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街 5

出口の見えない暗いトンネル。

世界から一気に光がなくなったように思えた。

なんとなく描いていた将来像も全て無となった。

夢はあった、目標も。でも俺にはその全てが許されないことを知った。

好きにやりすぎた罰なのかもしれない、神様が課した苦難なのかもしれない。でももうどうでもよかった。

・・・・・・・・・・・・・・あの日の夜は忘れない。

バイトが終わり家に帰ると親父は車に乗って待っていた。

助手席側の後部座席に座り、タバコに火をつける。

「話ってなんだ?」

「あぁ・・・少しドライブでもどうだ?」

「いいけど23時には待ち合わせしてっから、駅に降ろしてくれればいい。」

「わかった・・・」そういうと車は駅に向かった。

「・・・」車内は無言が続き、いたずらに外の風景だけが動いている。

まるで外だけが時間が進み、車内の時間はとまっているかのようだった。

駅の近くの立体駐車場を上っていく、そして屋上に着いた・・・

外に出て夜風を受ける秋が始まる時期・・・冷たい風が通り過ぎていった。

パーカーのフードを深くかぶってマルボロメンソールに火をつける。

となりでも親父ラッキーストライクに火をつけた。

「お前には何も残してやれそうにない。大学の入学金も無理だ。」

そう言って親父は俯いた。

「そうか、わかった。そもそも高校の学費分くらい家に入れてんだから当てにはしてねぇよ。」まっすぐ前を見て答えた。

「すまん。自己破産するから奨学金も申請できない。」下を向いたまま声だけがアスファルトに反射して届く。

「そうなるだろうな。俺はいいから次男の方はしっかりやってやれよ。これから5年ならギリギリ間に合うだろうからな。当面の金はあんのか?とりあえず俺は現金で50万、口座に30万くらいはあるから必要なら渡すけど。」このときはスロットで食えていたから月50万から100万くらい稼いでいた。でも遠征費やガソリン代、食事代は俺が出して打ち子を連れて他県にまで打ちに行っていたから実際の利益は20万から40万くらい、もちろんギャンブルだから負ける時は一日で30万くらい平気で飛んでいた。

「2、3ヶ月分の生活費を工面できれば失業保険が入るんだ・・・」

「そうか」そう言ってポケットから10万の束を4っ渡した。

このときから俺の生きる目的は金を作ることのみになる。

親父は経営者だった。

つっても従業員10人くらいのファミリー企業だけどね。

爺さんの代からやっていたんだけど、爺さんの代から引き継いだ借金にとうとう焼きが回ったといったところだ。

金って不思議だよな・・・無いってなるととことん出て行くようになってる。当時俺は月に30万近く入れていたはずなのにどんどん流れていくんだ。

この頃からかな・・・お前の目は冷め過ぎてるって言われ始めたのは。

・・・・・・・・・・まあ俺は何も変わった気はしていないんだけど。

親父は言葉にならない声で礼を言っていたが、そんなもんはいらなかった。

んじゃ俺は飲んでから帰るから。と告げて立体駐車場のエレベータに乗った。

1階についてすぐに待ち合わせをしていたミクシィーで知り合った女に電話を掛けて、親戚が死んだから今度にしようと適当な事を言ってキャンセルした。

何も考えず、何も感じず、ただ歩いた。

繁華街に入ってキラキラのネオンの下を歩いて、そこを抜けるとシャッターの閉まった商店街、さらに進むと線路と道路が平行した住宅街だ。

とりあえず持ってるタバコを吸いきって、コンビニに寄ってまた新しいタバコを買って歩く。だんだんと空が明るくなる。

気づいたら初めてタバコを吸った高架下に座って朝日が昇るのを見ていた。

別に落ち込んでいたわけじゃない。

女の子とイチャイチャする気分でも、人生最大の絶望の中にいる親といたいわけでも、こんなどうしようも無い事を友人に話す気にもなれなかった。

ただそれだけ。何もかわらない。

学校に行く気になれないから、朝からスロットを打ち行く事にした。

タクシーを止めて24時間やっているサウナに向かう。

ヤクザのオッサンの隣で汗をかく。

ただ黙って北斗にするか、吉宗にするか、それだけを考える。

「・・・北斗だな。」一言つぶやく。

「学校はいいのか?」となりのヤクザが話しかけてきた。

「今日はいいんです。負ける気しないときは打つって決めているんで。」

「そうか、まあがんばれよ。」

「ありがとうございます。お先に・・・」そう言ってサウナの木の扉を開けてでる。

着替えているとメールが来る。

”久しぶりにカラオケ行こうーぜ!夕方連絡すっから!”

中学からのツレの隆二からだ。何か察したか?ってくらいいいタイミングで連絡をよこす奴。くやしいから普通にあってやろう。

”今日は朝から打ってるから切り上げるとき連絡する”

そうメールを打って、腰に手を当てて牛乳を一気飲みして気合いを入れる。

レバーを押すタイミングで抽選されるスロットゲームのように一人一人の人生の抽選もされているのかな・・・

そうだとしたらこんだけイベントが豊富な俺の人生もきっと何か意味があるのか、それとも何の意味もないのかもしれない。

ひとつ言えるのは今日を生きるし、明日も生きる。

若干16歳でクズと呼ばれようとも、クズでも生きていかなきゃ本当に負け犬になっちまう。

このとき心に決めたことがある、死ぬ直前いい。

俺を鼻で笑った奴ら全員が俺の人生を羨む人生にしてやろうと。


この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。







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