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評価される企画になる「1分でできるアイデア発想法」とは? アイデアクリアエイター・いしかわかずやさん【ありそうでないモノのTAKURAMI】

「TAKURAMI STORY」では、商品、映像、音楽、写真、物語など世の中にワクワクする企画を提案してきた方々をお招きし、業界や肩書に捉われず、その企みを紐解きます。アイデアクリエイターのいしかわかずやさんが登場。

お店で陳列しやすく等間隔で切りやすい「四角いガムテーム」や、掲示物を留めるだけでなく輝かせる「キラキラ画鋲」など。

私たちの身の回りに溢れるモノから、「ありそうでないモノ」を企んでいる、いしかわかずやさん。コクヨ、シャチハタ、サンスターなどの文具コンペで数々の受賞経験があり、2019年以降は受賞率100%のアイデアマンです。

それらのアイデアはなんと、1日1、2分程度の極めてシンプルな思考法で生み出されているのだそう。

企画することを「現在のちょっと先をつくることであり、そんなアイデアを考えること」と語り、アイデア発想には「共感と驚き」が必要と言ういしかわさんに、評価される企画のためのアイデア発想法を伺いました。

評価される企画は、アイデアに「共感と驚き」があるか

──私たちの身の回りにあるモノをより便利に、より面白くするアイデアを考え、デザインコンペで多数の受賞経験があるいしかわさんにとって、企画とはどのようなことを考えたり、実行したりすることでしょうか?

僕にとっての企画とは、現在のちょっと先をつくることであり、そんなアイデアを考えることを企画と捉えています。「現在のちょっと先」を言い換えると、「ありそうでなかったもの」。それがいつの時代も世の中に評価され、受け入れられるモノだと思っています。

──現在のちょっと先のモノ=ありそうでなかったモノの「アイデアを考えることを企画」と捉えているいしかわさんが、アイデア発想で意識しているのはどんなことですか?

「共感」と「驚き」のあるアイデアを生み出すことです。企画が評価される上で絶対に必要なのは、アイデアを受け取る評価者に、共感と驚きをもたらすことができるかという視点。共感だけだと弱くて、「やられた!」「すごい!」のような驚きがないと、他者の印象には残りにくいんです。

──いしかわさんはどのような思考で、共感と驚きを与えるアイデアを考えているのか教えてください。

僕は世の中のアイデア思考法を提唱している人たちの中で、極めてシンプルなことしかやっていないと思っています。1日の中で1、2分程度でひとつのアイデアを考えているんです。

1分でアイデアになる「見立てる発想法」と「ちょっと変える発想法」

──1日1、2分程度で、驚きと共感性のあるアイデアを発想する方法とは?

僕のアイデアの発想法はたったふたつです。ひとつは、既存のモノの要素を別の何かに「見立てる発想法」。もうひとつは、「既存のモノをちょっと変える発想法」です。

──既存のモノの要素を別の何かに「見立てる発想法」とは、どういったことを考えることでしょう?

例えば、コクヨデザインアワード2020のファイナリストに残った「課題炎上付箋」というアイデア。教科書や問題集などの解けていない問題に貼るための付箋というアイデアは、付箋の持つ要素を炎に見立てたことで生まれました。

付箋って「わからない部分など、自分の課題につける印」というものですよね。僕はそこからもう一段階思考を掘り下げて、「印をつけているだけで課題を放置してしまうことはよくある」という要素を見つけ出しました。その解決には、「焦らないといけない」と考えました。その「焦り」という要素を炎に見立てたんです。

──付箋自体の持つイメージと炎の持つイメージが、「消さないといけないもの」という点で合致して、より付箋本来の役割を果たせるアイテムになっているように感じます。

見立てることの良さは、それによって機能がより明確に、かつ一瞬で伝わるようになったり、ユーザーがアクションを起こしやすくなったりすること。つまり見立てることで、より共感性の高いものになるんです。

また、付箋の形を炎にすることで、既存の付箋が抱えている「焦らない」という課題を解決できて炎の大きさでちゃっかり優先順位もわかるという、驚きもあるアイデアになりました。

──「既存のモノをちょっと変える発想法」についても教えてください。

例えば、シャチハタコンペで原研哉賞を受賞した筆跡えんぴつ。これは2Bや2HBなどのえんぴつの濃さを、えんぴつ自体にプリントしただけのアイテムです。お店で売られているえんぴつは試し書きができないからどんな筆跡になるのかイメージが湧きづらいという課題を、ちょっとの工夫で解決しました。

僕の思ういい企画・いいアイデアは、ちょっとの工夫で大きな効果を発揮しているもの。「これだけしか変えていないのに」という驚きになるし、ちょっと変えるだけでコスパもいいから「これなら実現できそう」という共感にもつながります。

アイデア発想の手前には、アイデアを生み出しやすくするための環境のつくりかた、人と被らないスタート地点に立つためのアプローチ法など必要なステップがありますが、それを含めても1日1、2分で考えられるほど僕の思考法はシンプルで誰でも実践できるものです。

(「詳しくは、書籍『「ありそうでなかったアイデア」のつくりかた』を読んでみてほしいなと思います」といしかわさん)

シンプルな思考が「一瞬で伝わる」企画につながる

──アイデアを考えることは、ハードルが高く時間もかかるものだと思われがちですが、いしかわさんの発想法はその真逆だと感じました。

「これだけ考えたんだから、いいアイデアに決まってる!」という自信を、多くの人はプロセスで持ってしまいがちなんです。でも僕は幸運にも、大学生の頃にそれは違うんじゃないか?と気づけた経験があって。

千葉県習志野市にある大学に通っていたのですが、1年生の頃に地域の特産品である「馬サブレ」をテーマにデザインを考える、学内のコンペに参加したんです。周りがパネルやモックアップなどを時間をかけてつくっている中、僕はえんぴつで「左向き馬サブレ」をスケッチしただけで受賞したんですよね。

──将棋駒の左馬は、商売繁盛の守り駒ですね。大学1年生の頃から「地域の特産品」や「馬」というキーワードから本質をついたアイデアを発想しているのがすごいなと。

後々になって、時間をかけることよりも「課題を解決しているか」「既存のモノをより良くしているか」といった視点の方が、アイデアのゴール設定には大切なんだと思えた原体験が、大学生の頃にある気がします。

また、アイデアを考えるプロセスが長引けば長引くほど、思考回路が複雑になればなるほど、他者に伝わりにくくなるリスクもあります。いいアイデアって5秒くらいの一瞬で伝わるもの。1分程度で考えられるシンプルなアイデアの方が理解されやすいということは、アイデア発想のハードルを下げる観点からも伝えたいことですね。

──自著の出版も決定していますが、企画・アイデアに関することで今後挑戦してみたいことはありますか?

来年2023年1月に、アイデア発想のオンラインコミュニティをつくる予定です。月に1度みんなでブレストしたり、コミュニティ内でデザインコンペを開催できたら面白そうだなと企んでいるところ。

場づくりだけでなく、YouTubeなどでも発信し続けているのは、アイデア発想力は人を選ぶことなく誰にでも役立つ処世術だと思っているからです。世の中は企業に企画職が設けられているくらい、企画も、アイデア発想も、何か特別な人がやることだと思われている風潮を感じています。でも例えば、学校の先生が「子どもたちにとっての楽しい授業」を考えたり、サッカーコーチが「上達するための練習法」を考えたりするように、日常の中でアイデアが求められることは珍しくありません。

(書籍『なんとかするアイデア ビジネスに役立つひらめきがすらすら生まれる思考トレーニング』にも、どんな仕事でも役立つアイデア発想法が紹介されている)

誰でも自分で解決できる発想力を持てれば、人生が楽しく、より良くなると僕は思っています。その後押しをするためにこれからできることを続けていきたいです。

■プロフィール

いしかわかずや
1990年、千葉県佐倉市生まれ。千葉工業大学を卒業後、Yahoo! JAPANでデザイナー兼アートディレクターを本業とし、副業でアイデアクリエイターとして活動。シヤチハタ12th、13th、14thで3年連続受賞 、サンスター24回審査員特別賞、25回グランプリ受賞、コクヨ2020ファイナリストなど、デザインコンペで数々の受賞経験を持つ。2023年1月に初の単著『「ありそうでなかった」のつくりかた』と『なんとかするアイデア ビジネスに役立つひらめきがすらすら生まれる思考トレーニング』を発売。

取材・文:小山内彩希
撮影:長野竜成
編集:くいしん



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