離走ができる内容です。

徒競走と言ったら、50m走や100m走を想像する人は多いと思いますが、走るのが苦手な人も楽しめるように、10m走にしています。また、人間VS猛獣でもギリギリの勝負ができるように、動物の種類や動物の調子(コンディション)を選べるようにしました。

──加藤さんはVS PARKのプロデュースを担当されているとのことですが、具体的にはどのようなお仕事をされていますか?

VS PARKは2018年にオープンしたのですが、僕が担当するようになったのは2021年からです。新規出店の企画から、外装・内装のデザインの決定など、全体の企画・開発を取りまとめています。最近は、アクティビティのアイデアも出せるようになってきて、やりがいを感じています。

「自分たちなりの変換」をして企画する

──提供したい価値として企画の根本にあった「みんなで楽しめる」を、「バラエティ番組みたいな体験ができる」と変換させたことで、より施設のイメージが湧きやすく、共感性の高いものになっていると感じます。こういった発想はどんな思考から生まれているのでしょう?

これはあくまで僕の考えですが、0→1で新しいアイデアを生み出すことって、なかなかハードルの高いことだと思うんです。だからこそ、誰かが考えたりつくったりしてすでに世の中にあるものを、頭の中にストックしておいて、それを自分たちなりに変換してみることがすごく大切だと考えています。

──自分たちなりに変換してみる。

VS PARKのアクティビティも、「あの番組の企画って、こういうふうに使えるんじゃない?」のような思考や話し合いを繰り返してきたから、いざスポーツで何かやりたいとなったときに、みんなで楽しめる形に変換できたのではないかと思います。

二人一組で激流をラフティングするVRアクテビティ「ラピッドリバー」など先端テクノロジーを使ったスポーツも楽しめる

太鼓の達人が生まれたのも、音ゲーで何かやろうという気運が流れていた中で、子どもから大人まで、誰もが楽しめる音ゲーを追求し、日本人に馴染み深い和太鼓をモチーフにしたゲームとして世に出たんです。

──「音ゲー」という一見ゲームマニアがターゲットになるようなお題がある中での自分たちなりの変換ですね。VS PARKが生まれた背景、企画のポイントを伺ってきましたが、加藤さんにとって企画とはどのようなことを考えたり、実行することでしょう?

お客さまの課題を感じ取ってそれを解決するための何かを具体化するのが、僕の仕事の中での企画かなと思っています。僕にとってのお客さまはエンドユーザーだけでなく、VS PARKをオープンしてほしいと言ってくださる商業施設のデベロッパーのみなさまもなんです。

デベロッパーのみなさまが抱えている課題は、「若い世代のお客さまをもっと集客したい」「新しいエンタメ施設が欲しい」など地域や施設によってさまざま。VS PARKはどんな企画をすれば若者が来たり、目的客を増やせたりするんだろうと、見た目のデザイン、プロモーション、施設内のコンテンツ……多くの面から課題解決のアクションをしています。

例えば、越谷のVS PARK。イオンレイクタウンmoriの中に入っているのですが、最上階の一番端っこにあるんです。だからこそ僕たちは、「店頭で印象付けたい」と、外からでも店内のアクティビティが見える壁面にし、入り口にはバスケットリングにダンクシュートするマネキンを設置しました。

──なぜバスケのプレーをするマネキンを?

越谷には、プロバスケットボールチーム・越谷アルファーズがあるからです。越谷でみんなに親しみのあるスポーツを調べていたら、越谷アルファーズがあることを知り、バスケットをモチーフにしようと決めました。そこから、VS PARKのアクティビティのユニークさを伝えるために、普通のプレーではなくてダンクシュートを選び、さらに印象付けようと天井から吊るすことにしたんです。

「体験を通じて感動を共有できる場所を提供したい」

──バンダイナムコアミューズメントも加藤さんも、自分たちなりに変換するなど創意工夫しながら、目の前の課題を解決するだけでなく、そこにしかないオリジナルなものを企画している印象を受けました。

そうですね。会社として「体験を通じて感動を共有する」をことを大切にしているのですが、僕自身もそこにすごく共感しているんです。

僕は学生時代からライブに行くのが好きだったのですが、5秒後には何が起こるかわからないワクワク感に心が動かされていたんですよね。ライブで熱狂しているときのような感情と感動をお客さまに提供することを体現したくてこの業界に入ったので、これからもリアルな場の強みを活かして、心を動かす空間をつくっていけたらなと思っています。

──現在国内6店舗、海外1店舗展開しているVS PARKについても、今後どんな施設になっていきたいと考えているか教えてください。

国内6店舗で1100人にアンケートを取ったところ、ありがたいことに施設満足度が97.3%でした。一方でまだ認知度は高くないと感じているので、今後は、アクティビティや空間への没入感をもっと追求していき、VS PARKで遊ぶこと自体がステータスになるような場にしていきたいですね。

■プロフィール

加藤俊
1994年、京都府出身。2017年にナムコ(現バンダイナムコアミューズメント)入社。全国のアミューズメント施設にて店舗運営を担当。2020年よりクロスカンパニーデビジョン事業開発部スペースプロデュース課へ異動。現在は、アクティビティ事業部プロデュース1課で「VS PARK イオンレイクタウンmori店」などのプロデュースを担当。

取材・文:小山内彩希
取材・編集:くいしん